幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全

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第一章

第1話:寿命・皇太子視点

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「陛下、一大事でございます、聖女様がお倒れになられました!」

 皇宮と聖殿の連絡係が慌てて政務室に飛び込んできた。

「なに、直ぐに行く、医師は派遣したのか?」

 皇帝陛下が血相を変えて立ち上がられた。
 たぶん私の顔色も真っ青だろう。
 この国の要、繁栄の基礎となっているのは、聖女による護りだ。
 聖女の護りなくして魔獣の侵入は防げないし、聖女の恵みなくして一粒の実りも手に入らない、それが荒れ果てた大地に建国された皇国の定めなのだ。

「聖女ルミナス、気を確かに持ってくれ。
 今君に死なれてしまったら、皇国の民が死に絶えることになる」

 聖殿にある聖女の寝室に飛び込んだ皇帝陛下が、身も蓋もない事を言う。
 聖女の事を想い心配しているのではなく、身勝手にも皇国の民のために聖女に死ぬなと言っている。
 何とも非情な言葉だが、それが為政者としては正しい視点なのだろう。
 個々の命ではなく、国全体の命を考える義務と責任があるのだ。

「分かっております、護りと恵みを手薄にしてでも、命永らえねばなりません。
 今しばらくは生きてみせます。
 ですが、それにも限界がございます。
 随分と引き延ばしてきたのです、もうそろそろ限界でございます。
 長くても三年、短ければ一年の命でしょう。
 まだ、まだ見つかりませんか、十五年前に消えてしまった次代の聖女は!」

 聖女ルミナスが、血を吐くような想いを込めて皇帝陛下を詰問した。
 大陸一強大な皇国が、たった一人の人間も探せない事をなじっているのだ。
 だがそれも仕方のない事だと思う。
 本来死すべき運命なのに、それに逆らって寿命を延ばす、それがどれほどの苦痛を伴う事なのか、俺ごときには想像もできない事だ。

「すまぬ、申し訳ない、残念だがまだ見つからないのだ。
 だがなんとしてでも探し出す、もうなりふり構ってはおられない。
 懸賞金を、いや、皇太子の正妃の座をかけてでも、聖女を探し出して見せる」

 皇帝陛下が次代の聖女探しを秘密にしていた事は仕方がない。
 もし皇国に次代の聖女がいないと他国に知られたら、皇国を滅ぼしたいと思う国々が、躍起になって次代の聖女を殺そうとするだろう。
 皇国の庇護下にない聖女は本当に危険なのだ。
 だからといって皇国が聖女探しに手を抜いていたわけではない。
 密偵部門と外交部門を大増員して、次代の聖女が生まれたと聖女ルミナスが感じた、ダイザー王国を中心に探し回っていた。

「げっほっ!」
「聖女、聖女ルミナス!
 薬だ、早く薬を持て!」

 聖女ルミナスがどす黒い血を吐いた!
 寿命を延ばすためにの劇薬や呪文によって、身体がボロボロになっているのだ。
 我知らず涙が流れてしまう、止めようと思っても止められない。
 私にできる事は何だろうか?
 若年とはいえ、私は皇国の皇太子だ!
 国のため民のため、やれること、やらねばならない事があるはずだ!
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