夢にまで見た異世界召喚に巻き込まれたけれど、虐め勇者の高校生に役立たずはいらないと追放された。

克全

文字の大きさ
18 / 37
第一章

第13話:悪口陰口

しおりを挟む
異世界召喚から36日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点

 国王は俺の言葉を受けて即座に決断した。
 魔境に大規模なスタンピードの兆しがあると、王城の鐘が乱打させた。
 全国民に、王都に籠ってスタンピードに備えるように知らされたのだ。

 これは王都内や王都周辺にいる者だけに出されたのではない。
 ダンジョンに入っている騎士団員や冒険者はもちろん、ファイフ王国との国境を護っている領主や騎士団長にまでに、騎馬の急使を送って参集を命じる。

 国家存亡の危機にしか叩かれない大規模スタンピードに対する鐘だ。
 参集しない者は卑怯下劣な叛逆者とされ、言い訳も許されず死刑にされるのだ。
 
 ダンジョンに潜っている者は、全員狩りを止めて地上に上がる。
 国境では関所を閉め、少数の騎士と従騎士だけを残す。
 騎士長以上は全員、騎士も留守番以外の全員が騎馬を駆って王都に急行する。

 ファイフ王国との国境は、左右を魔境のはさまれた細くて長い街道だ。
 長いとは言っても、騎馬を駆けさせれば半日はかからない。
 夜の浅い時間に急使を送れば、深夜を越えたくらいには関所にたどり着ける。

 王都内、特に王城内では急速に魔獣討伐の準備が整えられていく。
 特に歴戦のダンジョン騎士団の準備は早い。
 騎士団長や副騎士団長はもちろん、百騎長も部隊編成を急ぐ。

 普段のダンジョン騎士団には正騎士しかいない。
 わずかに騎士の子弟が訓練を兼ねて従騎士になっているが、普段は極々少数だ。
 9000騎いるはずの従騎士は、冒険者としてダンジョンに潜っている。

 14万の民に必要な食糧を確保し、生活に必要な資源も確保するために、ゼルス王国の人々は老若男女問わずダンジョンに潜っている。
 そんな屈強な冒険者が、非常時には従騎士として徴兵されるのだ。

 そんな屈強な冒険者の中でも、特に強い者達がダンジョン騎士団に配属される。
 現役で今現在魔獣と戦っている騎士でなければ、屈強な冒険者を従えられない。
 最低限だけ鍛えて騎士となったような連中では、とても従わせられない。

 国境警備の騎士団は対人戦が主なので、惰弱な貴族士族子弟がコネで配属される。
 あるいは1番死傷の可能性が低い王都騎士団に配属される。

 近衛騎士団は、採用されるには王の前で実力を披露しないといけないので、惰弱な貴族士族の子弟は避けている。
 つまり、臨戦態勢を整えたダンジョン騎士団が最強なのだ。

 覚悟を定めた国王に率いられたダンジョン騎士団が、普段は1割の1000騎しかいない国境騎士団を、定数を満たした1万騎で待ち構えていたのだ。
 
 北門と北側城壁を護っていたライリー騎士団長は、わずかな2人の百騎長だけを城門と城壁に残して、副団長1人と百騎長8人を率いて王城に参集していた。

 ライリー騎士団長は刻々と魔獣討伐の準備が整う中で、この状態での奇襲は不可能と考え、ファイフ王国に密使を送った。

 奇襲はスタンピードが落ち着いて強制徴募が解かれてからにした方が良いと、自分が裏切るから確実に勝てる時に奇襲をした方が良いと、密使に伝えさせようとした。

 ★★★★★★

「急な参集の命令に驚かれたでしょう?」

 昼となり、馬を駆けさせて王城に来た国境警備騎士団長のマディソンと、国境周辺の領主であるマクリントック伯爵に、ライリー王都騎士団長が話しかけている。

 3人の周辺には、自然と裏切者が集まっている。
 国王自らが選んだ宮中伯からは集まらないが、世襲貴族の半数が集まっていた。

 能力が低い癖に何の努力もせず、プライドだけは高いクズ共。
 命を惜しんでダンジョンにも潜らない憶病者だと王が教えてくれた連中だ。

「いやはや、魔境担当に騎士団の無能には驚かされますな。
 専従で魔境の獣を狩っているというのに、数を増やしてしまうのですから」

 索敵魔術であらゆる情報を集めている俺には、配下の百騎長や騎士長で壁を作っても何の意味もない。
 どれほど遠く離れていても、ささやくような小声でも、全会話を聞く事ができる。

