伊勢山田奉行所物語

克全

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第4章:伊勢屋と共有田と金貸し

第41話:草

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 これはまだ柘植定之丞が檜垣屋に拠点を設けろと言いだした頃の話で、江戸よりも近い京大阪に最初の拠点を設けようとしていた。

 その拠点に常駐する檜垣屋の番頭や手代の人選は、ある程度定之丞の意見が通るようになっていた。

 檜垣屋の隠居や当主はもちろん、大番頭も馬鹿ではない。
 定之丞の働きで柘植家の縁者が跡を継ぐ事になった同心五家に、平御師や御師宿の檀家廻り手代が入った事で、御師に柘植家の草が数多くいる事に気がついた。

 草とは、忍者である事を隠して調べたい土地に移住する者だ。 
 偽りの職に就いて現地の人間と交流するだけでなく、家族まで作って土地の溶け込み情報を集め、主君である上忍に伝える者達。

 情報収集が役目なら、子供や孫の代まで役目が引き継がれる場合がある。
 暗殺が役目だと、次代にまで引き継がれる事は滅多にない。

 それを知っている檜垣屋の者達は、檀家廻り手代ほど情報収集に相応しい仕事はないと思い至った。

 問題があるとすれば、年に一度か二度しか目標の土地に行けない事だ。
 複数の御師の配下に下忍を送り込む事で、違う者が違う目で目標の土地を見る事はできるが、住み暮らすのに比べれば情報の量と厚みが少な過ぎる。

 だが拠点を設けて住む事ができれば、それも御師の番頭や手代となれば、入り込める場所も段違いに多くなり、集められる情報の量が増え精度も高くなる。

 そう理解したからこそ、柘植定之丞の勧める番頭や手代を拠点に雇った。
 上は神宮家に仕える檀家廻り手代から下は平御師に使える手代まで、数多くの手代が主人である御師を裏切って檜垣屋にやってきた。

 そんな人材を使って最初に設けられた拠点は、京街道の大阪側の起点、高麗橋付近の表店だった。

 大阪の奉行所には、伊勢講を広めるための拠点であり、多くの御師や檀家衆を迎える場所だと届けていた。

 そこから京に向かって拠点を増やしていくのか、伊勢神宮に向かって拠点を増やしていくのか、周囲の人々を檀家にしていくのか、方法は色々あった。

 一番の目的が檀家を増やす事だったので、高麗橋の拠点を中心に大阪商人を檜垣屋の檀家にする事に一番力を注いだ。

 同時に大阪から伊勢神宮に参詣する人が安心して泊まれる拠点を造るべく、険しい事で有名な伊勢本街道のどの宿場するのかを選ぶ

 伊勢本街道の大阪側は、ほとんど暗越奈良街道と重複している。
 高麗橋を出て玉造、今里、深江、御厨、菱江を通って松原宿に入り箱殿から暗峠を越えて奈良に入り、生駒小瀬に至って榁木峠を越えて尼ヶ辻に通って三条に至る。

 伊勢本街道の大阪側起点は玉造稲荷神社なのだが、暗越奈良街道は高麗橋となっており、高麗橋に拠点を造った檜垣屋には考えやすかった。

 そこで手代の一人、下忍が高麗橋から伊勢神宮に向かって伊勢講を広めた。
 高麗橋から出立した場合、初日の宿をどこにすべきか考えながら伊勢講を広めた。

 一番栄えているのは松原宿なのだが、平岡にまで足を延ばして宿を取った方が、険しい峠を二度越えなければいけない翌日が楽になる事が分かった。

 奈良盆地は比較的歩きやすく、暗越奈良街道の奈良側起点の三条を通り抜け、伊勢本街道を伊勢に向かって歩き、榛原の萩原宿に次の拠点を置く事にした。
 それは櫃坂峠というとても険しい難所を越えなければいけないからでもあった。

 次の拠点を奥津宿にするのか多気宿にするのか迷う事になったが、足弱の女でも伊勢参りができるように、奥津宿に置く事になった。

 奥津宿を朝一番に立つと考えても、足弱な女子供だと、一気に外宮まで足を延ばすのは難しく、相可か都留に拠点を設けなければいけなくなる。
 悩んだ結果手前の都留に拠点を置く事になった。

 だが、後にはほとんどの宿場に檜垣屋の拠点を置く事になった。
 お伊勢参りをする人を悩ませたことが数多くあったからだ。

 幕府が整えた街道とは言え、まだまだ安全とは言えなかった。
 事件や事故が多いだけでなく、ぼったくりの旅籠があり、相部屋で危険を感じ、酒を飲み騒ぐ者に悩まされ、博打や遊女を強要される事さえあった。

 そんな心配をしなくていい安全な宿を求めているのは、お伊勢参りの人達だけではなく、善良な旅人や商人も同じだった。

 そんな人々に求められ、お伊勢参りの宿とひと目で分かるように、檜垣屋の拠点は自ら伊勢屋と名乗り始めた
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