【完結】優しい君に「死んで」と言われたある夏の日

雪村

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無月無日 僕の意味

海辺博貴

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目が覚めると見慣れない光景に頭がおかしくなったかと勘違いしてしまう。

しかしすぐに覚醒して、ここは高級ホテルだと言うことに気づいた。

夢ではなかった。

正直夢であって欲しかった。

そうすればお姉ちゃんの事も全てが夢オチで終わってくれたはずだから。

でも現実は現実。

僕は1人で家にいるのが怖いから男性に連れてきてもらったホテルにいる。

慣れないバスローブがはだけていて上半身は裸同然の格好だった。

ふかふかのベッドを降りて時刻を確認する。

朝の7時前だ。眠れたと言えば眠れた。

しかしぐっすり眠れたわけではない。

でもこのベットじゃなければここまで寝れなかっただろう。

高級ベッドに感謝した。

そして僕はまた時計を見ると、目が大き開きシワが寄る。

今日は平日だ。そして学校だ。

どうすれば良いのだろう。

スマホなんて持ってないからお母さんに連絡ができない。

それに学校の電話番号だって知らない。

僕は慌て始める。

とりあえずバスローブを脱いで昨日の服に着替えよう。

急いでシャワールームに入り、昨日脱ぎ捨てた服達を着る。

連続して着るのには抵抗感があったけど、こればかりはしょうがない。

変えが無いのだから。

一瞬と言って良いほどの速さで着替えを終えると、インターホンが鳴る。

もしかして昨日のようにルームサービスの方が来たのかなと思って僕はシャワールームから扉へ移動した。

伺うようにゆっくりと開けるとそこにはスーツ姿の男性。



「あ…」

「おはよう。よく眠れたかな?ちょうど来た時にスタッフと出会したのでこれを運びに来たよ」



男性はワゴンを引いて僕の部屋に入る。

扉が閉まらないように抑える僕の横を通ると、部屋の中のテーブルまで運んでくれた。



「ありがとうございます」

「良いんだ。私の事は気にせずに食べてくれ」



何から何まで頼りっぱなしだ。

男性はテーブルに食事を並べてくれる。

僕は昨日の夕食と同じ椅子に座ると、その向かい側の椅子に男性が座った。



「昨日はよく眠れたかな?」

「ま、まぁ…」

「状況が状況だ。ぐっすりは眠れないか」



笑って男性は僕を見る。

そんなにジッと見られると食べづらい。

僕はそれを誤魔化すように男性に話をした。



「あの、昨日ケーキありがとうございました」

「せめてものお祝いさ。気に入ってくれたかな?」

「はい。とても美味しかったです。でもなんで僕の誕生日を…」

「前に君のお父さんから聞いたんだ。それなのに昨日は大変だったね…」

「い、いえ。お姉ちゃんが悪いわけじゃ無いので」

「今日は君をご両親の元へ送り届けよう。学校の事は心配しなくて良い。そう言うのは大人に任せておきなさい」

「はい」



僕が今質問したい事を全て言ってくれる男性にゾワっとする。

まるで心を見透かされたようで気味が悪くなってしまった。

僕は苦笑いをしながら食事を頂く。

朝食もとても美味しかった。

いつも食事を作ってくれるお母さん達には申し訳ないけど、素材が良いとどんな料理でも美味しいのだな。

僕はコーンスープを飲みながら、目の前に座る男性を見る。

今日も昨日と変わらずのスーツ姿。

今はジャケットを脱いでいるけど、ワイシャツもシワひとつない。

現在は足を組んで外の景色を眺めていた。



「あの…」

「ん?なんだい?」

「海辺さん…であってますか?」

「そうだ。海辺博貴(うみべ ひろたか)だ。スタッフから聞いたのかな?」

「はい。ケーキを持ってきてくれた時に」

「そうか。まぁ好きに呼んでくれ」

「はい」



海辺さんは微笑むとまた景色を見始める。

僕はチラッと景色を見て、また食事に戻った。

ーーーーーー

豪華な朝ご飯を食べ終えると、僕は海辺さんの後ろをくっ付いてホテルを出る。

海辺さんはもっとゆっくりして良いと言ってくれたのだが、僕は1秒でも早くお父さんとお母さんに会いたかった。

お姉ちゃんの状況を知りたくて。

ホテルを出ると真っ黒な車に乗せられる。

僕は助手席に乗るとまた緊張が走ってしまった。

僕は何回高級を味わうのだろう。

肩に自然と力が入りそうなのを抑えて僕は前を見た。



「それじゃあ出発するよ」

「はい。お願いします」



海辺さんは僕の返事に頷くとすぐに車を発進させる。

車なのに凄く静かなのが印象的だった。



「ーーくんのご両親は病院ではなく別の場所にいる。そこに向かうからね」

「はい。…お姉ちゃんの事って何かわかりますか?」

「生憎、私からは何も言えない。でも安心して欲しい。ご両親は君を待っている」



一瞬だけ僕の方を向いてそう言ってくれた海辺さん。

お母さん達が僕を待ってくれているという嬉しい感情の反面、お姉ちゃんの状態がどんなのかわからない不安が奥底から湧き上がっていた。

車は道路を進んで行く。

平日の朝なので、多少は混んでいる。

それでも海辺さんは安全運転のお手本と言えるくらいに丁寧に走っていた。

ちょっとした信号無視をするお父さんとは大違いだ。

それに運転姿はなんだかカッコいい。

僕の周りにはスーツを着る人がいないからなのか。

ピシッと決まった姿でハンドルを握るのは大人の男性だ。

僕はひっそりと憧れを持ってしまった。

いつか僕も社会に出たらこんな風に乗りこなしてみたい。

サングラスをかけてみたり、洋風の音楽に耳を傾けながら運転してみたり。

妄想は止まらなかった。



「海辺さんはお父さんのお友達なんですか?」



でも今の僕は優雅に程遠い。

静かには耐えられなくて、隣で運転している海辺さんに話しかけた。

僕の急な質問でも海辺さんは答えてくれる。



「友達と言っても親友とは言えないかな。感覚で言えば学校で同じクラスの人間くらいの距離だね」

「そうなんですね」

「ーーくんには親友と呼べる子はいるかい?」

「親友…。居ないですね。その前にそこまで親しい友達は…」

「そうか。失礼な事を聞いてしまった。でもそれも良いかもね」

「友達が居ないことがですか?」

「ああ。だって自分のことだけと向き合えるだろう?結局は友達と言えど他人になる。それに君はもう……」

「え?」



海辺さんの最後の言葉は前の方のクラクションで掻き消される。



「朝は困るね。イライラした人が音を鳴らす。こっちだって朝と言うものを頑張っているのに」

「そうですね…」



僕は最後の言葉を聞かなかった。

視線を斜め前にずらすと制服を着た学生が歩いている。

1人でいる人も、友達といる人も、これから学校に向かうのだ。

海辺さんが大人に任せろと言った意味はよくわからないけど、きっと今日は休むことになると言うのは理解できた。

色んな問題があるが、僕は登校している知らない人達に心の中でマウントをとる。

「今日、僕は学校には行かないんだぞ」と。

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