31 / 46
夏休み中旬 私と父
安楽死
しおりを挟む
「私は桜に話しておきたい事が2つある。母親のこと、そして研究室にいる彼のこと」
私は軽く口を開けてしまう。
お父さんが言った2つのことは全て私が聞きたいことだからだ。
私は頷くとお父さんは座っている1人用ソファの向きを変えて窓の外から見える庭の景色に顔を向けた。
「私は小さい時に桜から母親の事を聞かれると、お前を産んで亡くなったと言っていた」
「うん」
「でもそれは嘘だ。桜の母、私の妻の秋菜(あきな)は私が殺した」
「お父、さんが…?」
「私は秋菜と出会う前から科学者で、秋菜と繋がったきっかけは彼女の体に入っている新種の病原菌の研究でだ。私を含め数人の研究者は秋菜の体を使って血液採取などで薬の調合などを始めた。…そんな中、ひょんな事で話すうちに私達は惹かれ始め愛に至りお前が生まれた」
「…」
「桜を産んだ直後の検査で、お前には秋菜の体にある病原菌は無いとわかった時は2人で安心したよ。でも、本当の不幸はこれからだった。出産が終わった秋菜の体が急変したんだ。もがき苦しむ妻の姿は今にも目に焼き付いている。その時点では菌を死滅させる薬は出来ていなかった。あれだけ時間をかけたのに、だ」
お父さんは顔を下げて軽く俯く。
初めて知ったお母さんの事実。
私は何も話せぬままお父さんの言葉を聞いていた。
「唯一わかっていた事は、このままだと死ぬ運命しかないということ。私は青白くなった秋菜の顔を見て耐えられなくなり、安楽死用の注射を打った。……その後はわかるだろう?秋菜はピクリとも動かなくなった。秋菜の死因は病死となっているが…実際は私の手によって終わったのだ」
「それじゃあ、お父さんは……」
「殺人犯だな」
私は手に力を込める。
信じられない。
今まで一緒に過ごしてきたお父さんに罪があるなんて。
この話は無かったことにしたい。
でも過去の罪なんて消えない。
ただ体に力を入れることしかできなかった。
「そしてこの話は彼にも繋がる」
「なんで…?」
「研究室にの彼も、同じ病原菌を持っているからだ」
「そ、それじゃあ、お父さんは…また同じことを…」
「…そうだな」
「な、なんで!?」
私はソファから立ち上がりお父さんに怒鳴りつける。
その拍子でスマホが落ちた。
割れてても仕方ない音がする。
でも今はお父さんに問い詰める方が先だ。
「お母さんの死で学ばなかったの!?」
「秋菜の死を無駄にしたく無かったんだ」
「どういうこと…」
「研究をやめれば全てデータは無くなる。秋菜の体を使ったデータ全てだ。そんなこと…私が許せなかった」
少し震えるお父さんの声は私を黙らせると同時に脱力させた。
落ちるようにソファに座り込む。
もう、怒って良いのか泣いて良いのかわからなくなってしまった。
私はお父さんを見たくなくて顔を下げる。
「続きは」
「…トラブルの話は才田から聞いただろう?そのトラブルは、秋菜と同じように彼も苦しみ始めた」
力が完全に抜け切った。
お父さんはまた同じ道を歩み、同じ結果に辿り着いたのだろう。
「安楽死させるの…?」
「その予定だ」
「そしたらどうなるの?」
「彼は死ぬ。…私は警察に全てを話して自首する」
下を向いた私の太ももには1粒の雫がシミを作った。
「桜は私の実家へ引き渡そう。この家には用がなくなる」
「なんで、そんな…」
「桜」
「私は、本当にお父さんに何もしてもらってない!最後の最後は自分勝手で…!結局何もしてくれないじゃん!おかしいよ!頭おかしい!!」
「……」
涙のストッパーが切れたように流れ落ちる。
鼻がツンとして痛かった。
それでも私はお父さんに対して叫び続けた。
「ごめん…」
「謝るなら最初からやらないでよ…!お父さんは私のことちゃんと考えてくれたの…?」
「ごめん」
お父さんは立ち上がって私に頭を下げる。
私はもうどうしていいかわからずに顔を手で覆った。
「もう、、やだぁ………」
私の力ない声がリビングに響き渡った。
お父さんはもう何も言わない。
私の鼻を啜る音と、嗚咽だけが2人の耳に通って行った。
私は軽く口を開けてしまう。
お父さんが言った2つのことは全て私が聞きたいことだからだ。
私は頷くとお父さんは座っている1人用ソファの向きを変えて窓の外から見える庭の景色に顔を向けた。
「私は小さい時に桜から母親の事を聞かれると、お前を産んで亡くなったと言っていた」
「うん」
「でもそれは嘘だ。桜の母、私の妻の秋菜(あきな)は私が殺した」
「お父、さんが…?」
