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第6章:伊勢歌舞伎
第67話:晴れ舞台
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六部屋と縁側が開け放たれた座敷は六十畳もあった。
上座の八畳間二部屋に柘植一門がずらりと並んでいる。
縁側には、檜垣屋が集めた手練れが並んでいる。
下座には澤村一座の役者が勢揃いしている。
柘植家と檜垣屋の後援がもらえるかもらえないか、一座の命運をかけた芝居が始まった。
仇討ちに向かう浪士を演じる役者が迫真の演技を披露する。
目の肥えた芝居好きも納得する演技が続く。
だが三代目染山喜十郎の演技が全体を台無しにする。
とても大名人の息子とは思えない大根ぶりだ。
だが大根なのは三代目染山喜十郎だけではなかった。
端役とも言えない連中が主だった役者の邪魔をした。
事もあろうに、上座と下座の間にある部屋に入り込む。
「愚か者」
柘植次郎右衛門改め亀谷次郎右衛門が、鞘に入ったままの脇差を振るって中の座敷に入ってきた役者を叩きのめす。
手を打たれた役者が落としたのは竹光でも刃引きの打刀でもなかった。
本当に人を斬り殺せる打刀だった。
「ゆう、心配いらないよ。
前もって言っていたように、薩摩や富山に逆恨みされている。
これからも襲撃はされるだろうが、必ず撃退してみせる」
「はい、定之丞様を信じています」
定之丞はゆうに包み隠さず抜け荷の件を話していた。
何時薩摩隼人の襲撃を受けるか分からない状態なのだ。
覚悟していない時に襲われ、その驚きで流産してはいけないと思ったのだ。
だが、それが逆にゆうに負担をかけたのかもしれないと、気鬱になったゆうを見るたびに定之丞は自責の念に陥っていた。
忍者の心得を叩き込まれているから、面には一切表さないし、いつも思っている訳ではないが、このような場になるとどうしても心に浮かんでくる。
だがそんな迷いを直ぐに心の奥底に押し込めるからこその上忍だ。
「ゆうは私の後ろに隠れていなさい」
「はい」
下座で演じていた役者は全て取り押さえられていたが、定之丞に油断はない。
何所から矢玉が撃ち込まれてもゆうの盾になれるようにする。
その定之丞の盾になるように、与力同心が立っている。
「澤村宗十郎、若様を狙った理由を聞かせてもらおうか」
血縁的には定之丞の叔父になるが、一度は浪人となり、今では配下の与力となっている亀谷次郎右衛門が詰問する。
「ぞんじあげません、手前は全く存じ上げません、最近召し抱えた者達が勝手にやった事でございます」
「そのような言い訳が通じない事くらい、分かっているだろう。
事もあろうに一座の者が興行中に主客を殺そうとしたのだ。
軽くて追放、重ければ遠島に処せられる。
少しでも罪を軽くしてもらいたいのなら、全て正直に話せ」
「はい、はい、はい、嘘偽りなく全てお話させていただきます」
「若君、我らが気を付けていたのもありますが、こやつら自害する様子が全くありませんでした。
薩摩や富山の手の者なら、必ず自害しようとするはずです。
米澤や加賀も同じでしょう。
長岡や松前ならば自害する覚悟の有る者は少ないと思われますが、それにしても全く一人もいないと言うのはおかしすぎます」
「油断するな、こちらの油断を誘って自害するかもしれない」
「はっ」
「だが、私にも自害の覚悟のない者達のように見える。
だがそれは、むしろ好都合だろう。
少し厳しく取り調べれば、全て白状するだろう。
奉行所に連れて行ってからでは拷問ができん。
ここのいるうちに厳しく取り調べろ」
「はっ」
定之丞は、本家の跡継ぎとしてだけでなく、奉行所の上役としても、叔父の亀谷次郎右衛門に厳しく命じた。
「残念な事になってしまったが、これで敵の襲撃を撃退できると分かった。
これでゆうも安心して暮らせるだろう」
「定之丞様が御強い事は以前から分かっているのです。
ですが、どうしても心配してしまうのです」
「大丈夫でございます。
我々が命に代えて若を御守りいたします。
奥様が心配されるような事は絶対に起りません」
「ええ、貴方達が命懸けで定之丞様を護ってくれているのはよく分かっているの。
分かっているのだけれど、どうしても心配なの」
ゆうの気鬱は治りそうになかった。
この時代は七歳までは神のうちと言うくらい乳幼児の死亡率が高かった。
軽く七割を越え、八割近い子供が七歳までに死ぬのだ。
だが死ぬのは子供だけではない。
母親の十人に一人、一割の母親がお産で死んでしまうのだ。
ゆうが気鬱になり、時にお腹の子を心配し、時に定之丞を心配してしまうのも、仕方のない事だった。
