【完結】空白

蛇足

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20話

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     **

「…で、私は死んだんですか?」
 真っ白な空間。ここは以前にも来たことのある“神の間”だ。
当然のように、“彼”はそこにいた。
「ああ。君が所持していた天羽々斬で私が直々に制裁を下した。」
「…そうですか。お手数お掛けして申し訳ありません。」
それから彼は表情を少し緩め、私に言う。
「今回は少しマズかったな。…どこまで記憶がある?」
私は記憶を辿り、彼に答えた。
「…ミラドを殺した辺りまでです。」
「そうか。やはり暴走か。」
 “暴走”…私が危惧していた通りの結末か。やはり、ということは彼もある程度は予想していたのだろうか?
「私は……これからどうすればいいですか?」
「そうだな…先ずは罰せられるだろうな。“人類の七割を消した”んだからな。」
「え…?」
………は?
「今……何て…言いました…?」
 確認するのを恐れながら聞き間違えであることを願う。彼は俯き、黙っていた。
「…何か言って下さいよ。」
 私が懇願するようにそう言うと、彼はゆっくりと言葉に間を入れながら私に告げた。
「…君は……暴走して…人類の七割を殺したんだ。記憶はないみたいだがな。すまない。唐突だったな。」
「私が……人類の七割を…殺した…?」
「……ああ。」
笑い混じりで彼に訊く。
「じょ…冗談ですよね……?」
「…いや、本当だ。」
 視界がぼやける。私が人類の七割を殺した。その事実を受け止めたくない。ただでさえ人を殺したくはないんだ。

……なんでこんなことに…!

気が付けば私は、激しく息切れし、嘔吐していた。

   **レイン視点**
 あれから二日が経過した。自分が慕い、愛している者を守れなかったという自責の念から自殺も考えたが、これは彼が救ってくれた命だ。
 ここで死んでは、あの世で彼に合わせる顔がない。せめて、精一杯生き抜いてから死のう。というのが私の脳裏にある思考だ。
 とはいえ、彷徨っていても特に何もないのだ。ヨウカの暴走(?)によって大半の人間は消えてしまい、建造物や食べ物だけが残されている。
大した倒壊もなければ食べ物が腐食したような跡もない。
 
…彼女のことは、どうしても許せなかった。
 
 たしかに、あの時戦うと告げたのは彼だ。…だがそれ以前に、ヨウカは彼を助けると約束していた。
 なのにも関わらず、その責任を放って、どこかへと消えた。

……とても許せない。

 私は誰かの家のドアを無断で開け、その中に押し入った。椅子の上にある縫いかけのニットらしきもの。
 …ヨウカの能力の対象になるものは“魔力を持つ者”なのか?…となればこの世の九割の魔力を有する者が能力の対象になる訳だ。
 …急がなければ。この世界が本当に終わってしまうかもしれない。
「…いや、世界よりもまずは自分の身かな。」
 腐っても私は魔法使いであり、魔女だ。全身の魔力を一時的に消失させることくらい、造作もないこと。
 体の魔力を抜き去り、声に出しながら私は考える。
「…ヨウカは今どこに…?」
 あの時、彼女は瞬間移動でどこかへと姿を消した。…恐らく無意識の内に。
 この惑星は比較的小さな球体で出来ているとされている。そしてこの地は球体の北側、北半球だ。
 ……高い上空から全体を見渡せば北半球の五割は見渡せるだろうか。…となれば彼女が向かった先は南半球?
 …いや、まずまず彼女の目的が分からない。…人類の殲滅?
 …目的がどうであろうと、私のすべきことは変わらない。

   **ヨウカ視点**
「…ハァ…ハァ……」
「おさまったか?」
「……すいません、取り乱してしまって。」
「いやいい。それが当然の反応だ。」

冷静になれ、私。
 
 …人類の七割の抹殺。……決して許されることではないな。
「…これから……私はどうすれば…」
俯き呟く私に彼は告げた。
「普通ならば魂の極刑だ。」
 魂の極刑……魂を消去する、ということだろう。人間は魂のリサイクルで生を成しているのだから、私の魂から派生した者がもう世に生を成すことは無くなる。
 申し訳ないという情も無くはないが、魂の本質は一緒なのだから自業自得と言えるだろう。
「だが」
彼は突然私の肩に手を置き、そして言う。
「君は私の大切な後継者の一人だ。少し“虐める”だけで許してやろう。」
「…え…?」

     **

 彼の言う“虐める”というのは、“空白”の扱いを長年かけて覚えてもらう、という内容だった。
 彼が作り出した、莫大な異空間と魔力を持った膨大な数の人形で特訓は行われる。
 
 一年目、狙いを定める訓練を行った。空白の発動条件は“魔力を持ったものを視界に入れる”こと……だそうだ。
 以前この能力を譲渡された時、彼から聞いたのだが、私はそれを忘れてしまっていた。
 一年間、彼から直々に教えてもらいながら訓練した結果、得られたものは“対象の選択”だった。
 十体程の人形を横に陳列させ、その中から一体のみを選び、消去する。一年分の疲労が溜まった年明け、彼からこう告げられた。
「ギフテッドの核心は能力にある。」
「……急に何です?」
「人間は肉体に能力が刻まれ、死ぬ時に魂に刻まれた記憶を消去されて生まれ変わる。…が、ギフテッドの場合、魂のに能力と記憶が刻まれている。」
私は相槌をしながら彼の話を聞く。
「それに気付いた者がいるんだ。」
 …ギフテッドの本質に気付いた者……何となく察しはつく。
「…リョウ…ですね?」
「ああ。」
 数ヶ月前、気になって彼とレインの行方を聞けば、彼は龍(白銀)の餌食になったという。
 プロディジー故に辿る運命だ。…しかし、残されたレインが不憫で仕方ない。
「彼は“白銀”に食われる前、自身の能力をレインに譲渡したんだ。」
「……ってことはつまり…?」
「今は、リョウに代わってレインがギフテッドだ。」
「……!」
 レインがギフテッドに……彼女は私たちと同じように生き長らえるのか。
 …特に問題点も無さそうなのだが、彼が話題にしてきたということは、何かがあるということだ。
「…これは人為的なギフテッドの作成で、“大罪”だ。……私が言いたい事は理解したか?」
 大罪…この世界での判決は極刑になる。…が、それは死んだ後のことだ。彼女が生き長らえるのであれば、極刑はあちら側でしなければならないことになる。
…きっと、その執行人は​────
「……理解したくありません。」
「…そうか。」


20話:一縷の者
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