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武田義信
山狩り
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『躑躅ヶ崎館 善信私室』
飛影が来るまで戦略でも練るか。まず一番重きを置くのは民を喰わせていくこと、餓死はあり得ない。
祖母から叩き込まれた、『お天道様に恥じない生き方をしろ』は守らなきゃな後は、『高価なものを食べるのは贅沢じゃない、食べ残すことが贅沢なんだ』だな、皿に残った醤油やマヨネーズ舐めさせられたな。あ~~~~マヨネーズ食べたい!!!! 醤油は我慢できるけど、マヨネーズ無いのは辛いよ。
思考が逸れてしまった、いかんいかん、真面目に考えなきゃ。次に考えておくべきはバタフライ効果だよな。俺が何かすればするほど、周辺に影響が出てしまう。下手に武田が強くなりすぎると、北条・今川との三国同盟が締結できなくなってしまう、そうなれば、一気に歴史が変わってしまい、俺の歴史を知っているという有利さが無くなってしまう。歴史を変革するなら、乾坤一擲最重要点で一気に変えなきゃな。そこを何時にするか、これが難問だ。だが、一気に変革できる地力は蓄えて置かないといけない! 天竜川流域は俺に一任された、川筋を下れば遠江と三河に出てしまう。遠江に出て今川と争えばこの時点で歴史が大きく変わってしまうから駄目だ。三河に出れば松平と争うことになる、直接は今川や織田と戦端を開かないが警戒はされてしまう、いや、争いに成るのは時間の問題だな、ならば平野部まで攻め下るのは禁じ手だ。太平洋側の海を手に入れるのは、乾坤一擲の勝負を掛けた後だ。
甲斐と信濃の攻略だが、これも下手に手を出せば大きく歴史が変わってしまい、俺の有利が無くなってしまう、内政で地力を高める、信玄の家臣団にも手を付け無い、暫らくは我慢だな。問題が有るとすれば、本来伊那方面の責任者に成るはずだった秋山虎繁の処遇だな、こいつが下手に他の場所で活躍すると問題だ、俺の手下に貰うか?
次は俺の良心の問題だ、諏訪頼重の嫡男、千代宮丸をどう処遇するか信玄に献策するかどうか。諏訪御寮人と共に暮らさせて、愛情を注ぎ武田の一翼に成るよう育てたいのだが、この献策が信玄にどう取られるか。
「若殿、入って宜しいですか?」
「飛影か、訊ねたいことが有ったのだ入ってくれ。」
「は、失礼します。」
飛影は部屋に入って居住まいを正して答える
「お尋ねの儀、伺わせていただきます」
「山に住む民の中に、小動物を使役する『飯綱使い』はいるか?」
「はい、居りますが何か?」
「彼らは俺に力を貸してくれるだろうか?」
「既に荷役として働いておりますが?」
「なに! そうか、既に働いてくれておるか!! ならば彼らに犬や狼を使役できるか確認してくれ。いや、今使役していなくても、時間を掛ければ使役できるようになるか訊ねてくれ。」
「承りました、後程使いの者を出しましょう。」
「そうだ! 伝書鳩もいた!」
「は? でんしょばと? 何のことでございますか?」
「ああ、伝書鳩とは、鳩が巣に帰る習性を利用して、遠くから手紙を届ける訓練をさせた、特殊な鳩の事だ。」
「それも『飯綱使い』にやらせるのですか?」
「誰でも好いのだが、彼らが一番慣れておるのではないか?」
「多くの難民の子供たちが居ります、子供らにも役目を与えてやってください。」
「そうだな、犬や狼だと食い殺される恐れが有るが、鳩ならば子供でも扱えるか、任せる。」
「は、承りました。」
「算盤を教えに行く、付いて参れ」
「は!」
俺は子供達と算盤を勉強する為に小屋に向かっていたが、途中子供たちの集団に出会った。
「茜ちゃん、楓ちゃん、桔梗ちゃん、皆もどこに行くの? 今から算盤の勉強だよ」
「泥鰌を掬いに行くの!」
「駄目じゃないか! 病に成るから川や田に入っちゃだめだと言ったろ!!」