 特に難しくもないので、国王と王族にも聞かせてやっている。
 ここで決定的な裏切りの会話をしてくれればいいのだが、どうだろうか?
 どれほどのバカでも、この場で裏切りの詳細を話す可能性は低いな。

「くっ、くっ、くっ、くっ。
 世襲貴族の半数以上が裏切っているというのに、全く気がついていない。
 こんな愚かな王に仕えていた自分が情けないですよ」

「マクリントック伯爵の申される通りだ。
 尊き血統の貴族を大切にせず、平民冒険者を騎士や貴族の取立てるような王は、早々に死んでもらった方が良い。
 貴族と平民、人と獣人の違いを知っておられる、カーネギー王家に支配していただいた方がこの国の為です」

「ライリー騎士団長の申される通りです。
 貴君のように男爵家の血を受け継ぐ英傑が騎士団長にふさわしいのです。
 平民冒険者が騎士団長に取立てられるなど、貴族の栄光が地に落ちます」

 黙って聞いていると言いたい放題だ。
 俺には他人事なので、特に腹は立たない。
 それの俺は、こういう時代、こういう考えを経て自由平等が育つと知っている。

 だが、直接悪し様に罵られている国王と魔境騎士団長は、怒りに身体を振るわせているのだから、この後の展開が楽しみだ。

「そう、そう、ファイフ王国にはスタンピードを抑え、強制徴募が解かれたから侵攻するように伝令を送りました」

「ライリー騎士団長も送られたのですか?
 私の同じ内容の伝令をファイフ王国に送りました」

「私も同じ内容の伝令を送りましたよ」

「マディソン騎士団長とマクリントック伯爵も伝令を送られたのですか?
 先の見える者は同じことを考えるようですね」

「「「ワッハハハハハ」」」

「ですが、私達以外の騎士団長にスタンピードを制圧できますかね?」

「ライリー騎士団長の心配はもっともです!
 穢れた血の平民風情が指揮する騎士団では、魔獣に勝てるはずがない。
 魔獣に殺されるのは必定。
 王都が魔獣に囲まれる恐れがあります」

「やはり我々のような優秀な貴族が指揮を執ってやらねばなりませんな」

「ライリー騎士団長の申される通りだ。
 我らが騎士団を率いて魔獣を討伐する事になるでしょう」

「……ご両所、いっそこの機会を上手く利用してはいかがか?」

「「上手く利用する?」」

「我ら3人は、ファイフ王国軍を王都に引き入れる事で伯爵位と領地を約束されたが、我ら3人の手で王都王城を占領すれば、もっと高い爵位と広い領地を得られるのではないか?」

「マクリントック伯爵の申される通りだ。
 ダンジョン騎士団と魔境騎士団が壊滅した後なら、残っているのは近衛騎士団と国境騎士団、後は4つの王都騎士団だけだ。
 王の事だから、民のためだと言って自ら近衛騎士団を率いかねない」

「ライリー騎士団長の申される通りだが、更に読める事があるぞ」

「「なんだ?」」

「王の事だから、王都を護る王都騎士団は残すだろう。
 魔獣討伐は近衛騎士団と国境騎士団で行われる。
 その時に、私が国境騎士団を率いて近衛騎士団を襲って王の首を取る。
 ライリー騎士団長は配下の騎士団を率いて城門を確保する。
 マクリントック伯爵は世襲貴族達と王城を占拠して王族を皆殺しにする。
 これで我らの手柄は絶大となるぞ!
 約束の伯爵どころか侯爵も夢ではないぞ!」

「なあ、いっそ3人でこの国を支配しないか?
 ファイフ王国に、この豊かなダンジョンをやる必要などない。
 我ら3人でダンジョンの上りを山分けすれば、小国の王に匹敵する富と権力を手にできるのではないか?」

 あ、国王が剣に手をかけて走って行った。
 近衛の連中も同じように剣に手をかけて走って行った。
 あまりの言葉に怒りの限界を超えてしまったのだろう。

 国王が逆臣に討たれるようなことがあっては最悪だが、大丈夫だろう。
 逆臣連中のステータスなら、国王1人でも簡単に皆殺しにできるな。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...