伊勢山田奉行所物語

克全

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第4章:伊勢屋と共有田と金貸し

第39話:地方拠点

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「隠居、御師宿の帳簿を幾つか見せてもらったが、百姓の檀家よりも商家の檀家の方が正味神徳が多かったが、それに間違いないか」

 これまでの柘植家は、譜代家臣の縁者に御師宿の檀家廻り手代や平御師がいる事を秘密にしていたが、主水同心家を元檀家廻り手代が継いだので情報を解禁したのだ。

「はい、百姓衆の中には庄屋や大庄屋の方もおられますが、その数は百姓衆の中では少数でございます。
 それに比べて江戸や京大阪の商家は、ある程度豊かな家ばかりが軒を連ねておりますので、一軒でも檀家に迎える事ができれば大きな正味神徳になります。
 表店に住んでおられる小商いの方々でも、百姓衆とは比べ物にならない現金を持っておられますので、これも正味神徳が多くなります」

「それが分かっているのなら、江戸はもちろん京大阪にも檀家獲得の拠点を設けるべきであろう。
 そこの下男や下女として癩病を雇えば、伊勢まで流れてくる者を減らせる」

「江戸に常時手代や番頭を置き、伊勢講の檀家を集めろと申されるのですか」

「江戸だけではない、京大阪はもちろん、繁栄している城下町に拠点を設けるのだ。
 檜垣屋だけでなく、全ての御師が日本六十余州に檀家廻り手代を送っている。
 それだけの御師が別々の宿をとるのは非効率だ。
 外宮御師が揃って利用する拠点を設けるのだ」

「確かに、外宮の御師全員が利用してくれるのなら、拠点を設けても利が得られるでしょうが、商売敵を助けるような真似をするでしょうか」

「確かに檜垣屋は山田三方年寄家に憎まれている。
 だから彼らは利用しないかもしれない。
 だが同じ権禰宜家や町年寄家、平御師家は利用してくれるだろう。
 彼らにしても、安心して泊まれる宿は貴重だ。
 それに、江戸や京大阪で何かあっても、檜垣屋を頼れる。
 伊勢からの荷や手紙を預ける事もできる」

「なるほど、力を落とした三方年寄家などを相手にしなくても、それなりの付き合いのある者達だけで利が得られる仕組みを作れと言われるのですね」

「そうだ、それに、幾らお伊勢様で権禰宜家と務める家の手代とは言え、年に一度しか来てくれないようでは、檀家衆の心も不安定になる。
 ちょっとした態度や言葉の行き違いで、何時三方年寄家に奪われるか分からない。
 だが、そこそこ栄えている町に拠点を設けて、頻繁に訪ねられれば、御師と檀家衆の絆が強まり、少々の事では他の御師に奪われなくなる。
 それと、伊勢まで来られないような貧しい百姓衆が、本宮の代わりに参詣できるようにすれば、これまで伊勢講に入れなかった者達も入れるようになる」

「それは、分祀しろと申されるのですか」

「分祀するとなれば大事で、まず間違いなく反対されて駄目になる。
 だからそこまで本格的にする必要はない。
 御神体代わりの神棚一つ、掛け軸一つでいいのだ。
 檜垣屋は御師宿なのだから、拠点も同じように檀家衆を迎える場所で良い。
 そこで普段は食べられないような御馳走を食べさせてやればいい」

「お伊勢様までの旅費を使わずに済むと言う事でございますか」

「そうだ、腹立たしい事だが、伊勢参りの女衆を騙して飯盛り女として売る不届き者がいるのだ。
 私の目の届く場所ならば何としても捕らえて罰してやるが、遠く離れた場所ではそうもいかぬのだ。
 女子供も安心して参詣できる拠点があれば良いと思っている」

「それは良いお考えでございます。
 私も女衆が安心して参詣できる拠点を造るべきだと思います。
 それに、男衆だけが御馳走を食べられるのもおかしいです。
 檜垣屋と同じとは申しませんが、女衆にも美味し物を食べる機会が必要です」

「やれ、やれ、ゆうにそう言われてしまっては、拠点を造るしかありませんな。
 それと、私もお伊勢参りに来ようとした女衆が宿場女郎に売られた話には、激しい怒りを覚えておりました。
 そのような女衆がもう二度と出ないように、在所に近い場所に、お伊勢様の代わりになる場所を造るのは良い事でしょう。
 女衆が数年に一度御馳走を食べられるようにするのも、良いお考えでございます」

 檜垣屋の隠居は定之丞の言葉通りに根回しをして、繁栄する城下町に檀家廻り手代が定宿とする拠点を設ける事にした。
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