「でも、お爺ちゃんたちは入ってるよ! お爺ちゃんたちは病に成っても好いの?」
胸が痛む、やむを得ず老人は目を瞑って田仕事させてる。皆を餓えさせないため、多くの民を助ける為、老人を使い潰す覚悟を決めた。その反面、子供たちが虫に刺されないように田や川へに立ち入りを禁止した。既に虫に刺され、感染している子もいるかもしれない、でもこれ以上の犠牲者は出したくない。
「お爺ちゃんたちは、大人だからね。子供は他の仕事が出来るからね。」
「でも、でも、お魚も食べたいの」
その気持ちはわかるけど、皆には健康でいて欲しい。
「肉や虫じゃダメなの?」
「若様のお陰で、ちゃんと食べれるようになったけど、皆又お魚が食べたくなったの。若様が作ってくれた泥鰌汁が食べたいの。」
気持ちはわかる、あれは美味い。泥鰌事態は癖が有り、食感が苦手な人も入るだろうけど、汁が絶品だ。
「わかさま~、儂らが採るから子供らとかえってくだせ~~~~~。」
田の中から老人が大声で話しかけてきた。
「老人、泥鰌を捕ってくれるのか?」
「おまかせくだせ~~~、泥鰌も田螺も鮒でもなんでも捕って帰りまますんで、安心して下せ~~~~~」
御免、御免なさい! 俺の力不足の所為で、もっと勉強していたら、治療できたかもしれないかったのに。
「若様~気にしないで下せ~~~、若様に助けてもらえなきゃとっくに死んでたんでさ~~~~、今は美味しい物を食べて生きて入れます~~~。それに儂らも泥鰌汁が食べたいんでさ~~~。」
「わかった~~~~~、館で泥抜きした泥鰌を持ってくるから、新しいの捕っておいてくれ~~~~、晩飯は泥鰌汁に蕎麦切りを入れた物を作って置くぞ~~~」
『お~~~~~~楽しみにしております~~~~』
『躑躅ヶ崎館近くの難民小屋』
善信の近習が、慣れない手つきで蕎麦粉を練る、中には棒で延ばしている者もいる、刀で細く切っている者もいる。善信の側近くで仕えるうちに、色んな料理を食べ、その美味しさに魅かれてしまったのだ。今日は特大好きなに蕎麦切りと泥鰌汁だ、食べたいなら手伝うしかない。仲間の1人は、皆と相談して密かに酒を取りに行っている。非番の近習にも声を掛けておかねば恨まれてしまう。
さて、近習衆が料理してくれてる間に、新しい料理を試作するか!
「相賀光重、鰻の目を小柄で俎板に突き刺して動けなくしてくれ。」
俺は料理頭に命じた。
俺の料理が信玄のお気に入りで、再現できなければ厳罰に処せられることをよく知っている相賀は、唯々諾々と指示通りにしてくれる。部下や弟子たちも眼を皿のようにして見学している。
「鰻を背中から包丁を入れて開いてくれ。」
「はい。」
「よし、上手くできたね。後は味噌に漬けて一晩待つ、他の者も捌いてくれ。」
『はい!』
醤油も味醂も砂糖も無い、鰻の蒲焼きは夢のまた夢だけど、白焼きじゃ物足らない。美味しいけど、信玄が満足しないかもしれない。そこでだ、西京漬けの様に味噌漬けにしてみた。塩分濃度の違う、米・麦・豆味噌を12種揃えて試してみる。試食して美味しければ信玄に献上だ。弟妹を量産してくれよ!
この馬鹿者どもが! 好い気に成って酒など持ち込みおって!! 俺は前世で下戸だったんだよ。酔った友達と寝てて、布団にゲロ吐かれて以来酔っぱらいは天敵なんだよ! 大切な米を酔うために無駄に使いやがって、濁酒なんぞに使うより難民に銀シャリ喰わせてやりたいんだよ。
第一この時代の技術では、度々腐れを出して、米を無駄にしたと漫画で描いてたぞ! 事実かな? 事実だよな? フン、絶対に清酒は造ってやらないからな! どうしても飲みたいなら、蕎麦焼酎を飲め、焼酎をよ! うん? 焼酎? 焼酎~~~~~~!!! この時代に焼酎の製造法は完成してるのか? 清酒はまだだし、味醂は夢のまた夢。薩摩芋もじゃが芋も南蛮から伝わったばかり、有るとしても麦か蕎麦だよな?
「飛影!」
「は!」
「南蛮から九州に、麦や蕎麦で酒を造る技術が伝わってきているかもしれない、探ってくれ!」
「承りました。」
「若様、ありがとう。泥鰌汁美味しい!」
「うん、美味しいね茜ちゃん。明日も何か美味しいもの考えるね。」
「ほんと? 嬉しい!」
さて、躑躅ヶ崎館にこの泥鰌汁を持って帰るか。母上も最初は毛嫌いしてたけど、泥鰌を取り除いて汁だけ出したら美味そうに食べたし。信玄は泥鰌も平気で食べてたな。
2日後『躑躅ヶ崎館 善信私室』
「若殿、『飯綱使い』の飯縄坊でございます」
飛影が如何にも山伏と言う格好をした男を紹介した。
「飯縄坊と申します、この度御下問を受け参上いたしました。」
「好く来てくれた、それで率直に聞くが犬や狼を手懐けることは出来るか?」
「出来ますが、それは食べる為に肥育することでございますか?」
「へ? 食べるの!」
「はい、河原者は勿論、甲斐の武士の皆様も犬追い物の後食されておられますが?」
お~~~~~の~~~~、忘れてた! この時代の武士は犬喰ってたんだ!! 極貧の甲斐で犬喰わない訳がね~~~。道理で城下で1匹の犬も見なかったわけだ、既に犬は喰い尽していたか。
「食用犬とは別だ、猟の助けや合戦に役立てる為に教育訓練させたいのだ。」
「可能ですが時がかかります、3年は頂きたい。」
「判った、3年待とう。」
「ただ問題が有ります。」
「なんだ、何でも言うがよい。」
「山犬や狼の所為で、関所破りの密交易に支障が出ております。」
うん? 何のことだ? あ! ウルフパックによる荷役への襲撃か! 関所破りを取り締まる武士が、入り込めないような奥地を行く荷役だ、荷役自体を獲物として襲ったり、荷の中の食料を奪うため群れで襲撃するのか!
「山犬や狼が、荷役を襲うのか?」
「左様でございます。今は手練れの者と若者を組ませ、集団で運ばせておりますが、それでも山犬と狼の群れに襲撃を受ける事が有ります。せめて武田の御領地内だけでも殲滅していただけないでしょうか?」
仕方ないな、狼を飼うロマンより密交易路の安全確保だ。
「判った、俺の動かせる全兵力を投じて狩りを行う。」
「その際御願いが有るのですが、妊娠している雌や子供は生け捕りにしてお渡しください。大人は手懐けるのは難しいので、子供から手懐け訓練いたします。」
「判った、今日にでも御屋形様に兵の動員許可をいただく。それと、肥育で疑問に思っていたのだが、食糧難の甲斐でどうやって餌を確保する心算なのだ?」
「人が食べられぬ物を与えます、魚の頭や骨を叩き団子にしたもの、獣の骨や臓物、沢蟹や貝を叩き潰したもの、そんなものを与えます。」
なるほどな、しかし魚の頭はじっくり煮て、骨質以外は難民の食料にしてるが、少しは食料事情が好転しているから、食べて不味い部位は餌にするか。
「俺自身でも狼を飼いならしてみたい、指導してくれる者を身近に置きたいのだが。」
「では息子を御側仕えさせていただきます。」
「頼み置くぞ。」
『躑躅ヶ崎館 信玄私室』
「山犬と狼を狩るための兵の動員許可か。。。。。犬は長らく食べておらんな。」
「上手く狩れたらお持ちいたしましょうか?」
「お前の料理を食べて口が奢ったかもしれん、美味しく食べれるかはわからんが、又食べてみたい。」
「承りました。」
「だが何故じゃ? 今まで通り鹿・猪・熊などを狩ればいいものを。」
「御屋形様は、善信が関所を破って交易していることはご存知ですね?」
「ああ、儂の素破から報告は受けておる。」
「山犬や狼の襲撃で、交易が妨害される恐れが出てきたようです、恐らく善信が鹿や猪を刈り過ぎた所為で、餌が減少しておるのでしょう。交易の安全確保のため、里に下りてきて人を襲わせないようにするため、殲滅する必要が出てまいりました。」
本当は飯縄坊が教えてくれるまで、全然気づかなかったんだけどね。
「国衆を動員しないのは、国衆の関所を破っているのが露見しないようにか?」
「左様でございます。」
「それでは不十分だろう、日にちを決めて甲斐中の武士を動員して山狩りをいたせ、その日は荷役を休ませよ。さすれば、逃げた群れは他国に行く、他国で里に下り人を襲えば一石二鳥じゃ!」
ひでぇ~~~、鬼畜だよ信玄! 山犬と狼の群れを敵国の里に誘導させる気か?
「ふむ、それが好い善信、群れを殺すでない、他国に誘導いたせ。」
「承りました。」
「それで今日は何を喰わせてくれる! 昨日の鰻の味噌漬けは美味かった、今日は何を食わせてくれる」
これこれ、食い意地張りすぎ! 2度も今日は何を喰わせると言うんじゃない。
「猪と鹿の味噌漬けは好い頃合いですが?」
「味噌味(みそあじ)以外は有るか?」
難しいことを言う、俺は家庭料理に毛が生えた程度しか作れないんだよ!
「沢に派遣した者次第ですが、岩魚か鰍が手に入ったら、唐揚げにいたしましょうか?」
「小麦を粉にしたものを振って、油で揚げたものか!」
「手に入らなければ、鯉か鮎を揚げましょう」
「鮎といえば、最近うるかを食べておらんが、鮎を使うのであれば料理人に作らすか?」
「お辞め下さい! 生は危険です、人に湧く虫の中には塩では殺せない物もおります。御屋形様に万が一の事が有れば甲斐は滅びます。どうか火を通した物以外お食べになりませんように!」
「それでか! 最近漬物すら炙っておるのは!!」
「どうか御身大切に!」
「判った、生ものは食さん!」
飛影が来るまで戦略でも練るか。まず一番重きを置くのは民を喰わせていくこと、餓死はあり得ない。
祖母から叩き込まれた、『お天道様に恥じない生き方をしろ』は守らなきゃな後は、『高価なものを食べるのは贅沢じゃない、食べ残すことが贅沢なんだ』だな、皿に残った醤油やマヨネーズ舐めさせられたな。あ~~~~マヨネーズ食べたい!!!! 醤油は我慢できるけど、マヨネーズ無いのは辛いよ。
思考が逸れてしまった、いかんいかん、真面目に考えなきゃ。次に考えておくべきはバタフライ効果だよな。俺が何かすればするほど、周辺に影響が出てしまう。下手に武田が強くなりすぎると、北条・今川との三国同盟が締結できなくなってしまう、そうなれば、一気に歴史が変わってしまい、俺の歴史を知っているという有利さが無くなってしまう。歴史を変革するなら、乾坤一擲最重要点で一気に変えなきゃな。そこを何時にするか、これが難問だ。だが、一気に変革できる地力は蓄えて置かないといけない! 天竜川流域は俺に一任された、川筋を下れば遠江と三河に出てしまう。遠江に出て今川と争えばこの時点で歴史が大きく変わってしまうから駄目だ。三河に出れば松平と争うことになる、直接は今川や織田と戦端を開かないが警戒はされてしまう、いや、争いに成るのは時間の問題だな、ならば平野部まで攻め下るのは禁じ手だ。太平洋側の海を手に入れるのは、乾坤一擲の勝負を掛けた後だ。
甲斐と信濃の攻略だが、これも下手に手を出せば大きく歴史が変わってしまい、俺の有利が無くなってしまう、内政で地力を高める、信玄の家臣団にも手を付け無い、暫らくは我慢だな。問題が有るとすれば、本来伊那方面の責任者に成るはずだった秋山虎繁の処遇だな、こいつが下手に他の場所で活躍すると問題だ、俺の手下に貰うか?
