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第4章:伊勢屋と共有田と金貸し
第47話:花見
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今年も桜の咲く季節となった。
毎年内宮の宇治神路山と外宮の前山に花見に行くのが恒例だった。
「今年も二回に分けて花見に参る。
明日は外宮組、明後日は内宮組だ」
奉行所の仕事が滞らないように、奉行の家臣、支配組頭、与力は二組に分かれて花見に向かう。
奉行所で飼われている馬が二十八頭なので、二組に分かれないと全員騎乗できないという物理的な理由もあった。
他にも父親と見習が同時に花見に行くと、付き従う家臣小者の数を確保できないという、経済的な問題もあった。
奉行の特権として、御用人三人と御給人三人を奉行所の費用で雇う事ができた。
普通は大体譜代の家臣が御用人と御給人を務める。
速い話しが、奉行である間は、家臣に支払う扶持を助けてもらえるのだ。
これは江戸町奉行も同じで、内与力という名称で自家の家臣を五人使えた。
しかしこれは経済的な理由ばかりではない。
与力同心は世襲なので、幼い頃からその役目一筋の練達なのだ。
譜代の家臣や専門家に助けてもらわないと、与力同心の言い成りになるしかない。
また、役目に伴う雑事は多いが、厳然たる公務しか力同心は助けてくれない。
公私の曖昧ない仕事全てを奉行1人ではできないので、家臣に助けてもらうしかないという、切実な現実もあった。
そんな奉行の直臣である御用人三人と御給人三人は二度花見に行く。
奉行を護らなければいけない立場だから当然ではある。
支配組頭と与力も、一家と考えれば当主と見習で二度花見に参加している。
遠国奉行は短ければ一年、長くても数年で役目が変わる。
見習出仕してから老齢になるまで務める与力同心の心を掴まないと、まともに役目が果たせない。
花見の弁当や酒肴を用意して配下を労わるのは当然だった。
有能な奉行と御用人御給人が座を盛り上げる。
今年も外宮前山のサクラが美しく、無礼にならない程度に座が賑わう。
花見の宴は程よい頃合いでお開きとなる。
肩肘張らない宴会を、奉行と支配組頭と与力といった奉行所幹部が愉しみ、心を一つにする事はとても大切だ。
だが半ば役目の花見を心から楽しめない者もいる。
年若い見習は、親で世代の同役にもちろん、親世代の練達下役にも気を使う。
気疲れした柘植定之丞は、自然と檜垣屋に足が向く。
「よくぞおいでくださいました。
当主もお嬢様も首を長くしてお待ちしておりました。
折悪しく茶庵を檀家衆が使っておりますので、奥向きにご案内しなければいけないのですが、宜しいでしょうか」
役目を定時で終えた定之丞が檜垣屋を訪ねたのは、夕七つ半だった。
先触れの中間が知らせていたので、案内者控室にいた者達が迎えてくれる。
普通の時なら、主人も隠居もゆうも迎えてくれるのだが、三番番頭が言っていたように、折悪しく狭山藩北条家の代理が伊勢神宮の参詣に来ていた。
定之丞の考えで京大阪に拠点を設けた途端、陣吉と八吉が河内に領地を持つ狭山藩北条家を檀家に向かえたのだ。
ここで接待をしくじったら、一万石の領民全てを檀家にする絶好の機会を逃しかねないので、檜垣屋をあげて歓待しなければならなかった。
「話は先触れから聞いた。
今日は遠慮しようかとも思ったのだが、ひと目ゆうの顔が見たくてな。
遅くなってもいいから、歓待が終わるまで待たせてもらう。
奥向きに案内してくれ」
「ありがとうございます、此方にどうぞ」
勝手知ったる檜垣屋の間取りだが、見習とはいえ支配組頭ともあろうものが、案内もなしに入る事は体面に係わる。
三番番頭に案内されて、主人家族が住む一角の手前、中庭の前に渡り廊下と独立した枯山水の内庭がある八畳間に案内された。
部屋に入った途端、女中が伊勢山海の珍味を灘の名酒と共に運んでくる。
特に選ばれた女中のようで、見目麗しい手弱女だった。
「どうぞ一献」
「うむ」
定之丞は既に花見で幾らかの酒を飲んでいたが、奉行や年配の支配組頭と与力に気を付けていたので、酔えるほどは飲んでいなかった。
「柘植様、手代の陣吉でございます。
大阪の件でご報告があって戻りました。
折好く檜垣屋に来られていると知り、不躾を承知で参りました」
「ほう、わざわざ大阪から急ぎ戻ったのか。
それほどの事件ならば遠慮する事はない。
廊下では声が小さい、部屋に入って報告いたせ」
「はい、失礼させていただきます」
定之丞の言葉を受けて陣吉が部屋に入って来た。
