【完結】優しい君に「死んで」と言われたある夏の日

雪村

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夏休み中旬前 私と海

初めての風景

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しかしそこまで力が入ってしまっていたか。

私は肩を少し動かす。

涼にバレるくらいなのだから分かりやすく出ていたのだろう。

青年に海を連れてくるためにと、気合を入れたつもりが緊張まで付けてしまったらしい。

体の力を抜かないと描けるものも描けないよなと思って私は少し深呼吸した。

その瞬間に鼻から強い海の香りが吸い込まれる。

前から建物が少なくなって隙間の方から一面真っ青なものが目に入る。



「おっ、見えた」

「海…」



思わず目を大きく開いてしまう。

初めて見た実物の海。

テレビで見るよりもキラキラと輝いている。

太陽の光が反射して眩しい。

間近に居なくても私は目を細めてしまった。



「ここから見る限りだと、そこまで混んでいなさそうだな」

「よく見えるね。眩しくて目が開かない」

「本当だ。目が潰れてる」

「潰れてるとか言わないでよ」



涼に悪口を言われても私の目は開けられない。

私は少し俯きながら涼と一緒に真っ直ぐ向こうにある海へと歩いていった。



ーーーーーー



浜辺に着くと涼は自分のリュックからレジャーシートを取り出す。

ジュースと同じく準備がしっかりしているなと思った。

ちょうど木で日陰になっている場所を見つけて私達は荷物を置く。

チラッと周りを見るが人は居るけどそこまで多いわけではなかった。

これなら集中して絵を描けそうだ。

私は早速、涼が持ってくれていた画材を取り出す。

画用紙を板の上に置いて絵の具もパレットの横に添えて周りの準備は完了した。

後は水を持ってくるだけ。



「私、水汲んでくる」

「水なら目の前にあるぞ」

「真水だよ」



ボケをする涼を速攻で切ると私は水道へ足を運ぶ。

涼も追いかけるように後ろから走って来た。



「別にバケツにやるわけじゃないから重くないよ?」

「俺は水着に着替えてくる。それと途中まで護衛だ」

「護衛?なんで」

「護衛は護衛」

「そ、そう…」



護衛というのは最後まで付き添うものではないのか?

私はよくわからなくなりながらすぐに着いた水道付近で涼と別れる。

別れ際に「知らない人に着いて行くなよ~」と小さい子に言い聞かせるように言われて。

私は少しムカつきながら、小さいコップに水を汲んだ。

ーーーーーー

私と涼のレジャーシートへ戻ると、まだ涼は帰って来てないらしく誰も居なかった。

2人して荷物置きっぱなして歩くのは危ないなと私は反省する。

しかし詳しく考えれば私が先に離れたので後から着いてきた涼に何かあれば責任を取ってもらうことになる。

涼なら平謝りで済ませようとしそうだけど。

私はシートに座ってなるべく木陰に身が隠れるように移動した。

改めて目の前に広がる海を見つめる。

場所はもうここで良いだろう。

もしかしたら他にも綺麗な角度はあるかもしれないけど、変に凝るよりも真っ正面から描いた方が伝わりやすい気がする。

まぁ本心を言えばもう動きたく無いから。

私は体育座りをした太ももの上に板と画用紙を載せて、まずは鉛筆で下書きをする。

鋭く尖って勉強に使えなさそうなこの鉛筆は美術部の特徴だ。

私の場合この尖りを見ると、「絵を描くぞ!」という気分になれる。

そう思いながら静かに鉛筆を動かして始めた。



「さーくら」

「ん?」



せっかく始めたというのに呑気な声が聞こえて鉛筆は止まる。

私は嫌そうな顔をして声の主を見ると、表情は一瞬で元に戻った。



「どう?似合う?」



程よく割れた腹筋はいかにも運動部らしい。

腕も足もムキムキじゃない具合の筋肉だった。

これを細マッチョと呼ぶのかと私は思う。



「何?見惚れちゃった?」

「ちょっと待って」



私は板と画用紙を置いて自分のカバンの中を漁る。

ちゃんと持って来たはずだから奥の方に落ちているのだろう。



「何?撮影?いいよ、桜なら」

「待ってって」

「どうせなら記念写真撮ろう!自撮りにする?それとも撮ってもらう?」

「はい。これ」



私は筒状のものを涼に渡す。

涼はそれを受け取って表面を見ると何これ?と眉を寄せた。

私は涼の姿を見て居ても立っても居られなかったのだ。

その真っ白な肌に。



「日焼け止めスプレー。そんな白いと後で真っ赤になってお風呂入る時に痛くなっちゃうよ。皮も剥けるらしいからやっておきなよ」

「………おう」



急に大人しくなった涼はキャップを外すと無言で自分の体にスプレーを振りかける。

短パンの水着だと出る部分も多いからスプレーで良かったのかもしれない。

元は私が使う予定だったが、今は涼の体の方が危ない。

腕と足しか出てない私は後ででも十分だ。

前側を全てかけ終わった涼は背中にもかけようと体を捻る。

私はスプレーを取り上げて後ろを向かせた。



「ジッとしててね」

「はーい」



背中にスプレーを満遍なくかける。

私よりも大きい背中は、私よりも白くてなんだかムカついた。

スプレーをかけ終えると私はバチン!と背中を叩く。

「うお!」なんて声を出しているけど絶対痛く無いんだろうなと思った。



「なんだよ」

「白くてムカついた」

「酷っ」

「うるさい。ほら泳いできたら?」



日焼け止めスプレーをカバンにしまうと私はまたさっきと同じ姿勢に戻り海の下書きを描き始める。

すると立っていた涼は私の隣に座った。



「行かないの?」

「見ていたい」

「見ててもつまらないと思うけど」

「全く」 

「ふーん」



水着姿の涼とワンピース姿の私。

もし私も水着だったら他の人からどういう風に見られるのかな。

私は尖った鉛筆を動かしながら涼の視線を感じていた。
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