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第一章冒険者偏

徒士目付組頭

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「いやあ、それは流石に無理だよ。
 元々の家格が徒士家だからね。
 役料千石の目付は無理だよ
 父上が登用されたのは徒目付組頭ですよ」

「ちい!
 融通が利かないね。
 そんなこっちゃ戦国乱世に逆戻りだよ」

「まあその時はその時ですよ。
 ドウラさんがゲイツクランを鍛えてくれていますから、どのような状況になっても対応できるでしょう」

 物凄く怖い話をされています。
 戦国乱世に逆戻りするなんて、どんな状況を想定されているのでしょうか?
 厄竜が現れて、疫病が蔓延して皇族が全滅する想定でしょうか?
 それとも厄竜が皇城を直接襲って皇族を皆殺しにする想定でしょうか?
 悪政に耐えきれなくなった貴族士族、もしくは平民が蜂起する想定でしょうか?

「ふん!
 マルティン坊にその覚悟があるのなら、明日からついてきな。
 跡取りが弟達に劣るようじゃ、ゲイツ家が割れるからね」

「その心算です。
 表向きはドウラさんの監視をすることになっています。
 見所のある門弟を、小人目付にして連れてきています」

 小人目付ですか。
 完全な隠密ですね。
 皇国が一時的に召し抱えている雑用係、掃除係、庭師などから、貴族士族などの不正調査をする末端の人間です。
 普通は貴族士族の子弟がやることはありません。

「ほう、それは思い切ったね。
 いい経験になるだろうね。
 マルティン坊の側近候補かい?」

「父上が登用された徒目付組頭を継ぐのなら、信頼できる徒士目付や小人目付が数多く必要になります。
 徒士団長を拝命するようなら、徒士組頭十人、徒士百人の任命権を手にいれられますから、今から鍛えておかないといけません」

 本当にそうなるでしょうか?
 徒士組頭は時に徒士長とも言われる役目ですが、権力者の推薦がないと、強いだけでは任命されません。
 今回の件で頼りにされたのならいいのですが、逆に目をつけられているかもしれないのです。

「まあ、ここで鍛えていれば、何がどうなってもやっていけるさ。
 明日から来れるかい?」

「はい、門弟を連れてきます」

「イヴァン!
 ダニエル!
 実家の門弟だ。
 交代で面倒見てやりな。
 養子話を了承すれば、お前らの騎士団員になるかもしれない連中だ。
 冒険者を引退した後、道場を開いた時に、門弟を紹介してくれる可能性もある。
 女房子供に安定した穏やかな暮らしをさせたいのなら、全身全霊を込めて鍛えてやりな、いいね!」

「「はい!」」

 意外でした。
 あれほど強硬に養子話を断っていた二人が、承諾するとは思いませんでした。
 引退後の道場開設を考えたのでしょうか?
 意中の女性がいて、引退を考えているのでしょうか?
 うん、そうかもしれませんね。
 彼らの貯金額を考えたら、婿養子ではなく、表向きは養嗣子として騎士家や士爵を買いとるくらい簡単ですよね。
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