37 / 56
第1章
34話
しおりを挟む
一八四九年の交易利益は三千百六十八万両だった。
金一両が銀二百匁で銭一万文になっているから、二年分の利益といっても信じられない金額だった。
だがそれにも理由があった。
二つの軍閥が日本から莫大な量の武器弾薬を購入していたのだ。
一つは徳川慶恕が最初から支援する覚悟でいた、広東の反英郷党だった。
だがもう一つの軍閥は、英国の手先だった。
表向きは洪秀全が自らキリスト教に目覚めたことになっているが、実際には英国が資金や武器を援助して、清国内で内乱を起こさせていたのだ。
「では、やはりキリスト教は南蛮の手先なのだな?」
「はい、上様。
走狗となっている愚か者共は、騙され操られているだけですが、主だった者達は、国を盗むための方便に、キリスト教を信じているふりをしているだけでございます。
それは英国も仏国も露国も同じでございます。
そうえなければ、同じ人間を騙し財貨を奪い殺したりはしません。
同じ人間を奴隷にしたりはしません」
「確かにその通りだな。
だが、だったらどうする?
清国内で英国の手先となった洪秀全が内乱を起こしているのであろう。
清国を手助けして戦うのか?
それとも、清国の弱体を待って、南蛮と共に清国に攻め込むのか?」
「清国の皇帝しだいでございます。
皇帝が南蛮と戦うというのなら、共に手を携えて南蛮と戦います。
ですが皇帝が腐敗した官僚を抑えきれず、南蛮と屈辱的な条約を重ねるのなら、見所のある軍閥と手を結び、清国を倒して新王朝を建国します。
そしてその新王朝と共に南蛮と戦います」
「う~む。
余としては謀叛に手を貸すのは本意ではない。
現皇帝に頑張ってもらいたいところだな」
「はい、そうなる事を私も願っております」
そう言った徳川慶恕ではあるが、皇帝に与する方策と共に、清国を滅ぼすために下準備も整えていた。
自らを清末の諸葛亮と称する左宗棠や、曽国藩・李鴻章・楊昌濬・劉典・王徳榜・康国器・高連升・鮑超・黄少春・蒋益澧・林文察などの多くの官僚将帥と密偵を接触させ、志那を任せるに足る人物を探していた。
だが死の商人のように金儲けも行っていた。
徳川慶恕が一番大切にしているのは徳川家である。
南蛮と戦うための軍資金が稼げるのなら、相手が英国の走狗である太平天国であろうと、イスラム教徒のドンガン人であろう、各地の郷党軍閥であろうと関係ない。
武具刀剣はもちろん、旧式の鉄砲や弓矢も売った。
売って金銀や穀物に替え、国内で加工して付加価値を加え、また売った。
北方や朝鮮にも売り、新たな商品となる物を買った。
蘭国から最新の戦艦を買う資金をためる事が最優先だった。
金一両が銀二百匁で銭一万文になっているから、二年分の利益といっても信じられない金額だった。
だがそれにも理由があった。
二つの軍閥が日本から莫大な量の武器弾薬を購入していたのだ。
一つは徳川慶恕が最初から支援する覚悟でいた、広東の反英郷党だった。
だがもう一つの軍閥は、英国の手先だった。
表向きは洪秀全が自らキリスト教に目覚めたことになっているが、実際には英国が資金や武器を援助して、清国内で内乱を起こさせていたのだ。
「では、やはりキリスト教は南蛮の手先なのだな?」
「はい、上様。
走狗となっている愚か者共は、騙され操られているだけですが、主だった者達は、国を盗むための方便に、キリスト教を信じているふりをしているだけでございます。
それは英国も仏国も露国も同じでございます。
そうえなければ、同じ人間を騙し財貨を奪い殺したりはしません。
同じ人間を奴隷にしたりはしません」
「確かにその通りだな。
だが、だったらどうする?
清国内で英国の手先となった洪秀全が内乱を起こしているのであろう。
清国を手助けして戦うのか?
それとも、清国の弱体を待って、南蛮と共に清国に攻め込むのか?」
「清国の皇帝しだいでございます。
皇帝が南蛮と戦うというのなら、共に手を携えて南蛮と戦います。
ですが皇帝が腐敗した官僚を抑えきれず、南蛮と屈辱的な条約を重ねるのなら、見所のある軍閥と手を結び、清国を倒して新王朝を建国します。
そしてその新王朝と共に南蛮と戦います」
「う~む。
余としては謀叛に手を貸すのは本意ではない。
現皇帝に頑張ってもらいたいところだな」
「はい、そうなる事を私も願っております」
そう言った徳川慶恕ではあるが、皇帝に与する方策と共に、清国を滅ぼすために下準備も整えていた。
自らを清末の諸葛亮と称する左宗棠や、曽国藩・李鴻章・楊昌濬・劉典・王徳榜・康国器・高連升・鮑超・黄少春・蒋益澧・林文察などの多くの官僚将帥と密偵を接触させ、志那を任せるに足る人物を探していた。
だが死の商人のように金儲けも行っていた。
徳川慶恕が一番大切にしているのは徳川家である。
南蛮と戦うための軍資金が稼げるのなら、相手が英国の走狗である太平天国であろうと、イスラム教徒のドンガン人であろう、各地の郷党軍閥であろうと関係ない。
武具刀剣はもちろん、旧式の鉄砲や弓矢も売った。
売って金銀や穀物に替え、国内で加工して付加価値を加え、また売った。
北方や朝鮮にも売り、新たな商品となる物を買った。
蘭国から最新の戦艦を買う資金をためる事が最優先だった。
10
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
輿乗(よじょう)の敵 ~ 新史 桶狭間 ~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
美濃の戦国大名、斎藤道三の娘・帰蝶(きちょう)は、隣国尾張の織田信長に嫁ぐことになった。信長の父・信秀、信長の傅役(もりやく)・平手政秀など、さまざまな人々と出会い、別れ……やがて信長と帰蝶は尾張の国盗りに成功する。しかし、道三は嫡男の義龍に殺され、義龍は「一色」と称して、織田の敵に回る。一方、三河の方からは、駿河の国主・今川義元が、大軍を率いて尾張へと向かって来ていた……。
【登場人物】
帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。
織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。
斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。
一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。
今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。
斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。
【参考資料】
「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社
「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田 牛一 (著) 中川太古 (翻訳) KADOKAWA
東浦町観光協会ホームページ
Wikipedia
【表紙画像】
歌川豊宣, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる