徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

21話

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「水練、はじめ!」
 
 号令一下、尾張派家臣団と幕府水軍と希望幕臣子弟が、大川で水練を始めた。
 五人組、十人組、廿人組、五十人組、百人組に分かれて隊列を組んでの遠泳だ。
 更には扱う武器によっても組が分けられている。
 鉄砲組、弓組、槍組、刀組と分けられている。
 更には鎧具足を装備した組、火事装束の組、着流し組、褌組である。

 全ては南蛮船が江戸湾に侵入してきた時に、海を泳いで斬り込む訓練だ。
 どの服装装備ならば、沖合に停泊した南蛮船にまで泳いでいけるのか。
 どの武器をどのように持てば、沖合まで武器を携行できるのか。
 どの武器が一番斬り込みに有効なのか。
 
 水中で立ち泳ぎの体勢から火縄銃を撃つ技。
 水中での格闘術。
 斬り込んだ後で敵船を奪い操船する技術。
 ありとあらゆる状況を想定して、練習での死亡も名誉の戦死扱いとして加増対象とすることで、多くの幕臣子弟を訓練に参加させた。

 まあ、貧乏幕臣子弟が進んで参加するのもしかたがない。
 幕府と尾張家の負担で、美味い飯が支給されるのだ。
 それも一日三食腹一杯食べられるのだ。
 満足に飯が喰えなかったり、自分が他で食べることで、家族が少し多くの飯が喰えるようになる貧乏幕臣子弟は、親兄弟揃って参加していた。

 更に将軍か尾張派藩主が、必ずだれか練習を見てくれるのだ。
 鉄砲術・弓術・槍術・剣術・馬術が抜きんでいなくても、御眼に留まる機会があり、実際に塩飽衆や御船手組の水主同心が、尾張派諸藩に水練指南や御船手組同心として召し抱えられているのだ。
 眼の色のが変わらない者の方がおかしいのだ。

「上様。
 ご覧の通りでございます。
 江戸湾に襲い来る南蛮船に斬り込み奪うためには、南蛮船の操船ができなければなりません。
 南蛮船を購入建造するお許しを願います」

 かねてからの徳川慶恕の計画だった。
 南蛮や清国に此方から交易に行くにしても、北前船を運行するにしても、季節風や海流に逆らって、今迄の三倍の交易量を確保するには、西洋帆船は必要だった。
 和船にも西洋風の帆を張る必要があった。
 何より互角の海戦を行うための戦艦が必要だった。

「幕府は費用を出せんぞ。
 いや、そもそも幕府の勝手向きは左中将に頼っておる。
 大法馬金を鋳造する資金を減らすのか?」

「いえ、先ほども申し上げましたが、南蛮船を導入できましたら、交易量を三倍にすることが可能でございます。
 多少の値崩れを覚悟しても、二倍の利益が見込めます。
 幕府の海軍力を強化しつつ、前年度同様四百万両の利益を確保できます」

 嘘だった。
 和船だけを使った今年の交易で、すでに六百万両の利益が見込めた。
 オロシャや沿海人に麦や蕎麦や焼酎を売って、銀や俵物や毛皮を手に入れる方法が確立され、莫大な利益を手に入れられるようになっていたのだ。
 徳川慶恕は将軍や幕閣に秘密の軍資金を蓄えていた。

「快速丸」
排水:五十トン
全長:二十一・八メートル
全幅:五・八メートル
吃水:
一本マストのカッター
六ポンド青銅砲:四門
一ポンド回旋砲:四門
建造費:二千両

「迅速丸」
排水:百トン
全長:二十四・六メートル
全幅:七・〇メートル
吃水:三・〇メートル
二本マストのスクナー
六ポンド青銅砲:十門
建造費:四千両

「千石船甲」
全長:二十三・七十五メートル
最大幅:七・二十四メートル
積石数:五百十二石
帆の大きさ:約百五十五畳

「千石船乙」
重量:約九十トン
全長:三十メートル
最大幅:七・四メートル
積石数:八百六十五石
帆の大きさ:約二百畳

「和船と西洋帆船の比較」
千石船の排水量二百トン(船の重量と同じ)
積載量:千石(約百五十トン)

「大型南蛮帆船」
重量 :一五七六トン
排水量:二二〇〇トン
全長 :六二・一メートル
全幅 :一三・三メートル
吃水 :四・四・メートル
三本マストフリゲート
二四ポンド長砲    :三〇門
三二ポンドカロネード砲:二〇門
二四ポンド艦首砲   :二門
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