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第5章:内海船と北前船
第59話:出陣願い
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柘植定之丞は、ゆうを妻に迎えて幸せな日々を送っていた。
眉は落としたが、まだ鉄漿が染まり切っていないゆうは娘らしく、定之丞が寝食を忘れるほど魅力的だった。
そのまま色に溺れられたらよかったのだが、下忍御師手代が集めてくる噂が、そうはさせてくれなかった。
「噂によれば、薩摩藩は越後粟島を使って抜け荷を行っているとの事でございます」
「取り締まれないのか」
「佐渡奉行所の船が定期的に調べているそうなのですが、なかなか現場を押さえられず、証拠をつかむ事ができません」
「佐渡奉行所の小早二隻では、千石を超える薩摩商人の抜け荷船には及ばないか」
「はい」
佐渡奉行所にも船手組はあるが、普段は奉行所の人間や産出された金銀を乗せて、佐渡の小木と越後の出雲崎を行き来しているだけだった。
船も大小の小早が二隻あるだけで、大きい方の小早でさえ全長一九・一メートル、全幅三・九メートル、四十丁櫓しかなく、山田奉行所の小関船にも及ばない。
「我らが越後まで行ければいいのだが、長崎に援軍に向かった大阪船手組はどうなっているか聞いているか」
「大阪船手組は半数が川船でございます。
沖に出られる関船が六隻しかないにも関わらず、二隻が破損で使えません」
「何という事だ、役目怠慢にも程がある。
私が大阪にいれば、そのような事にはさせておかぬものを」
「御公儀も財政難で、使わぬ御召船は朽ちるに任せているようでございます」
「くっ、腹立たしい限りだ」
柘植定之丞は父親の伝兵衛に相談した上で、江戸表に出陣願を届出た。
父親と連名で薩摩藩の不正を暴きたいと願い出た。
最初から認められない事は分かっていたが、それでもよかった。
柘植家の名が幕閣の記憶に残るだけでも良いと思っていた。
名前さえ覚えてもらえていたら、何かの折に抜擢されるかもしれないのだ。
有能である事とやる気が有る事を知らせておけば、賄賂を贈らなくても役目をいただけるかもしれない。
例え賄賂を贈っていたとしても、名も忘れられていたら役目にはつけない。
名を覚えられていたとしても、無能だと思われていたら役目には付けない。
柘植親子の出陣願いには、山田奉行の大岡忠移も添え状を書いて支援した。
大岡忠移自身も江戸表からの命があれば出陣すると届出ていた。
大岡忠移にも切実な問題があったのだ。
柘植家から送られた付届けのお陰もあり、長崎奉行就任が内定していた。
これまでは、三千両を使っても楽に元が取れるのが長崎奉行だった。
それどころか、子々孫々困る事のない財が手に入ると言われていたのだ。
だが、薩摩藩の抜け荷がその構図を書き換えてしまった。
薩摩藩が大量に買い付ける所為で、蝦夷の俵物が暴騰していた。
同時に唐物の値段が、暴落とまではいわなないが大きく値下がっていた。
長崎奉行が御調物の名目で関税なしに買える唐物や南蛮物を、京大阪に持ち込んで売れば数倍になっていた。
だが唐物の値段が全体的に下がっていると、手に入る利がとても少なくなる。
長崎町人、貿易商人、地元役人たちから渡される年七十二貫もの銀や、九州諸藩からの付届けも、薩摩藩の抜け荷で利益が無くなっていたら、無くなってしまうかもしれないのだ。
大岡美濃守も、長崎奉行として現地に赴任するまでに抜け荷の証拠を掴み、薩摩藩を処罰するか、抜け荷を止めさせるかが損得に直結していた。
子孫が安心して暮らせるように、抜け荷を取り締まなければいけなかった。
幕閣でも真剣に意見が交わされ、中には山田奉行所の船手組を長崎に派遣しようと言う者まで現れたが、最終的には認められなかった。
山田奉行所の船手組を長崎に送っても『手薄になった伊勢沖を通って江戸に持ち込まれたら意味がない』という意見が出て流れてしまった。
『大阪船手組将軍家お預かり関船』
鳳凰丸:七十二丁櫓:九条船蔵:破損で使用不能
大鷹丸:五十二丁櫓:木津船蔵:
万歳丸:五十四丁櫓:木津船蔵:
千秋丸:五十二丁櫓:木津船蔵:
麒麟丸:五十八丁櫓:木津船蔵:
姫路丸:五十四丁櫓:木津船蔵:破損で使用不能
眉は落としたが、まだ鉄漿が染まり切っていないゆうは娘らしく、定之丞が寝食を忘れるほど魅力的だった。
そのまま色に溺れられたらよかったのだが、下忍御師手代が集めてくる噂が、そうはさせてくれなかった。
「噂によれば、薩摩藩は越後粟島を使って抜け荷を行っているとの事でございます」
「取り締まれないのか」
「佐渡奉行所の船が定期的に調べているそうなのですが、なかなか現場を押さえられず、証拠をつかむ事ができません」
「佐渡奉行所の小早二隻では、千石を超える薩摩商人の抜け荷船には及ばないか」
「はい」
佐渡奉行所にも船手組はあるが、普段は奉行所の人間や産出された金銀を乗せて、佐渡の小木と越後の出雲崎を行き来しているだけだった。
船も大小の小早が二隻あるだけで、大きい方の小早でさえ全長一九・一メートル、全幅三・九メートル、四十丁櫓しかなく、山田奉行所の小関船にも及ばない。
「我らが越後まで行ければいいのだが、長崎に援軍に向かった大阪船手組はどうなっているか聞いているか」
「大阪船手組は半数が川船でございます。
沖に出られる関船が六隻しかないにも関わらず、二隻が破損で使えません」
「何という事だ、役目怠慢にも程がある。
私が大阪にいれば、そのような事にはさせておかぬものを」
「御公儀も財政難で、使わぬ御召船は朽ちるに任せているようでございます」
「くっ、腹立たしい限りだ」
柘植定之丞は父親の伝兵衛に相談した上で、江戸表に出陣願を届出た。
父親と連名で薩摩藩の不正を暴きたいと願い出た。
最初から認められない事は分かっていたが、それでもよかった。
柘植家の名が幕閣の記憶に残るだけでも良いと思っていた。
名前さえ覚えてもらえていたら、何かの折に抜擢されるかもしれないのだ。
有能である事とやる気が有る事を知らせておけば、賄賂を贈らなくても役目をいただけるかもしれない。
例え賄賂を贈っていたとしても、名も忘れられていたら役目にはつけない。
名を覚えられていたとしても、無能だと思われていたら役目には付けない。
柘植親子の出陣願いには、山田奉行の大岡忠移も添え状を書いて支援した。
大岡忠移自身も江戸表からの命があれば出陣すると届出ていた。
大岡忠移にも切実な問題があったのだ。
柘植家から送られた付届けのお陰もあり、長崎奉行就任が内定していた。
これまでは、三千両を使っても楽に元が取れるのが長崎奉行だった。
それどころか、子々孫々困る事のない財が手に入ると言われていたのだ。
だが、薩摩藩の抜け荷がその構図を書き換えてしまった。
薩摩藩が大量に買い付ける所為で、蝦夷の俵物が暴騰していた。
同時に唐物の値段が、暴落とまではいわなないが大きく値下がっていた。
長崎奉行が御調物の名目で関税なしに買える唐物や南蛮物を、京大阪に持ち込んで売れば数倍になっていた。
だが唐物の値段が全体的に下がっていると、手に入る利がとても少なくなる。
長崎町人、貿易商人、地元役人たちから渡される年七十二貫もの銀や、九州諸藩からの付届けも、薩摩藩の抜け荷で利益が無くなっていたら、無くなってしまうかもしれないのだ。
大岡美濃守も、長崎奉行として現地に赴任するまでに抜け荷の証拠を掴み、薩摩藩を処罰するか、抜け荷を止めさせるかが損得に直結していた。
子孫が安心して暮らせるように、抜け荷を取り締まなければいけなかった。
幕閣でも真剣に意見が交わされ、中には山田奉行所の船手組を長崎に派遣しようと言う者まで現れたが、最終的には認められなかった。
山田奉行所の船手組を長崎に送っても『手薄になった伊勢沖を通って江戸に持ち込まれたら意味がない』という意見が出て流れてしまった。
『大阪船手組将軍家お預かり関船』
鳳凰丸:七十二丁櫓:九条船蔵:破損で使用不能
大鷹丸:五十二丁櫓:木津船蔵:
万歳丸:五十四丁櫓:木津船蔵:
千秋丸:五十二丁櫓:木津船蔵:
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姫路丸:五十四丁櫓:木津船蔵:破損で使用不能
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