「私は秋菜と出会う前から科学者で、秋菜と繋がったきっかけは彼女の体に入っている新種の病原菌の研究でだ。私を含め数人の研究者は秋菜の体を使って血液採取などで薬の調合などを始めた。…そんな中、ひょんな事で話すうちに私達は惹かれ始め愛に至りお前が生まれた」
「…」
「桜を産んだ直後の検査で、お前には秋菜の体にある病原菌は無いとわかった時は2人で安心したよ。でも、本当の不幸はこれからだった。出産が終わった秋菜の体が急変したんだ。もがき苦しむ妻の姿は今にも目に焼き付いている。その時点では菌を死滅させる薬は出来ていなかった。あれだけ時間をかけたのに、だ」
お父さんは顔を下げて軽く俯く。
初めて知ったお母さんの事実。
私は何も話せぬままお父さんの言葉を聞いていた。
「唯一わかっていた事は、このままだと死ぬ運命しかないということ。私は青白くなった秋菜の顔を見て耐えられなくなり、安楽死用の注射を打った。……その後はわかるだろう?秋菜はピクリとも動かなくなった。秋菜の死因は病死となっているが…実際は私の手によって終わったのだ」
「それじゃあ、お父さんは……」
「殺人犯だな」
私は手に力を込める。
信じられない。
今まで一緒に過ごしてきたお父さんに罪があるなんて。
この話は無かったことにしたい。
でも過去の罪なんて消えない。
ただ体に力を入れることしかできなかった。
「そしてこの話は彼にも繋がる」
「なんで…?」
「研究室にの彼も、同じ病原菌を持っているからだ」
「そ、それじゃあ、お父さんは…また同じことを…」
「…そうだな」
「な、なんで!?」
私はソファから立ち上がりお父さんに怒鳴りつける。
その拍子でスマホが落ちた。
割れてても仕方ない音がする。
でも今はお父さんに問い詰める方が先だ。
「お母さんの死で学ばなかったの!?」
「秋菜の死を無駄にしたく無かったんだ」
「どういうこと…」
「研究をやめれば全てデータは無くなる。秋菜の体を使ったデータ全てだ。そんなこと…私が許せなかった」
少し震えるお父さんの声は私を黙らせると同時に脱力させた。
落ちるようにソファに座り込む。
もう、怒って良いのか泣いて良いのかわからなくなってしまった。
私はお父さんを見たくなくて顔を下げる。
「続きは」
「…トラブルの話は才田から聞いただろう?そのトラブルは、秋菜と同じように彼も苦しみ始めた」
力が完全に抜け切った。
お父さんはまた同じ道を歩み、同じ結果に辿り着いたのだろう。
「安楽死させるの…?」
「その予定だ」
「そしたらどうなるの?」
「彼は死ぬ。…私は警察に全てを話して自首する」
下を向いた私の太ももには1粒の雫がシミを作った。
「桜は私の実家へ引き渡そう。この家には用がなくなる」
「なんで、そんな…」
「桜」
「私は、本当にお父さんに何もしてもらってない!最後の最後は自分勝手で…!結局何もしてくれないじゃん!おかしいよ!頭おかしい!!」
「……」
涙のストッパーが切れたように流れ落ちる。
鼻がツンとして痛かった。
それでも私はお父さんに対して叫び続けた。
「ごめん…」
「謝るなら最初からやらないでよ…!お父さんは私のことちゃんと考えてくれたの…?」
「ごめん」
お父さんは立ち上がって私に頭を下げる。
私はもうどうしていいかわからずに顔を手で覆った。
「もう、、やだぁ………」
私の力ない声がリビングに響き渡った。
お父さんはもう何も言わない。
私の鼻を啜る音と、嗚咽だけが2人の耳に通って行った。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです
あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。
社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。
辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。
冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。
けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。
そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ“自分の居場所”を取り戻していく。
静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる