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第一章冒険者偏

家督継承者

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「イヴァンより動きが遅い!
 天才的な反応をしろとは言わない。
 だが頭を使って先を読み才能を補え!」

「はい!」

「ダニエルより粘りがない!
 先読みして状況を判断し、粘る時と引く時を間違えるな!」

「はい!」

「まだ少ない!
 まだ遅い!
 もって早く先を読め。
 それに応じて指揮をしろ。
 お前はゲイツ家の跡継ぎなんだぞ!
 ゲイツクランの総大将になるんだぞ!
 指揮能力を磨け!」

「はい!」

 ドウラさんがマルティン様にスパルタ教育されています。
 私やイヴァンやダニエルの時とは比較にならない、猛烈な指導です。
 それこそマンツーマンの指導です。
 特に違うのが指揮能力の教育です。
 私やイヴァンやダニエルは一切受けていません。

 まあ、それは当然でしょう。
 私達三人は槍術士で前衛職です。
 指揮を学んでも意味がありません。
 ずっとこのパーティー、破竜隊が続くなら、ドウラさんの指揮官は不動です。
 ドウラさんが引退されるとしても、魔術師で後衛職のエマかニカが指揮官職を受け継ぐと、特に言われなくても分かっています。
 
 マルティン様も槍術士で前衛職です。
 普通なら指揮官になる事はありません。
 しかしマルティン様は普通の前衛職ではありません。
 ゲイツ槍術道場の次期当主です。
 ゲイツクランの総大将、クラン総長になる方です。
 指揮能力こそ最優先に磨かないといけないのです。

 イヴァンとダニエルがマルティン様の側近候補を鍛えています。
 今のマルティン様と側近だけで魔境の狩りをさせたら、まず間違いなく全滅です。
 だから側近はイヴァンとダニエルの指揮で魔鼠や魔兎から練習です。
 マルティン様は私達と猛訓練です。

 私が可愛そうになるくらいの実力差です。
 普通のメンタルなら相当落ち込んでしまうでしょう。
 マルティン様も家督を継げる最低限の身体強化はされています。
 ですがドウラさんが手塩にかけて育てたエマとニカの足元にも及びません。
 ……それは、私と比べても同じです。
 格段の、歴然とした身体能力差があります。
 員数合わせに入ったクラン員にも全く及びません。

 私にとっては、とてもよい経験でした。
 自分の実力を知ることができました。
 今迄はお金のことが最優先で、他の冒険者との差など、どうでもよかったのです。
 私が他の冒険者より格段に劣っていても、家の借金が返せればよかったのです。

 私は自分が想像していた以上に強くなっていました。
 全てはドウラさんのお陰です。
 員数合わせに入ってもらった、中堅どころのベテランクラン員よりも、私の方が遥かに強かったのです。

 足らないのは経験です。
 大魔境と大ダンジョンの、細やかな環境の違いによる下準備と警戒方法、まだ戦ったことのない、効率の悪い魔獣の知識。
 これからはそういう事も勉強しなければいけません。
 ドウラさんのような、後進を助け導くことができる人間になるためにわ!
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