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2章 雪女と氷の女王
7話 下手くそな贈り物
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「雪女様聞いてください!色々と妖怪について勉強をしてきました!」
うるさい声が氷の塔の下で聞こえる。まるで構って欲しい犬のようだ。
ダイヤが帰った後にも来て、その次の日にも来て。また次の日にもこうやって声をかけて。ヒートヘイズの王子様は暇なのだろうか。
私は呆れた声でイグニに返事をする。
「雪女ではありません。フロスです」
「存じ上げております!」
「だったらその名前で呼びなさい!?」
「僕だけの特別な呼び方が欲しいのです!」
何回も交わしたこのやりとり。しかしイグニは嫌そうな声もせずに何度も答えてくれた。
「そういえば僕が差し上げた本はお読みになられましたか?」
「あんなもの読んでません」
「そうですか!では一緒に読みましょう!まずは代表的な神獣から。12ページを開いてください!」
「何故読まなくてはならないのですか!?そして貴方の分まで用意してあるのですか!?手書きの絵本を!」
「やはり中を見ては下さったのですね!」
「あっ、いや……」
失言を漏らしてしまった。それを聞いたイグニは嬉しそうな声を出している。私はこめかみ部分を押さえながら後悔した。
「では僕が1番好きな神獣をご紹介します!それは15ページにあるフェニックスです!別名不死鳥と呼ばれる存在で、火を纏うとされています」
フェニックス…。聞いたことのない獣の名前だ。
私は本棚に一切向かわず椅子に座ってイグニの話を聞いている。ペラペラ喋る姿はまるで幼い子供に勉強を教えているようだった。私は子供ではないけど。
「僕は不死鳥のような存在になるのが夢です!」
「では死にたくないということでしょうか?」
「ええ、勿論!だって雪女様は人よりも長い生涯を生きると聞いています!そのお側にずっと僕は居たいのです!」
「………」
イグニはどこまで私のことを知っているのだろう。
雪の女神となった私は確かに普通の人間よりも長い時を過ごさなければならない。それは妹のダイヤよりも、その後産まれる子よりもずっと。
『可哀想な呪いだこと』
先日ダイヤに言われた言葉が蘇る。食事を楽しめないこと、気温が高い場所に行けないこと。それも確かに呪いの一部だ。
でも最も厄介なのは次の継承者が現れない限りは死ねないというものだろう。それが雪の女神の使命。産まれた時は人間だった私は今は神同様の存在なのだ。
「貴方は本当に現実を知らない人ですね」
「ハハッ!よく言われます。楽観的だと」
「王子ならそれを直したらどうですか?」
「こんな王子が世の中に1人くらい居た方が楽しくなりますよ!」
何というか…バカだ。私は氷の塔から顔を出さないのでイグニの顔を知らない。
ただうるさい声だけで想像している。今私の頭の中に浮かぶイグニは鼻水を垂らしたクソガキの顔。何だか苛立ってきた。
「雪女様にもピッタリの神獣を紹介します!」
「どうせ妖怪のような獣なのでしょう」
「まさか!20ページを開いてください!」
開く前に私の手元には何もないのですが?また、ため息が出てしまう。
「紹介しましょう!ユニコーンです!以前少しだけ話したツノが生えた馬のこと。とても綺麗で優雅で…まるで雪女様のよう!」
直接会ったこともないくせによく綺麗で優雅なんて言えたものだ。イグニは続けてユニコーンとやらの説明をベラベラ喋る。口が疲れないのだろうか。私はもう相手するのが疲れてきた。
「……という感じの神獣です。どうでしょうか?」
「…………」
「ふむ。そろそろ時間のようですね。また来ます!」
私がイグニの言葉に返事を返さなければ彼はすぐさま氷の塔から去っていく。諦めるところはキッパリと諦めてくれるのだが、私のことは諦めてくれないらしい。
イグニから見えないように私は立ち上がって帰っていく後ろ姿を見る。今日は男性の従者と共に来ていたようだ。そんな従者は青白い顔をしてガクガク震えていた。
「あの人、本当に寒さに弱いのですね…」
イグニはそんな従者を軽々と背負って氷の塔から去って行く。あの男性と来る時はお決まりの流れだ。
逆に女性と来る時は2人で談笑しながら帰っている。私が知る限りでは交代でイグニに着いて行ってるらしい。
「……見てみましょうか」
また椅子に座ってゆっくりとしようとするけど本棚が目に入ってしまう。その1番端にある手作り感満載の本を手に取るとイグニが言っていた15ページを開いてみた。
「フェニックス」
何度見ても原型がわからない。これは…翼?ぐちゃぐちゃに書かれたものは火だろうか。
子供でももう少しは描けるはずだ。そんなイグニの絵心の無さに少しだけ笑ってしまう。
「そしてこれが、ユニコーン」
20ページを開けばこれまた何かわからない獣。馬と言うよりも四足歩行のゴミ。
ツノであろう部分は体部分よりも長くて気持ち悪い。本当にこれがユニコーンなのか。こんな獣が綺麗で優雅?
