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1話

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「リトリア公爵家グレン卿。
 貴公のキッカ王女に対する不埒な振る舞いは許し難い!
 リトリア公爵家の長年に渡る忠勤に免じて死罪には問わぬが、この国に留まる事は絶対に許さぬ。
 国外追放にしてやるから、どこにでも好き勝手に行くがいい。
 近衛騎士団、この不埒者を王都から叩きだせ!」

 怒りのあまり吐き気がします。
 許し難い茶番劇です。
 義兄上に反論ができないように、事前に舌を切り落とすなんて!
 王家が、いえ、ふしだらなキッカ王女の不義密通を隠蔽するために、王家とエストア公爵家が絵図を書いた謀略です。

 リトリア公爵家を罪に問わなかったのも、忠勤に免じた訳ではありません。
 リトリア公爵家が聖女の私を確保しているからです。
 ラエヌア王家が守護神アルテミスに約束している貢物は、聖女に選ばれた処女が、高貴な生まれの処女令嬢百人指揮して心のこもった唄を捧げる事なのです。

 ところが、月神殿の神官も王家も貴族も堕落しており、処女ではない王女や貴族令嬢が増えているのです、
 神託を得ていない穢れた王女や令嬢を、賄賂を受け取って聖女に選んでいて、私以外に真の聖女がいないのです。
 高貴な生まれの処女令嬢百人は、男爵令嬢や士族令嬢まで動員して、なんとか形だけ整えていますが、近いうちに約束を守れなくなるでしょう。

 でも、私が見捨てたらそれまでです。
 私が逃げ出したら、月神アルテミス様との契約は失われる事になります。
 いえ、今年の貢物、唄捧げの儀式に処女ではない令嬢が紛れ込んでいたら、やり直さなければ今年で契約が失われる事になります。
 今年の麦の成長の悪さを考えれば、間違いなく処女ではない令嬢が紛れ込んでいて、唄捧げの儀式を再度やらなければいけないはずです。

 ですが私は絶対に儀式を指揮したりしません。
 愛するグレン義兄上を裏切った王家に協力などしません。
 愛するグレン義兄上を罠に嵌めて舌を切り落とすような、腐れ外道の王家など、この手で滅ぼしてやりたいのです。
 だからリトリア公爵バーン義父上を説得しました。

「義父上、ここまで踏みつけにされて、まだ王家に忠誠を尽すのですか?
 それもで義父上は誇り高いリトリア公爵家の当主ですか?!
 貴族家の誇りを守るためなら、王家に剣を向けるのも貴族の矜持だと、私に教えてくれたのは義父上ではありませんか?!」

「分かった。
 私も跡取り息子のグレンが、舌まで切り落とされたのには憤りを感じていたのだ。
 エルアが協力してくれるというのなら、私も覚悟を決めよう。
 だがさすがに王家に剣を向ける事はできぬ。
 それではリトリア公爵家が謀叛人の汚名を着ることになる」

「それは私に任せてください、義父上。
 私が唄捧げの儀式に協力しなければ、それで王家は滅びます。
 リトリア公爵家が後ろ指をさされる事はありません」

「頼んだぞ、エルア」
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