勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全

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第一章

第14話:勇者ガブリエルたちは③

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 聖歴1216年1月10日:ガブリエル視点

「さて、教皇殿と枢機卿たちに同席してもらったのは他でもない。
 勇者ガブリエルがゴッドドラゴンを従魔にするために、何の罪もない人々を生贄にしようとしたという噂の真偽を確かめるためだ」

 王国から詰問の役目を与えられたとはいえ、騎士ごときが勇者である俺様を調べるだと、調子に乗るんじゃねぇ。
 そう叫びたかったが、教皇や魔術師協会に止められているからできない。
 予言の書が間違っていたのは教団がバカだからだろう、俺のせいじゃない。
 クロエの魔術が下級モンスターにすら通用しないのは魔術師協会が無能だからだ。

「王国の使者ともあろう者が、本気で言っておられるのですか。
 愚かな民が広める根も葉もない噂を、王国が取り上げるなど信じられません。
 嘘を信じて、この世界を救ってくださった召喚聖者の1柱、ルイーズ様を奉じる教団が認めた勇者を冤罪をかけようなど、神を畏れぬ所業ですぞ」

 教団は王家の事を自分たちよりも下に見ている。
 だから王家が派遣してきた詰問使の相手を、中級の聖職者にやらせている。
 教皇や枢機卿たちは、詰問使を虫けらをみるような目で睨んでいる。
 いいぞ、いいぞ、俺様を詰問しようとした騎士が罰を受けるようにしろ。
 なんなら勇者である俺様がこの場でブチ殺してやるぞ。

「だまれ、下郎。
 私は王国から派遣された正式な使者だ。
 その正使が教皇殿に直接たずねているのだ。
 お前ごとき卑しい身分の者が、正使である私に声をかけるな。
 次に教皇殿以外が返答するようなら、生贄行為に教団が係わっていたと断ずる。
 よいですな、教皇殿」

「……ずいぶんと教団を下に見ているようだな、正使殿。
 今の言葉は、本当に王国の正式なものなのだな。
 正使殿が勝手に口にした言葉なら、ただですすまんぞ」

 ここで教皇が直接返事をしてどうする!
 ずっと下級聖職者に相手をさせていればいいだろう。
 その程度の度胸しかないから騎士ごときに舐められるんだ。

「王国だけでなく、王家にも色々な噂が伝わってきているのだ。
 平民だけでなく、貴族や騎士達からも教団に対する苦情がでている。
 はっきりと言っておくが、召喚聖者様はルイーズ様だけではない。
 他の召喚聖者様を奉ずる教団を優遇すれば何の問題もない。
 王国も王家も、ルイーズ教団がなくなっても困らないのだ」

 なんだと、ルイーズ教団が禁止されるのか。
 俺様を勇者と認定したのはルイーズ教団だけなのだぞ。
 そのルイーズ教団が禁止されてしまったら、俺様は勇者でなくなってしまう。
 殺すか、この使者を殺したら、王国とルイーズ教団との戦争になるか?
 ルイーズ教団がこの国の支配者になった方が、俺様が好き放題できるか?

「ふっふっふっふっ、正使殿、本気で言っているのか。
 我がルイーズ教団と正面から戦って勝てると、本気で思っているのか。
 教団を貶めようとしている貴族や騎士が幾人いると言うのだ。
 そんな背教徒など、ルイーズ教団を信じる貴族や騎士が簡単に滅ぼすぞ」

「フン、召喚聖者の名を騙るだけあって、信じられないくらいバカだな。
 ボルドーでの悪業を全ての貴族と騎士が知っているのだぞ。
 聖職者たちがボルドーの領民をさらって奴隷にしていた事、知らなかったとは言わさないぞ、教皇殿」

 はあ、王国の正使は何を言っているのだ。
 尊き身分の者が、平民をどのように扱おうと勝手ではないか。
 俺の父親である村長は、村民を好きにする事が許されていた。
 聖職者が信徒をどう扱おうと勝手ではないか。
 まして他の召喚聖者を信じる平民など、奴隷にしようが殺そうが問題ない。

「ほう、そのような事があったのか、やはり破門しておいてよかった。
 正使殿が言っているボルドーの神殿は、尊き召喚聖者ルイーズ様ではなく、この世界を破滅させようとした邪神を奉じていたのだ。
 それが分かったから、1カ月ほど前に破門している。
 奴らが何をしようと、ルイーズ教団にはまったく関係がない」