「お前はもうよい、檜垣屋の仕事に戻れ」
逆に酌をしていた女中が部屋を出される事になった。
毎年内宮の宇治神路山と外宮の前山に花見に行くのが恒例だった。
「今年も二回に分けて花見に参る。
明日は外宮組、明後日は内宮組だ」
奉行所の仕事が滞らないように、奉行の家臣、支配組頭、与力は二組に分かれて花見に向かう。
奉行所で飼われている馬が二十八頭なので、二組に分かれないと全員騎乗できないという物理的な理由もあった。
他にも父親と見習が同時に花見に行くと、付き従う家臣小者の数を確保できないという、経済的な問題もあった。
奉行の特権として、御用人三人と御給人三人を奉行所の費用で雇う事ができた。
普通は大体譜代の家臣が御用人と御給人を務める。
速い話しが、奉行である間は、家臣に支払う扶持を助けてもらえるのだ。
これは江戸町奉行も同じで、内与力という名称で自家の家臣を五人使えた。
しかしこれは経済的な理由ばかりではない。
与力同心は世襲なので、幼い頃からその役目一筋の練達なのだ。
譜代の家臣や専門家に助けてもらわないと、与力同心の言い成りになるしかない。
また、役目に伴う雑事は多いが、厳然たる公務しか力同心は助けてくれない。
公私の曖昧ない仕事全てを奉行1人ではできないので、家臣に助けてもらうしかないという、切実な現実もあった。
そんな奉行の直臣である御用人三人と御給人三人は二度花見に行く。
奉行を護らなければいけない立場だから当然ではある。
支配組頭と与力も、一家と考えれば当主と見習で二度花見に参加している。
遠国奉行は短ければ一年、長くても数年で役目が変わる。
見習出仕してから老齢になるまで務める与力同心の心を掴まないと、まともに役目が果たせない。
花見の弁当や酒肴を用意して配下を労わるのは当然だった。
有能な奉行と御用人御給人が座を盛り上げる。
今年も外宮前山のサクラが美しく、無礼にならない程度に座が賑わう。
花見の宴は程よい頃合いでお開きとなる。
肩肘張らない宴会を、奉行と支配組頭と与力といった奉行所幹部が愉しみ、心を一つにする事はとても大切だ。
だが半ば役目の花見を心から楽しめない者もいる。
年若い見習は、親で世代の同役にもちろん、親世代の練達下役にも気を使う。
気疲れした柘植定之丞は、自然と檜垣屋に足が向く。
「よくぞおいでくださいました。
当主もお嬢様も首を長くしてお待ちしておりました。
折悪しく茶庵を檀家衆が使っておりますので、奥向きにご案内しなければいけないのですが、宜しいでしょうか」
役目を定時で終えた定之丞が檜垣屋を訪ねたのは、夕七つ半だった。
先触れの中間が知らせていたので、案内者控室にいた者達が迎えてくれる。
普通の時なら、主人も隠居もゆうも迎えてくれるのだが、三番番頭が言っていたように、折悪しく狭山藩北条家の代理が伊勢神宮の参詣に来ていた。
定之丞の考えで京大阪に拠点を設けた途端、陣吉と八吉が河内に領地を持つ狭山藩北条家を檀家に向かえたのだ。
ここで接待をしくじったら、一万石の領民全てを檀家にする絶好の機会を逃しかねないので、檜垣屋をあげて歓待しなければならなかった。
「話は先触れから聞いた。
今日は遠慮しようかとも思ったのだが、ひと目ゆうの顔が見たくてな。
遅くなってもいいから、歓待が終わるまで待たせてもらう。
奥向きに案内してくれ」
「ありがとうございます、此方にどうぞ」
勝手知ったる檜垣屋の間取りだが、見習とはいえ支配組頭ともあろうものが、案内もなしに入る事は体面に係わる。
三番番頭に案内されて、主人家族が住む一角の手前、中庭の前に渡り廊下と独立した枯山水の内庭がある八畳間に案内された。
部屋に入った途端、女中が伊勢山海の珍味を灘の名酒と共に運んでくる。
特に選ばれた女中のようで、見目麗しい手弱女だった。
「どうぞ一献」
「うむ」
定之丞は既に花見で幾らかの酒を飲んでいたが、奉行や年配の支配組頭と与力に気を付けていたので、酔えるほどは飲んでいなかった。
「柘植様、手代の陣吉でございます。
大阪の件でご報告があって戻りました。
折好く檜垣屋に来られていると知り、不躾を承知で参りました」
「ほう、わざわざ大阪から急ぎ戻ったのか。
それほどの事件ならば遠慮する事はない。
廊下では声が小さい、部屋に入って報告いたせ」
「はい、失礼させていただきます」
定之丞の言葉を受けて陣吉が部屋に入って来た。
「お前はもうよい、檜垣屋の仕事に戻れ」
逆に酌をしていた女中が部屋を出される事になった。
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