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第一章

第7話:盗賊王スキル

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「私の作った麦粥美味しい?」

「美味しい、これまで食べた麦粥で1番美味しい」

「やだ、いくら何でも言い過ぎよ、お母さんの次に美味しいって言わなきゃ」

「そうだね、毎日ご飯を作ってくれるお母さんを下にしちゃいけないね」

「そうよ、気をつけないともうご飯作ってもらえないわよ。
 あ、ごめん、大商人さんちは料理人が作るのかな?」

「あ~、料理人が作る事もあれば、お母さんが作ってくれる事もある」

 フィリップの人生では宮廷料理人に作ってもらっていたけれど、佐藤勇史の人生ではお母さんに作ってもらうか自炊だった。

「そう、だったらなおさらよ、料理人がいるのに、わざわざ作ってくれるお母さんへの感謝を忘れたらいけないわ」

「そうだね、お母さんが作ってくれた麦粥の次に美味しいよ」

 お母さんに麦粥を作ってもらってことはないけれど、こういうのが本当の嘘も方便なのだろう。

「そう言えばまだ名乗っていなかったね、僕の名前はユウジ」

「あ、ごめん、私も名前言っていなかったね、サラよ」

「サラか、良い名前だね」

「ユウジ、珍しい名前ね、でも良い名前ね」

「ありがとう、名前を教えてもらったばかりで悪いんだけど、サラにお願いがあるんだけど、良いかな?」

「お金を貸してとか、高い物を買ってとかは無理よ?」

「そんなんじゃないよ、盗賊に襲われた時に血を流し過ぎたようで、歩こうとするとふらついてしまうんだ」

「もう、私が麦粥を作っている間に動いたのね、じっとしていないと駄目じゃない」

「ごめんね、でも僕も早く身体を治さないといけないんだ。
 どんな状態なのか確かめないと、何をしたら良いのかも分からないからね」

「それで、どうすれば良いか分かったの?」

「できるだけたくさんの肉を食べた方が良いと分かったよ」

「う~ん、にく、肉かぁ~、この時期に家畜を殺すのはねぇ」

「肉が駄目なら、チーズやヨーグルト、バターやミルクでも大丈夫。
 それもないなら、豆でも身体を治せる」

「へぇ~、そうなんだぁ~、そんな物で身体が治るんだ。
 だったら大丈夫だよ、家は山羊を飼っているから、チーズやミルクはあるよ。
 牛のチーズが良ければ、お金を出してくれるのなら、他の家のを買ってあげるよ。
 テット・ド・モワンヌ、グリュイエール、エメンタールどれもこの辺りの名物でとても美味しいよ」

「身体を治すのにお金をかけるのは当然だけど、お世話になった人に感謝の心を捧げるだけでなく、お礼をするのも当然だからね。
 サラのチーズとミルクにもお金を払わせてもらうよ」

「ありがとうと言いたいところだけど、もう行商人さんからお金もらっているから、余分にもらう訳にはいかないのよ」

「サラは正直だね」

「そりゃそうよ、私は唯一神に清く正しく生きるって誓っているもの。
 その代わり、幸せな結婚をさせてもらうの。
 お父さんとお母さんのように、ずっと愛し合う夫婦になるの」

「そうか、唯一神に誓いを立てているなら、余分にお金はもらえないね。
 でも行商人さんにもらったお金以上に食べるのなら、代金は支払うべきだろう?」

「それはそうよ、家はお金持ちじゃないから、もらった以上の物は渡せないわ」

「だったら、清く正しいサラに前金を渡しておくから、お腹一杯チーズとミルク、できればバターとヨーグルトも食べさせて欲しな」

「分かったわ、別にお金をくれるなら、私が明日から新鮮なチーズとヨーグルト、それにバターも作ってあげるわ」

「ありがとう」

「あっと、もしかして、今も食べたいの?」

「そうだね、チーズやバターがあるなら食べたいね」

「何かあった時のために取ってあるチーズなら、お父さんとお母さんの許可がなくても食べられるわ。
 売り物として作ってあるチーズの方が新鮮だけど、勝手に食べられないから」

「うん、それで良いから食べさせてよ。
 代金は金貨でいい、それとも銀貨の方が良いかな?」

「できれば銅貨が良いんだけど、金貨か銀貨しかないなら銀貨でいいや。
 金貨は駄目だからね、そんなもの使いようがないし、下手したら盗んだと思われちゃうからね」

「そうなの、それは困ったね、どこかで両替しないといけないね」

「ユウジを助けてくれた行商人さんが戻ってきたら、その時両替してもらえば良いんじゃない?」

「そうだね、そうさせてもらうよ」

「あっ、ごめん、お腹減っているんだったね。
 直ぐにチーズを焼いてパンに乗せて来るよ、待っていて」

 サラはそう言って部屋を出て行った。
 焼いた山羊のチーズをパンに乗せて食べる、幼い頃に観たアニメを思いだす。
 殺されかけた場所を考えると、ここはパラディーゾ魔山の裾野だろうか?

 ベッドから下りて窓を開けて外を見てみると、斜面が広がっていた。
 やはりここはアルプスに建てられた山小屋のような場所なのだろう。
 
 ……フィリップの知識だけでは、盗賊王スキルは十分に使いこなせなかった。
 だが、佐藤勇史の知識を使えば、盗賊王スキルはとんでもない威力を発揮する。
 魔力量を増やす方法も、1つ2つではなく何十も思い浮かぶ。

 先ず試すべきは、地中の成分を個別に盗む事ができるかだ。
 1番多いのが酸素で、次に多いのがケイ素だった。
 ただ、ケイ素は単独ではなく他の元素と結合していた。

 地中からケイ素だけを盗めるのか?
 もし盗めたとして、何の役にも立たない物を盗んでもしかたがない。
 どうせ盗むのなら、役に立つ金属ケイ素の形にして盗みたい。

 それか、酸素とケイ素を同時に盗んで、石英や水晶にできないだろうか?
 ケイ素樹脂として盗むのは、元素記号を知らないから絶対に無理だな。
 アルミニウムや鉄を盗めるか試す前に、まずはケイ素金属からだ!

「スティール・シリコン・メタル」
「スティール・クリスタル」
「スティール・クォーツ」
「スティール・アルミニウム」
「スティール・ゴールド」

『地表の元素含有割合・クラーク数』ウィキペディア参照
順位:元素:割合%
1 酸素 49.5
2 ケイ素 25.8
3 アルミニウム 7.56
4 鉄 4.70
5 カルシウム 3.39
6 ナトリウム 2.63
7 カリウム 2.40
8 マグネシウム 1.93
9 水素 0.83
10 チタン 0.46
11 塩素 0.19
12 マンガン 0.09
13 リン 0.08
14 炭素 0.08
15 硫黄 0.06
16 窒素 0.03
17 フッ素 0.03
18 ルビジウム 0.03
19 バリウム 0.023
20 ジルコニウム 0.02
21 クロム 0.02
22 ストロンチウム 0.02
23 バナジウム 0.015
24 ニッケル 0.01
25 銅 0.01

「実用金属のクラーク数(重量%)」1966年データ 出典:金属の話:井口洋夫著
  金属 :重量%
1  アルミニウム 8.23
2  鉄 5.63 9
3  チタン 0.57
4  ニッケル 0.0075
5  亜鉛 0.007
6  銅 0.0055
7  鉛 0.00125
8  スズ 0.0002
9  タングステン 0.00015
10 水銀 0.000008
11 銀 0.000007
12 金 0.0000004
13 白金 –
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