「そのような子供だましの言い訳が通用すると思っているのか、教皇」

「通用するもしないも、真実なのだから仕方あるまい。
 王国こそルイーズ教団を陥れるのは止めてもらおう。
 これ以上王国がルイーズ教団を貶めると言うのなら、信徒を総動員して戦うぞ。
 王国は我らと戦う覚悟があるのだな」

「王国を脅すつもりならムダだぞ、教皇。
 ルイーズ教団の教えを信じている貴族や騎士を皆殺しにして、王権を強化する好機だと言うのが、王国の方針なのだ。
 素直に王権に従うならよし、そうでなければ滅ぼされる事を覚悟しろ」

「……どうも正使殿は大きな勘違いをしておられるようですな。
 ルイーズ教団は王家に逆らう気など毛頭ないのです。
 勇者が生贄を使ってゴッドドラゴンを従魔にしようとしたという疑いは、教団ではなく直接勇者に聞いていただかねば、真実は分かりませんぞ。
 それに、ボルドーの神殿を破門にしたのは間違いのない事実です。
 書類を調べてもらっても構いません。
 教団は王家の方針に従って協力させていただきます」

 教皇の野郎、勇者である俺様を売りやがった。
 自分が助かるために、俺様を売るなど絶対に許さん。
 教皇がそのつもりなら、俺様にも覚悟があるぞ。
 教皇がやってきた悪事を全てぶちまけてやる。
 それに、俺様の力を証明してやれば、王家も俺様が勇者だと認めるだろう。

「……では勇者を名乗るガブリエルに直接問う。
 お前はゴッドドラゴンを従魔にするために300人の民を生贄にしたのか?」

「それは……」

「おっと、正使殿言っておかなければいけない大切な事を忘れていました。
 教団が認めた勇者ガブリエルは王家に対して忠誠心を持っているのですよ。
 王家が必要と言うのなら、どのような役目も引き受けると常々言っています。
 どうです、勇者ガブリエルに王家が所有しているダンジョンを攻略させてわ。
 王家も王国も何かと物入りなのではありませんか。
 教団も協力を惜しみませんぞ。
 勇者パーティーに加えて、教団の聖職者や聖堂騎士を派遣いたしますぞ」

 教皇の野郎、俺様が裏切ろうとしたのを察しやがったな。
 このまま教団の悪事を暴露した方が俺様に有利だろうか?
 それとも、教皇に従う方が俺様に有利なのだろうか?
 俺様が王家のダンジョンを攻略すれば、王家も俺様の実力が分かるだろう。
 教団と王国の両方が俺様を勇者と認める事が1番なのは確かだ。

「俺様は教団に勇者だと選ばれたのではない。
 俺様を勇者に選んだのは神なのだ。
 それを、ダンジョンを攻略する事で証明してやろう」

「……ガブリエルが勇者かどうか調べるのは私の役目ではない。
 私の役目はガブリエルが民を生贄にしたか調べる事と、教団がボルドーの民をさらって奴隷としたかどうかだ。
 教団が積極的に王家に協力すると約束するのなら、その取り調べ方は変わる。
 だが、どれほど昔に内々で破門していたと言い張ろうと、書類上の証明があろうと、公表していなければ誰もボルドーの神殿が破門された事が分からない。
 ボルドー領主の民をさらった責任からは絶対に逃れなれないぞ」

「正使殿の申される通りです。
 勇者ガブリエルが平民を生贄にしたかどうかは、ダンジョンを攻略時の振舞いで確認して頂ければ分かる事です。
 ガブリエルの勇者らしい振舞いで、簡単に疑いは晴れる事でしょう。
 それと、ボルドーの神殿を破門した事を公表しなかった事は教団の落ち度です。
 破門したボルドー神殿に、財産である領民を奪われた領主殿には、直接話し合って相応の償いをさせていただきますので、確認してください」

「教皇の言う通りだ。
 勇者である俺様の振舞いを確認すれば、卑しい民が流す噂が嘘だと直ぐに分かる。
 何なら使者である貴公が直接確認すればいい」

「その言葉、忘れるなよ。
 お前が勇者を名乗るに相応しいかどうか、厳しく確認させてもらうからな」
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