【完結】雪女と炎王子の恋愛攻防戦

雪村

文字の大きさ
7 / 53
2章 雪女と氷の女王

7話 下手くそな贈り物

しおりを挟む
「雪女様聞いてください!色々と妖怪について勉強をしてきました!」


うるさい声が氷の塔の下で聞こえる。まるで構って欲しい犬のようだ。

ダイヤが帰った後にも来て、その次の日にも来て。また次の日にもこうやって声をかけて。ヒートヘイズの王子様は暇なのだろうか。

私は呆れた声でイグニに返事をする。


「雪女ではありません。フロスです」

「存じ上げております!」

「だったらその名前で呼びなさい!?」

「僕だけの特別な呼び方が欲しいのです!」


何回も交わしたこのやりとり。しかしイグニは嫌そうな声もせずに何度も答えてくれた。


「そういえば僕が差し上げた本はお読みになられましたか?」

「あんなもの読んでません」

「そうですか!では一緒に読みましょう!まずは代表的な神獣から。12ページを開いてください!」

「何故読まなくてはならないのですか!?そして貴方の分まで用意してあるのですか!?手書きの絵本を!」

「やはり中を見ては下さったのですね!」

「あっ、いや……」


失言を漏らしてしまった。それを聞いたイグニは嬉しそうな声を出している。私はこめかみ部分を押さえながら後悔した。


「では僕が1番好きな神獣をご紹介します!それは15ページにあるフェニックスです!別名不死鳥と呼ばれる存在で、火を纏うとされています」


フェニックス…。聞いたことのない獣の名前だ。

私は本棚に一切向かわず椅子に座ってイグニの話を聞いている。ペラペラ喋る姿はまるで幼い子供に勉強を教えているようだった。私は子供ではないけど。


「僕は不死鳥のような存在になるのが夢です!」

「では死にたくないということでしょうか?」

「ええ、勿論!だって雪女様は人よりも長い生涯を生きると聞いています!そのお側にずっと僕は居たいのです!」

「………」


イグニはどこまで私のことを知っているのだろう。

雪の女神となった私は確かに普通の人間よりも長い時を過ごさなければならない。それは妹のダイヤよりも、その後産まれる子よりもずっと。


『可哀想な呪いだこと』


先日ダイヤに言われた言葉が蘇る。食事を楽しめないこと、気温が高い場所に行けないこと。それも確かに呪いの一部だ。

でも最も厄介なのは次の継承者が現れない限りは死ねないというものだろう。それが雪の女神の使命。産まれた時は人間だった私は今は神同様の存在なのだ。


「貴方は本当に現実を知らない人ですね」

「ハハッ!よく言われます。楽観的だと」

「王子ならそれを直したらどうですか?」

「こんな王子が世の中に1人くらい居た方が楽しくなりますよ!」


何というか…バカだ。私は氷の塔から顔を出さないのでイグニの顔を知らない。

ただうるさい声だけで想像している。今私の頭の中に浮かぶイグニは鼻水を垂らしたクソガキの顔。何だか苛立ってきた。


「雪女様にもピッタリの神獣を紹介します!」

「どうせ妖怪のような獣なのでしょう」

「まさか!20ページを開いてください!」


開く前に私の手元には何もないのですが?また、ため息が出てしまう。


「紹介しましょう!ユニコーンです!以前少しだけ話したツノが生えた馬のこと。とても綺麗で優雅で…まるで雪女様のよう!」


直接会ったこともないくせによく綺麗で優雅なんて言えたものだ。イグニは続けてユニコーンとやらの説明をベラベラ喋る。口が疲れないのだろうか。私はもう相手するのが疲れてきた。


「……という感じの神獣です。どうでしょうか?」

「…………」

「ふむ。そろそろ時間のようですね。また来ます!」


私がイグニの言葉に返事を返さなければ彼はすぐさま氷の塔から去っていく。諦めるところはキッパリと諦めてくれるのだが、私のことは諦めてくれないらしい。

イグニから見えないように私は立ち上がって帰っていく後ろ姿を見る。今日は男性の従者と共に来ていたようだ。そんな従者は青白い顔をしてガクガク震えていた。


「あの人、本当に寒さに弱いのですね…」


イグニはそんな従者を軽々と背負って氷の塔から去って行く。あの男性と来る時はお決まりの流れだ。

逆に女性と来る時は2人で談笑しながら帰っている。私が知る限りでは交代でイグニに着いて行ってるらしい。


「……見てみましょうか」


また椅子に座ってゆっくりとしようとするけど本棚が目に入ってしまう。その1番端にある手作り感満載の本を手に取るとイグニが言っていた15ページを開いてみた。


「フェニックス」


何度見ても原型がわからない。これは…翼?ぐちゃぐちゃに書かれたものは火だろうか。

子供でももう少しは描けるはずだ。そんなイグニの絵心の無さに少しだけ笑ってしまう。


「そしてこれが、ユニコーン」


20ページを開けばこれまた何かわからない獣。馬と言うよりも四足歩行のゴミ。

ツノであろう部分は体部分よりも長くて気持ち悪い。本当にこれがユニコーンなのか。こんな獣が綺麗で優雅?


「ほんっとにバカバカしい」


言っていることと絵が矛盾している。そんな獣を私に例えたのだ。普通なら氷漬けにしてやりたいけれども……私は笑っていた。


「これの何処が馬なのですか?字は綺麗なのに、台無しですよ」


こうなってしまえば他のページも読みたくなってくる。遂に本棚から離れて椅子に座り、真剣に読む体勢になった。

しばらくは暇せずに済むだろう。手の中にある本が、私を笑わせてくれるのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...