異世界で勇者ではなく喫茶店で働いてます

望夢

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新デザート、かき氷

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 リーナを預かる事となって少し揉めたのは彼女の寝る場所だ。

 ゼノンさんの家には空き部屋は無かった。空いていた部屋を自分が使わせて貰っていたからだ。まさか士族の娘を床に寝させるわけにもいかない。それなのに何故ゼノンさんはリーナを預かることを了承したのかわからなかった。それを聞く勇気は残念ながら無かった。

 邪魔でなければゼノンさんの部屋の床か、リビングで横になれば良いと考えていた自分に反対したのはリーナだった。あとからやって来た居候の身でそんな事をさせることは出来ないと。

 話し合いの結果、自分は部屋を譲らずに床で寝る。リーナは自分と同じ部屋でベッドに寝るという事になった。年頃の男女が同じ部屋に寝泊まりして良いのかと疑問に思ったが、互いに不和無く話し合いで決めた結果がそうなった。部屋から追い出すくらいなら自分が床で寝ると言い出すリーナと、そんな事はさせられない自分とでの折衝案がそれだったのだ。

 この世界にも夏はある。

 寝苦しさに目を覚ます。

 まだ陽が登ろうとする時間だ。

 それでも誰かが起きている気配があるのは、もうゼノンさんが起きているからだろう。

 ベッドで寝ているリーナを起こさない様にそっと部屋を出てリビングに向かえばやっぱりゼノンさんが起きていた。

「おはようございます」

「うん。おはよう」

 互いに短い挨拶なのは、まだ寝ているリーナとアイリスに配慮しての事だ。

 まだ街も起きる前の時間に家を出て、家のある城壁の区画を一週ジョギングするのが日課だった。

 ジャイアントトード討伐任務が終わってからは背中にあの大剣を背負って行く事にした。大剣の所在も以後自分の管理になった為に手許には何時でも在る状態だ。

 重さに慣れる為にも、より一層の体力を付ける為にも。重り代わりとしては最適だった。

 何も背負っていなかった時と比べて体力の消耗は倍以上に感じる上に歩みも倍以上に遅い。走るというよりも競歩の様に早歩きがやっとだった。

 一週する頃にはすっかり陽が登っていた。一汗掻いたあとは桶に水を汲んで、手拭いで身体を拭くのがただの水でも冷たくて気持ちが良かった。

 その辺りでリーナもアイリスも起きてくる時間になる。

 朝食を食べたら城に上がるゼノンさんと合わせて自分もシズクさんのお店に向かう。

 店の前の掃除と、サンドイッチの用意を終える頃にリーナがやって来る。シズクさんには話を通して、リーナもウェイトレスとしてお店で働かせて貰っているのだ。社会勉強をするにはアルバイトというのはうってつけである。

 出てくる時間が違うのは、ゼノンさんと自分と一緒にリーナまで来てしまうと、学校の時間までひとりぼっちになるアイリスが寂しくない様に相手を頼んでいるからだ。

 朝の支度を終えた休憩時間で、自分はあることを切り出した。

「実は作ってみたいメニューがあるんですが」

「あら、今度はどんなもので私を楽しませてくれるのかしら?」

 新メニューに関してはシズクさんは嫌がる事なく積極的に聞いてくれる。

 何が出てくるのか楽しみだと言わんばかりのシズクさんに応える為に口を開いた。

「かき氷って、知ってますか?」

「かきごおり? いったいどんなものなの?」

 シズクさんの反応から、かき氷が少なくとも身の回りには無いことを掴む。ハンバーガーもどきサンドイッチの時も同じ感じだった。

「氷を削って作るデザートです。最近暑くなってますから売れると思います」

「氷を削るのねぇ。氷があれば今作れそうかしら?」

「道具は用意しましたからすぐにでも」

「じゃあ、お願いしようかしら」

 街の工房で作って貰った逆さまにしたかんなの四隅に足を付けた特注品を使って、魔法でシズクさんが作った氷を削る。数回削っては削り具合を確かめて丁度良い刃の深さを探る。

 微調節をして本格的に氷を削って行く。気分はスライサーでも使っているような感覚で、足のある逆さのかんなの上に氷を滑らせて削って行く。

 シロップなんてものは無いからオレンジの搾り汁を代用した。

 出来上がったかき氷は3人前。見慣れている自分はともかく、はじめてのかき氷をシズクさんとリーナは不思議そうに見ている。

 先にスプーンで掬って食べる。定番のイチゴ、ブルーハワイ、メロン、レモンからは少し外れているオレンジだけれども普通に美味しかった。口の中での溶け方も普通にかき氷だった。

