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第一章

第1話:元服祝い

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神暦2492年、王国暦229年1月15日:王城

「父王陛下、元服の祝いに領地を頂きとうございます!」

「これ、これ、ジェネシス。
 あまりムチャを言うものではない」

「ムチャではございませぬ、父王陛下。
 私はもう元服したと父上が申されたではありませんか」

「何を申しているのだ、ジェネシス。
 元服したとは言っても、お前はまだわずか7歳ではないか。
 それを領地をくれなどとワガママを言ってはならぬ。
 それに、王城を出てしまっては王位継承権がなくなるのだ」

「王位継承権と申されますが、私には25人もの兄上がおられるではありませんか」

「ジェネシス、25人もいた、だ。
 そなたには25人もの兄達がいたが、みな病弱であった。
 大半が生まれて直ぐに死んでしまっておる。
 生き残っている子供達も、みな病弱なのだ……」

「ですが父王陛下、兄上達がおられるのに王位継承を考えるなど私にはできません」

「そなたは優しく賢いな、ジェネシス。
 そんなお前だからこそ、王位継承権を捨てるような事はさせられぬ」

「ですが父王陛下、私は健康だからこそ身体を動かしたいのです。
 このままろくに運動の許されない後宮に閉じ込められていては、それこそ病気になってしまいます!」

「恐れながら国王陛下、傅役としてひと言言わせて頂いて宜しいでしょうか?」

「おお、セバスチャンか、よいぞ、自由に申してみよ」

「国王陛下がジェネシス王子を心配されるお気持ち、臣下としてよく分かります。
 恐れならこのジェネシスも、ジェネシス王子の傅役を陛下から命じられて以来、人生の全てを王子の傅育に費やさせていただいております」

「うむ、セバスチャンはよくやってくれておる。
 余の子供の中で、オードリーが産んでくれた子供だけが健康だ。
 その中でもジェネシスが特に健康である。
 全てセバスチャンをはじめとした教育係の努力であると思っておるぞ」

「はっ、有難きお言葉を賜り、恐悦至極でございます。
 だからこそ、ここは王子の願いの一部を叶えて差し上げていただきたいのです」

「だからこそ?
 願いの一部?
 そういう意味だ、セバスチャン」

「ずっと王子を傅育させていただき、分かった事がございます。
 ジェネシス王子がご健康なのは、身体を動かされているからでございます」

「身体を動かすから元気だと?
 元気だから身体を動かせているのではないのか?」

「国王陛下、武術や学問を思い出してください。
 日々努力するからこそ武術も学問を習得できるのでございます。
 健康も身体を動かさなければ手に入れられなのでございます」

「その通りでございます、父王陛下。
 ずっと後宮に閉じこもっていては、陽の下に出ただけでめまいがしてしまいます。
 毎日庭に出て身体を鍛錬するからこそ、健康になれるのです」

「……うむ、子供の中で唯一健康なジェネシスがそう言うのなら、そうかもしれぬが……それでも領地を与える訳にはいかぬぞ!」

「国王陛下、領地を与える必要などございません。
 ジェネシス王子が願っておられるのは自由に身体を動かす機会でございます。
 王城の外に出て、狩りをする許可を与えられればいいだけでございます」

「ならん、ならん、ならん、絶対にならぬ!
 危険だ、あまりにも危険過ぎる!
 わずか7歳のジェネシスに狩りの許可を与えるなど危険過ぎる!」

「国王陛下、そのような心配はご無用でございます。
 ジェネシス王子の武術と魔術は、もはや騎士団長に匹敵するほどでございます。
 魔境境界部や辺境部に現れる野獣や魔獣など簡単に狩ってしまわれます」

「何をバカな事を申しているのだ!
 わずか7歳の子供が、騎士団長に匹敵するほどの武術や魔術を使える訳がない」

「恐れながら国王陛下、今の言葉に嘘偽りなどございません。
 ジェネシス王子の武術と魔術は超一流と、傅役として断言させていただきます。
 信用できないと申されるのでしたら、陛下を護衛している近衛騎士団長に手合わせしていただければ分かります」

「セバスチャン卿、私も武術と魔術を認められて近衛騎士団長を拝命している。
 国王陛下の血を受け継がれるジェネシス王子とはいえ、7歳の子供に劣ると言われては、名誉に傷がつく。
 今の言葉を撤回してもらえなければ、決闘を申し込む事になりますぞ!」

「近衛騎士団長、私は貴君がジェネシス王子に劣るとは言っていない。
 ジェネシス王子が騎士団長の方々に匹敵すると言ったのだ。
 貴君には王子の武勇を証明するけいこをつけてもらいたいだけだ」

「ふむ、ジェネシス王子におケガをさせないようにしながら、魔境の境界部や辺境部で狩りができるか確かめて欲しいと言う事か?」

「そうだ、国王陛下には、ジェネシス王子の狩りは認めていただきたい。
 だが同時に、絶対に王子にケガをさせる訳にはいかない。
 そのような力加減ができて、武勇の件で陛下を説得できるのは貴君だけだ」

「……そういう事なら引き受けないでもないが、全ては陛下のお気持ちしだいだ」

「国王陛下、どうかジェネシス王子と近衛騎士団長のけいこを許可願います」

「……どうしてもけいこさせないといけないのか?
 何も狩りに拘らなくてもよいではないか。
 馬場で馬術の訓練もできれば、道場で剣や槍の訓練もできる。
 魔術も専門の闘技場を使えば訓練できるぞ」

「国王陛下、ジェネシス王子はもっと広い場所を望まれているのです。
 青く高い空の下、どこまでも続く広い大地で、自由自在に駆け回りながら狩りをしたいと渇望されているのです。
 陛下からジェネシス王子を預かりした傅役として、何としてもその願いを叶えて差し上げたいのです!」

「ジェネシス、本当に近衛騎士団長とけいこをしてでも狩りに行きたいのか?」

「はい、父王陛下!」

「……そこまで申すのならしかたがない、許可しよう」

 ★★★★★★

「チェストー!」

「ガッ、グッ!」

「回復呪文急げ!
 直ぐに回復させないと、近衛騎士団長が死んでしまうぞ!」

「父王陛下!
 近衛騎士団長に勝ちました。
 これで魔境に狩りに行ってもいいのですね!」

「……セバスチャン、そなた嘘を言っていたのだな……」

「国王陛下、私は嘘など申しておりません。
 ジェネシス王子は私の言葉通り騎士団長に匹敵する強さでございましょう?」

「……我が国最強の近衛騎士団長が、剣を受ける事すらできず、一撃で強固な鎧ごと肩を砕かれて死にかけているのを、騎士団長に匹敵するとは言わぬ。
 これは、全ての騎士団長が束になっても叶わないと言うのだ!」
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