「ほんっとにバカバカしい」
言っていることと絵が矛盾している。そんな獣を私に例えたのだ。普通なら氷漬けにしてやりたいけれども……私は笑っていた。
「これの何処が馬なのですか?字は綺麗なのに、台無しですよ」
こうなってしまえば他のページも読みたくなってくる。遂に本棚から離れて椅子に座り、真剣に読む体勢になった。
しばらくは暇せずに済むだろう。手の中にある本が、私を笑わせてくれるのだから。
うるさい声が氷の塔の下で聞こえる。まるで構って欲しい犬のようだ。
ダイヤが帰った後にも来て、その次の日にも来て。また次の日にもこうやって声をかけて。ヒートヘイズの王子様は暇なのだろうか。
私は呆れた声でイグニに返事をする。
「雪女ではありません。フロスです」
「存じ上げております!」
「だったらその名前で呼びなさい!?」
「僕だけの特別な呼び方が欲しいのです!」
何回も交わしたこのやりとり。しかしイグニは嫌そうな声もせずに何度も答えてくれた。
「そういえば僕が差し上げた本はお読みになられましたか?」
「あんなもの読んでません」
「そうですか!では一緒に読みましょう!まずは代表的な神獣から。12ページを開いてください!」
「何故読まなくてはならないのですか!?そして貴方の分まで用意してあるのですか!?手書きの絵本を!」
「やはり中を見ては下さったのですね!」
「あっ、いや……」
失言を漏らしてしまった。それを聞いたイグニは嬉しそうな声を出している。私はこめかみ部分を押さえながら後悔した。
「では僕が1番好きな神獣をご紹介します!それは15ページにあるフェニックスです!別名不死鳥と呼ばれる存在で、火を纏うとされています」
フェニックス…。聞いたことのない獣の名前だ。
私は本棚に一切向かわず椅子に座ってイグニの話を聞いている。ペラペラ喋る姿はまるで幼い子供に勉強を教えているようだった。私は子供ではないけど。
「僕は不死鳥のような存在になるのが夢です!」
「では死にたくないということでしょうか?」
「ええ、勿論!だって雪女様は人よりも長い生涯を生きると聞いています!そのお側にずっと僕は居たいのです!」
「………」
イグニはどこまで私のことを知っているのだろう。
雪の女神となった私は確かに普通の人間よりも長い時を過ごさなければならない。それは妹のダイヤよりも、その後産まれる子よりもずっと。
『可哀想な呪いだこと』
先日ダイヤに言われた言葉が蘇る。食事を楽しめないこと、気温が高い場所に行けないこと。それも確かに呪いの一部だ。
でも最も厄介なのは次の継承者が現れない限りは死ねないというものだろう。それが雪の女神の使命。産まれた時は人間だった私は今は神同様の存在なのだ。
「貴方は本当に現実を知らない人ですね」
「ハハッ!よく言われます。楽観的だと」
「王子ならそれを直したらどうですか?」
「こんな王子が世の中に1人くらい居た方が楽しくなりますよ!」
何というか…バカだ。私は氷の塔から顔を出さないのでイグニの顔を知らない。
ただうるさい声だけで想像している。今私の頭の中に浮かぶイグニは鼻水を垂らしたクソガキの顔。何だか苛立ってきた。
「雪女様にもピッタリの神獣を紹介します!」
「どうせ妖怪のような獣なのでしょう」
「まさか!20ページを開いてください!」
開く前に私の手元には何もないのですが?また、ため息が出てしまう。
「紹介しましょう!ユニコーンです!以前少しだけ話したツノが生えた馬のこと。とても綺麗で優雅で…まるで雪女様のよう!」
直接会ったこともないくせによく綺麗で優雅なんて言えたものだ。イグニは続けてユニコーンとやらの説明をベラベラ喋る。口が疲れないのだろうか。私はもう相手するのが疲れてきた。
「……という感じの神獣です。どうでしょうか?」
「…………」
「ふむ。そろそろ時間のようですね。また来ます!」
私がイグニの言葉に返事を返さなければ彼はすぐさま氷の塔から去っていく。諦めるところはキッパリと諦めてくれるのだが、私のことは諦めてくれないらしい。
イグニから見えないように私は立ち上がって帰っていく後ろ姿を見る。今日は男性の従者と共に来ていたようだ。そんな従者は青白い顔をしてガクガク震えていた。
「あの人、本当に寒さに弱いのですね…」
イグニはそんな従者を軽々と背負って氷の塔から去って行く。あの男性と来る時はお決まりの流れだ。
逆に女性と来る時は2人で談笑しながら帰っている。私が知る限りでは交代でイグニに着いて行ってるらしい。
「……見てみましょうか」
また椅子に座ってゆっくりとしようとするけど本棚が目に入ってしまう。その1番端にある手作り感満載の本を手に取るとイグニが言っていた15ページを開いてみた。
「フェニックス」
何度見ても原型がわからない。これは…翼?ぐちゃぐちゃに書かれたものは火だろうか。
子供でももう少しは描けるはずだ。そんなイグニの絵心の無さに少しだけ笑ってしまう。
「そしてこれが、ユニコーン」
20ページを開けばこれまた何かわからない獣。馬と言うよりも四足歩行のゴミ。
ツノであろう部分は体部分よりも長くて気持ち悪い。本当にこれがユニコーンなのか。こんな獣が綺麗で優雅?
「ほんっとにバカバカしい」
言っていることと絵が矛盾している。そんな獣を私に例えたのだ。普通なら氷漬けにしてやりたいけれども……私は笑っていた。
「これの何処が馬なのですか?字は綺麗なのに、台無しですよ」
こうなってしまえば他のページも読みたくなってくる。遂に本棚から離れて椅子に座り、真剣に読む体勢になった。
しばらくは暇せずに済むだろう。手の中にある本が、私を笑わせてくれるのだから。
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