伊勢山田奉行所物語

克全

文字の大きさ
68 / 68
第6章:伊勢歌舞伎

第68話:報復と未来

しおりを挟む
 柘植一門の拷問は御公儀の定めに縛られないとても激しい物で、とても役者に耐えられるような物ではなかった。

 ただ、誰が一番怪しいかなど聞くまでもない話しで、最初に問い詰められた染山喜十郎がぺらぺらと話したので、他の役者は拷問を免れた。
 もちろん最近一座に入ったばかりの連中は拷問を免れない。

「ぎゃあああああ、言います、言います、何でも言います」

 染山喜十郎は全てペラペラと話した。
 その内容は恥知らずにも程がある物で、澤村一座の役者が先代座長の恩を全て忘れ、殺意を込めて睨むほどだった。

 江戸で飲む打つ買うの三拍子で遊びまくり、賭場でとても返せない借金を背負い、それを棒引きしてもらいだけでなく、澤村一座を取り返す見返りに、柘植家を皆殺しにする手引きを約束していた。

 一人が全てを白状したら後は簡単だ。
 自分だけが何も話さず極刑に処せられるのは誰だって嫌だ。

 染山喜十郎の手引きで一座に入り込み、柘植家を皆殺しにする予定だって連中が全てを話した。

「若、どう思われますか」

 全員から自白を引き出した亀谷次郎右衛門は、その内容をどう考えるべきなのか、定之丞に確認した。

「連中が話す特徴から考えると、加茂虎太郎が黒幕なのだろう」

「その虎太郎の陰に薩摩や富山がいるではありませんか」

「いないとは言い切れないだろう。
 それは捕らえてみなければ分からない」

「ですが、捕らえても厳しい取り調べはできません。
 虎太郎が御定法通りの取り調べで自白するとは思えません」

「表で捕らえてしまったらそうなるだろう。
 だから個人的に捕らえて締め上げる。
 奉行所としてではなく、柘植家として家の面目にかけて捕らえる」

「承りました、選りすぐりの者達を江戸に向かわせます」

 定之丞に、江戸町奉行所に任せる気など毛ほどもなかった。
 柘植一族の面目にかけて、自らの手で報復を誓い、選り抜きの人材を送った。

 新たに家臣に加えた津藩無足人の子弟だった者も、実戦経験を積ませる意味もあり、全員江戸に送った。

 檜垣屋一門も、江戸に向かわせられる手代を全て送った。
 分家や暖簾分けも含めれば、百を越える人数が送られた。

 加茂虎太郎はとても慎重な性格で、前回も周りを利用するだけ利用して、最後の最後は自分だけ現場に来ずに逃げ延びた。

 今回も、刺客を送って直ぐに拠点としていた賭場から姿を晦ませていた。
 普通ならこれでもう後を追えないのだが、檜垣屋の伝手を使えば問題なかった。

 半年以上かかってしまったが、江戸中の檀家から賭場の情報を集めて、そこに出入りする事で加茂虎太郎への糸を手繰り寄せたのだ。

 流石の加茂虎太郎も、全く賭場を開かないと言う選択はできなかった。
 一日千両もの金が動く江戸の賭場を完全に閉める事ができなかった。
 新しい寺社や旗本屋敷で賭場を開けば大丈夫だと思ってしまった。

「加茂虎太郎、お前の背後にいる者を白状しろ。
 素直に話したら命だけは助けてやる」

 長期の休みをもらって江戸部隊の指揮を執り、遂に加茂虎太郎を捕らえ、拷問を加えるのは亀谷次郎右衛門だった。

「はん、誰が言うものか、死ぬまで怯えやがれ」

 もう柘植家以外の伊賀忍者の末裔では、誰も受け継いでいる者がいないだろうと思える苛烈な拷問を受けても、加茂虎太郎は何も言わなかった。

 四肢全ての指を爪から順に失っても、口を噤み続けた。
 最後には拷問の傷で死んでしまった。

「申し訳ございません。
 虎太郎と手先は全て始末しましたが、黒幕の有無は確かめられませんでした」

「それはしかたがない、少なくとも気になっていた奴は始末できたのだ。
 それに、思いがけず二万両もの余禄があった。
 江戸で賭場を開くとこれほどの利があるのだな」

「やられますか」

「いや、今は止めておこう。
 正々堂々とした表のやり方で天下を動かせるかもしれないのだ。
 息子の足を引っ張る父親にはなりたくない」

「はっ」

 加茂虎太郎を追っている間に、ゆうが珠のような男児を生んでいた。
 定之丞の贔屓目ではあったが、麒麟児だと思っていた。

 普通に生まれても、忍者修業で優れた武士に育てられる事は、代々の当主の業績で分かっていた。

 これまで行ってきた忍者修業と航海術と操船術に加え、新たに取り入れた勘定奉行所で使われる習字、算盤、算術まで学ばせるのだ。
 定之丞は必ず自分以上に優秀な武士に育つと思っていた。

 柘植家は今回の手柄で家禄を増やしてもらえるかもしれない。
 或いは江戸表の役職に就けてもらえるかもしれない。
 そうすれば息子の龍之丞が将軍家世嗣の小姓に選ばれるかもしれない。

 余りにも荒唐無稽な想像だと笑う者がいるかもしれないが、実際に定之丞の息子は徳川家基の小姓となり、歴史を変える活躍をするのだ。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

萌那
2023.06.10 萌那

続きが楽しみ!

2023.06.10 克全

感想ありがとうございます。

面白くできるように頑張ります。

解除
谷川ベルノー

ゆうお嬢さん、優しい。

2023.06.07 克全

コメントありがとうございます。

これからも優しい言動が入ってきます。

解除
ガツキー
2023.06.05 ガツキー

時代の設定がとてもリアルで面白かったです。
第三章から物語の佳境なっていて、最後まで楽しく拝見しました。
これからも、克全さんの作品を見続けたいと思いました。

2023.06.05 克全

感想ありがとうございます。

とてもうれしいです。

史実に基づいて多少の脚色と想像を入れています。
この後は伊勢御師による伊勢講への貸し金や伊勢屋について書きます。

解除

あなたにおすすめの小説

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。