徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

48話

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 アメリカの武力による開国要求準備を知った徳川慶恕は、大陸派遣軍の精鋭を呼び戻すことにした。
 実戦経験を積み重ねた幕府番方と尾張派藩兵を帰国させ、実戦経験の少ない者を大陸に残し、実戦経験のない者を大陸に派兵した。
 せっかく確保した旗地を放棄する事が出来なくなってしまったのと、広州の総督を手放すことができなくなったことによる、方針の転換だった。

 徳川慶恕は、自分は尾張藩の当主として両属にはなれないが、八人の弟と庶子は両属にして、大陸で旗王として大領を与えたいと思っていた。
 その為なら交易利益の半分を投入してもいいと考えていた。
 
 もちろんそれが可能なだけの莫大な利益も産み出していた。
 日ノ本、蝦夷、樺太、沿海、北黒竜江、蒙古領、東三省、北京を結ぶ軍用路が整備され、安全な輸送が出来るようになった事がとても大きかった。
 露国のコサック兵などに酒や穀物を売り、その代金で毛皮や俵物を輸入する。
 毛皮や俵物は南方で高く売り、その利益の一部で穀物を購入する。

 中継貿易で莫大な利益が上がり、安定して旗地に兵糧が輸送できるようになったことで、徳川慶恕は若党軍の希望者も大陸に派兵した。
 若党軍の中にも立身出世を目指す野心家がいたのだ。
 もちろん安全な訓練だけで衣食住を保証して欲しいという者もいる。
 そういう者は、江戸に残して徹底的に訓練した。

 徳川慶恕は、北前航路や広州航路に投入していた、九ポンド砲を二十四門搭載し排水量五百トン前後の六等艦フリゲート六隻と、三十二ポンド砲を三十八門搭載した排水量千トン前後の五等フリゲート六隻を、交易から外して米国艦隊の来襲に備えることにした。

 実際に交易航海させる事で、航海術に長けた将兵を訓練する事はできていたが、砲術訓練に関しては最低限になっていた。
 蘭国から大量の砲弾と火薬を輸入して、金に糸目を付けずに砲術訓練を繰り返して行わさせた。

 フリゲートの建造に成功してから試作させた、十八ポンド砲から三十二ポンド砲を七十四門搭載した、排水量千六百トン前後の三等艦が二隻完成していた。
 一隻は一年間の航海訓練をしていたが、もう一隻は就役から時間が経っておらず、もっと訓練を重ねなければいけない状態だった。

 更に蘭国に建造依頼している、スクリュープロペラ式の七十四門戦列艦があった。
 蘭国からの情報で、外輪船よりもスクリュープロペラ船の方が有利であることを、徳川慶恕は知っていたのだ。
 英海軍では一八〇九年に七十四門戦列艦をスクリュープロペラ式に改装していた。
 仏海軍では一八五〇年にスクリュープロペラ式九十門戦列艦を完成させている。
 徳川慶恕も、自国でスクリュープロペラ式七十四門戦列艦を建造したかったが、蒸気機関の信頼性が低すぎたため、蘭国に依頼していたのだ。
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