「冷たくて美味しい。かけるものも果物で良いのなら手間は削るだけなのね」

「こ、こんなもの、はじめて口にしました……」

 女子ウケが良いという事はこの店でも出せば売れるという証拠だ。

「うっ、イタっ」

「あぅ…頭が…」

「あっ、アイスクリーム頭痛も知らないのか……」

 頭を抑える2人に頭痛の原因と仕組みについて知っている範囲で言葉を尽くして説明する。この国でそこまで冷たいものを食べる機会が無かった様だ。

「どうでしょう。イケますか?」

「そうね。イケると思うわ。氷の魔法は主婦なら習得する魔法だから注文を受けて氷も出して貰う仕組みにすれば…」

 細かい事はまた後日決める事にして、一先ずは限定食にして実際に掛かる手間と評判を見る事になった。



◇◇◇◇◇



「ユーリ、これはなにかしら?」

 お店で出すかき氷1号は常連客の1人のフェルトさんの手に渡った。

「自分の国のデザートで、氷を削ったかき氷という食べ物です。試食、お願い出来ますか?」

「ええ。良いわよ」

 快く引き受けてくれたフェルトさんがかき氷を口に入れる。

「冷たくて不思議な食べ物ね。口に入れた途端に溶けてしまったわ。これは雪なのかしら?」

「雪という感想は近いと思います。氷を限り無く薄く削っているのでこの様に雪に見えるんです。どちらも氷の結晶の集まりという点では同じですね」

「そうなの? ユーリは物知りね。このデザートはとても美味しいわ」

 掴みは上々。これなら夏場の人気メニューとして売り出せそうだ。いや、暑い夏にかき氷が売れないハズがない。

「これなら暑い時に進むし喉も潤う感じだわ。美味しかったわよユーリ」

「ありがとうございます」

 好感を貰えた事に礼を述べる。

 その後も常連客にかき氷を提供して行って、暑い事も手伝って初日の印象は良い感じだった。

 ただ手で削るというのは思っていたよりも労力が掛かる。日本でなら100均でも売ってるかき氷機がこの国には無い。

 手間を考えると、かき氷を商品として扱うならかき氷機は必要に思えた。

 仕事を終えたあとは普段なら城に向かうのだが、今日は寄り道をすることにした。

「ここは、工房ですか?」

「ああ。ここで店の道具を幾つか造って貰ってるんだ」

 リーナを連れ立って寄った寄り道は、お世話になっている工房だった。エスタリアでも腕利きの職人の工房である。

「なんだユーリか。またぞろおかしな道具の注文か?」

「こんにちはシドさん。はい、造って欲しい道具が増えまして」

 工房の主、シドさんは職人は固いというイメージには沿わず気の良い人だ。

 逆さにしたかんなに足を取り付けてくれたのもこのシドさんだ。

 シドさんに注文するのは逆さにしたかんなと組み合わせて使うかき氷機だ。

「また複雑そうな注文だな。が、ここまで書かれた図面があって出来ないとあっちゃ職人の名折れだ。必ずモノにしてやるから待ってな」

「はい。よろしくお願いします」

 簡単に書けるだけの図面は紙に書いて、それをシドさんに渡して、幾つか口頭でもどんな風に使うのかを改めて伝えて依頼は完了である。

 既に刃にあたる部分は造って貰ったので、あと必要だったのはスパイクの付いた取っ手と、それを支える台座だ。

 100均やホームセンターに行けば夏場は簡単に手に入るかき氷機も、こうしてひとつひとつを腕の立つ職人に注文しないと造れないのが難点である。

 スペシャルサンドイッチの売れ行きが好調だからこそ出来る設備投資であった。

「勇者さまはお料理も出来て、職人の方ともああして品物についても語り合えるなんて、とても多才な方なのですね」

「そんな事ないさ。俺の国にあったものを真似してるだけだから」

 かき氷も、かき氷機も自分が考えたものではないから尊敬の目を向けられても困ってしまうのだった。



◇◇◇◇◇



 寄り道を終えて城に上がると、することは素振りとこれ迄に習った型の確認だ。

 ただ、背負えるとはいえ、城の中ではあの大剣を振り回すのは危険だった。重すぎて逆に振り回される。肩に担ぐのさえ一苦労。ジャイアントトードと戦った時は一応は振り回せた大剣が今はそうではない。その違いがあるのは身体の軽さのあの感覚だ。

 マナイード──マナが噴き出す場所であったから出来た事だとくらいしか思い当たるものがない。

「リーナ、マナについて何か知ってるか?」

「マナですか? はい。マナは魔力の源、魔法には欠かせないものです。マナはわたし達の身の周りの何処にでもあり、わたし達の身体の中にもあります」

「何処にでもある、か…」

 何処にでもある。それは討伐任務の時にマナイードの近くで空気が変わった事から大気中には当然あるものなのだろう。

 そして身体の中にもあると言われてイメージしてみる。あの時の感覚は思い出せる。あとは光を集めてみるのもイメージしてみる。

 するとじわじわとだが、また身体が軽くなっていく様な気がしなくもない。

 もう一度、マナイードに行ってみないと確証が持てない。

 幸いにして明日はお店はお休みだから時間はある。

「リーナ、明日は討伐任務の時に行ったマナイードに出掛けてくるよ」

「そうなのですか? わたしもお供致しますっ」

「いや。明日はお店も休みだからゆっくりしてても良いんだけど」

「いいえ! わたしは勇者さまにお仕えする身です。勇者さまのお行かれになられる場所へは何処へでもお供しますっ」

 身を乗り出す勢いで言われてしまうと断るのも躊躇ってしまう。仕えられるという感覚も未だに慣れないものだった。

 ともあれ、身を守るという意味では自分よりもリーナの方が心配は要らないだろう。

 マナについては生命力を回復させるものの他に、魔力の源であることも知れた。

 ならあとは実際にマナが豊富な場所で検証してみたい事が山積みで、今から楽しみで眠れるか少し心配だった。




つづく。 

 
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