そして定之丞がゆうを心配するのも仕方のない事だった。
上座の八畳間二部屋に柘植一門がずらりと並んでいる。
縁側には、檜垣屋が集めた手練れが並んでいる。
下座には澤村一座の役者が勢揃いしている。
柘植家と檜垣屋の後援がもらえるかもらえないか、一座の命運をかけた芝居が始まった。
仇討ちに向かう浪士を演じる役者が迫真の演技を披露する。
目の肥えた芝居好きも納得する演技が続く。
だが三代目染山喜十郎の演技が全体を台無しにする。
とても大名人の息子とは思えない大根ぶりだ。
だが大根なのは三代目染山喜十郎だけではなかった。
端役とも言えない連中が主だった役者の邪魔をした。
事もあろうに、上座と下座の間にある部屋に入り込む。
「愚か者」
柘植次郎右衛門改め亀谷次郎右衛門が、鞘に入ったままの脇差を振るって中の座敷に入ってきた役者を叩きのめす。
手を打たれた役者が落としたのは竹光でも刃引きの打刀でもなかった。
本当に人を斬り殺せる打刀だった。
「ゆう、心配いらないよ。
前もって言っていたように、薩摩や富山に逆恨みされている。
これからも襲撃はされるだろうが、必ず撃退してみせる」
「はい、定之丞様を信じています」
定之丞はゆうに包み隠さず抜け荷の件を話していた。
何時薩摩隼人の襲撃を受けるか分からない状態なのだ。
覚悟していない時に襲われ、その驚きで流産してはいけないと思ったのだ。
だが、それが逆にゆうに負担をかけたのかもしれないと、気鬱になったゆうを見るたびに定之丞は自責の念に陥っていた。
忍者の心得を叩き込まれているから、面には一切表さないし、いつも思っている訳ではないが、このような場になるとどうしても心に浮かんでくる。
だがそんな迷いを直ぐに心の奥底に押し込めるからこその上忍だ。
「ゆうは私の後ろに隠れていなさい」
「はい」
下座で演じていた役者は全て取り押さえられていたが、定之丞に油断はない。
何所から矢玉が撃ち込まれてもゆうの盾になれるようにする。
その定之丞の盾になるように、与力同心が立っている。
「澤村宗十郎、若様を狙った理由を聞かせてもらおうか」
血縁的には定之丞の叔父になるが、一度は浪人となり、今では配下の与力となっている亀谷次郎右衛門が詰問する。
「ぞんじあげません、手前は全く存じ上げません、最近召し抱えた者達が勝手にやった事でございます」
「そのような言い訳が通じない事くらい、分かっているだろう。
事もあろうに一座の者が興行中に主客を殺そうとしたのだ。
軽くて追放、重ければ遠島に処せられる。
少しでも罪を軽くしてもらいたいのなら、全て正直に話せ」
「はい、はい、はい、嘘偽りなく全てお話させていただきます」
「若君、我らが気を付けていたのもありますが、こやつら自害する様子が全くありませんでした。
薩摩や富山の手の者なら、必ず自害しようとするはずです。
米澤や加賀も同じでしょう。
長岡や松前ならば自害する覚悟の有る者は少ないと思われますが、それにしても全く一人もいないと言うのはおかしすぎます」
「油断するな、こちらの油断を誘って自害するかもしれない」
「はっ」
「だが、私にも自害の覚悟のない者達のように見える。
だがそれは、むしろ好都合だろう。
少し厳しく取り調べれば、全て白状するだろう。
奉行所に連れて行ってからでは拷問ができん。
ここのいるうちに厳しく取り調べろ」
「はっ」
定之丞は、本家の跡継ぎとしてだけでなく、奉行所の上役としても、叔父の亀谷次郎右衛門に厳しく命じた。
「残念な事になってしまったが、これで敵の襲撃を撃退できると分かった。
これでゆうも安心して暮らせるだろう」
「定之丞様が御強い事は以前から分かっているのです。
ですが、どうしても心配してしまうのです」
「大丈夫でございます。
我々が命に代えて若を御守りいたします。
奥様が心配されるような事は絶対に起りません」
「ええ、貴方達が命懸けで定之丞様を護ってくれているのはよく分かっているの。
分かっているのだけれど、どうしても心配なの」
ゆうの気鬱は治りそうになかった。
この時代は七歳までは神のうちと言うくらい乳幼児の死亡率が高かった。
軽く七割を越え、八割近い子供が七歳までに死ぬのだ。
だが死ぬのは子供だけではない。
母親の十人に一人、一割の母親がお産で死んでしまうのだ。
ゆうが気鬱になり、時にお腹の子を心配し、時に定之丞を心配してしまうのも、仕方のない事だった。
そして定之丞がゆうを心配するのも仕方のない事だった。
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