【完結】優しい君に「死んで」と言われたある夏の日

雪村

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夏休み中旬前 私と海

男友達と

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「おーっす桜~」

「もう少し余裕持って行動出来ないの?」



8月に入って初めての土曜日。

私は涼との待ち合わせ場所の駅でイライラしていた。

予定していた電車の出発時間が迫っているのに一向に来なかった涼。

電車に乗り遅れたって数分待てば次の電車が来るから問題無いけど、時間を指定した本人が遅れるのはなんだか許せなかった。

結果的には間に合ったわけだが、一度発生したイラつきは収まらない。

2人して電車に乗り込んで席に座ると少しの反抗心で私は持っていた画材を涼の膝の上に置いてやった。



「重っ」

「遅刻した罰」

「遅刻じゃねぇよ。ギリだよギリ」

「寝坊したの?」

「買い出し。飲み物買ってきた」

「はぁ?海の家で帰るじゃん。自販機だってあるのに」

「わかってないなぁ。駅に着いたって真っ正面に海ってわけじゃないんだぜ?少し歩くんだよ。その間の飲み物。着く前に熱中症になったら困る。まさかコンビニのレジがおじいちゃんとは思ってなかったけど…」

「……」



私は黙って涼に預けた画材を自分の膝に乗せる。

その行動が笑えたのか涼はフッと声を出した。



「許してくれた?」

「怒ってない」

「そっかそっか。ひとまずこれは没収な」

「あっ、ちょっと」



今度は自分から画材を膝の上に乗せる涼。

私が取り返そうとすると代わりにレジ袋に入った2本の飲み物を置かれた。



「重い方は俺が持つ。誘ったのは俺だからな」

「…ありがとう」

「惚れた?」

「惚れない」



即答するとわかりやすいように拗ねる。

今度は私が笑ってやる番だ。

すると涼は余計に唇を尖らせた。

まるで小さな子供のよう。

宥めるように私は顔を覗き込む。



「まぁ、涼に恋してる人なら惚れるんじゃない?」

「ふーん。そんな人いるのかね~」 

「世界に1人くらい?」

「こんな広いのに1人かよ…」



ガクッと肩を下げた涼に対して私はまた笑いが止まらなかった。

電車だから静かに笑うけど、本当は大笑いしたいくらい面白い光景。

きっとあの青年の前ではこんな私は見せられないなと思った。

顔を上げた涼は片手で私の画材が入っているバッグを持つ。

「やっぱり重てぇ」と言いながらまた膝に置いた。



「こんだけ重いなら気合い十分だな」

「そうだね。後は良い風景が見つかれば最高なんだけど」

「これから行くのはそこまで有名な海じゃないから人がごちゃごちゃしてないはず。海の家も小さいらしいから食事は全制覇出来そうだな」

「それは自分のために選んだの?私のため?」

「お嬢の桜ちゃんに人がゴミのようにいる場所には連れて行きませんよ~」

「うざ」

「お嬢は否定しないんだな」

「うん」

「……そっか。金持ちは自信が違うな」

「すぐ凹むんだから…」



尽きない会話はまだ海に着いてないのに私を楽しませてくれた。

今回計画してくれた涼には感謝だなと改めて思う。

でなきゃ自分で海なんて行こうとも思わなかったし、青年のために絵を描くことは出来なかった。

涼が言ったように今日の私の腕は気合い十分。

海を連れてくると約束したのだから、本物のように描いてやろう。

電車の中で通り過ぎる風景を見ながら私はまた一段気合が高まった。

ーーーーーー

海の最寄駅に着いた私達は扉が開いて踏み出すと同時に空気感が変わった気がした。



「海だ…」

「海だね…」



涼も同じ気持ちのようなので勘違いでは無さそう。

潮の香りと言うのか。

とりあえず海という感じだ。

私達にこれを言葉にする語彙力は持っていない。

駅を出て、海までは徒歩で歩く。

涼と小さな日陰を取り合いながら海に近づいていた。



「あっちー」

「飲む?」

「飲む~」



私は持っていたレジ袋からジュースを取り出して手渡す。

ちゃんとペットボトルのキャップを緩めてあげるとニコッと笑って受け取る涼。

電車を出てからも、私の画材は涼が持っててくれているので少し申し訳ない気持ちになりながらも力持ちの涼に甘えた。



「うめ~!桜も飲んでいいぞ?」

「うん。でもまだ大丈夫」

「熱中症になるなよ」

「わかってるよ」



私は水分を摂った涼からペットボトルを受け取り、またレジ袋にしまう。

まだ海は建物の奥で見えてない。

日陰に入っているとはいえ、私もちょくちょく飲んだ方がいいな。

この暑さだとやられてしまいそうだ。

私は極力太陽を浴びないように建物の影に隠れる。

既におでこはしっとりしていた。



「そういえば涼は海で何するの?食べる以外で」

「んー、何しよう…」

「泳ぐの?」

「水着は持ってきた」

「準備万端だね」

「桜は泳がねぇの?」

「私は絵を描きにきただけだから」

「ふーん」

「え、私の水着見たかったの?」

「違うわ!」



慌てて大きな声でツッコむ涼に対して私は吹き出すように笑う。

電車ではちゃんと笑えなかったからか、止まらなかった。



「そんなに慌てなくても…ふはっ」

「お前が変なこと言うからだろ!」

「ははっ、ダメだ面白い!流石思春期男子」

「お前だって俺と同い年だろ…」

「大丈夫。私は涼の水着姿見てもなんとも思わないから」

「俺が変態みたいに言うなよ」



笑いが止まらない私と、眉を寄せて私を軽く睨みつける涼。

するとさっきまでは恥ずかしがって怒っていたのに、急に安心したように涼は微笑んだ。



「え?何?」

「なんか朝から変だったから。海行くだけなのに力入ってるし、少し難しい顔してるし。だからやっと笑ったなって思って」

「電車の中でも笑ったけど?」

「今の笑いの方が柔らかい。俺はそっちの方が好きだよ」



そう言うと私の頭に空いている手を乗せて撫でた。

私達は身長差があるから背が高い涼は撫でるなんて容易いこと。

それでもなんだか恥ずかしくなって私は思わず手を振り払う。



「……髪乱れる」

「はいはい。どうせ海行けば風で崩れるのに」

「うるさいなぁ」



サッパリ髪の涼なら関係ない話だ。

同意されないのはわかってる。

口では可愛くない言葉ばかり言い並べているけど、内心は驚きと涼の優しさに触れたせいか戸惑っていた。
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