次は俺の良心の問題だ、諏訪頼重の嫡男、千代宮丸をどう処遇するか信玄に献策するかどうか。諏訪御寮人と共に暮らさせて、愛情を注ぎ武田の一翼に成るよう育てたいのだが、この献策が信玄にどう取られるか。
「若殿、入って宜しいですか?」
「飛影か、訊ねたいことが有ったのだ入ってくれ。」
「は、失礼します。」
飛影は部屋に入って居住まいを正して答える
「お尋ねの儀、伺わせていただきます」
「山に住む民の中に、小動物を使役する『飯綱使い』はいるか?」
「はい、居りますが何か?」
「彼らは俺に力を貸してくれるだろうか?」
「既に荷役として働いておりますが?」
「なに! そうか、既に働いてくれておるか!! ならば彼らに犬や狼を使役できるか確認してくれ。いや、今使役していなくても、時間を掛ければ使役できるようになるか訊ねてくれ。」
「承りました、後程使いの者を出しましょう。」
「そうだ! 伝書鳩もいた!」
「は? でんしょばと? 何のことでございますか?」
「ああ、伝書鳩とは、鳩が巣に帰る習性を利用して、遠くから手紙を届ける訓練をさせた、特殊な鳩の事だ。」
「それも『飯綱使い』にやらせるのですか?」
「誰でも好いのだが、彼らが一番慣れておるのではないか?」
「多くの難民の子供たちが居ります、子供らにも役目を与えてやってください。」
「そうだな、犬や狼だと食い殺される恐れが有るが、鳩ならば子供でも扱えるか、任せる。」
「は、承りました。」
「算盤を教えに行く、付いて参れ」
「は!」
俺は子供達と算盤を勉強する為に小屋に向かっていたが、途中子供たちの集団に出会った。
「茜ちゃん、楓ちゃん、桔梗ちゃん、皆もどこに行くの? 今から算盤の勉強だよ」
「泥鰌を掬いに行くの!」
「駄目じゃないか! 病に成るから川や田に入っちゃだめだと言ったろ!!」
「でも、お爺ちゃんたちは入ってるよ! お爺ちゃんたちは病に成っても好いの?」
胸が痛む、やむを得ず老人は目を瞑って田仕事させてる。皆を餓えさせないため、多くの民を助ける為、老人を使い潰す覚悟を決めた。その反面、子供たちが虫に刺されないように田や川へに立ち入りを禁止した。既に虫に刺され、感染している子もいるかもしれない、でもこれ以上の犠牲者は出したくない。
「お爺ちゃんたちは、大人だからね。子供は他の仕事が出来るからね。」
「でも、でも、お魚も食べたいの」
その気持ちはわかるけど、皆には健康でいて欲しい。
「肉や虫じゃダメなの?」
「若様のお陰で、ちゃんと食べれるようになったけど、皆又お魚が食べたくなったの。若様が作ってくれた泥鰌汁が食べたいの。」
気持ちはわかる、あれは美味い。泥鰌事態は癖が有り、食感が苦手な人も入るだろうけど、汁が絶品だ。
「わかさま~、儂らが採るから子供らとかえってくだせ~~~~~。」
田の中から老人が大声で話しかけてきた。
「老人、泥鰌を捕ってくれるのか?」
「おまかせくだせ~~~、泥鰌も田螺も鮒でもなんでも捕って帰りまますんで、安心して下せ~~~~~」
御免、御免なさい! 俺の力不足の所為で、もっと勉強していたら、治療できたかもしれないかったのに。
「若様~気にしないで下せ~~~、若様に助けてもらえなきゃとっくに死んでたんでさ~~~~、今は美味しい物を食べて生きて入れます~~~。それに儂らも泥鰌汁が食べたいんでさ~~~。」
「わかった~~~~~、館で泥抜きした泥鰌を持ってくるから、新しいの捕っておいてくれ~~~~、晩飯は泥鰌汁に蕎麦切りを入れた物を作って置くぞ~~~」
『お~~~~~~楽しみにしております~~~~』
『躑躅ヶ崎館近くの難民小屋』
善信の近習が、慣れない手つきで蕎麦粉を練る、中には棒で延ばしている者もいる、刀で細く切っている者もいる。善信の側近くで仕えるうちに、色んな料理を食べ、その美味しさに魅かれてしまったのだ。今日は特大好きなに蕎麦切りと泥鰌汁だ、食べたいなら手伝うしかない。仲間の1人は、皆と相談して密かに酒を取りに行っている。非番の近習にも声を掛けておかねば恨まれてしまう。
さて、近習衆が料理してくれてる間に、新しい料理を試作するか!
「相賀光重、鰻の目を小柄で俎板に突き刺して動けなくしてくれ。」
俺は料理頭に命じた。
俺の料理が信玄のお気に入りで、再現できなければ厳罰に処せられることをよく知っている相賀は、唯々諾々と指示通りにしてくれる。部下や弟子たちも眼を皿のようにして見学している。
「鰻を背中から包丁を入れて開いてくれ。」
「はい。」
「よし、上手くできたね。後は味噌に漬けて一晩待つ、他の者も捌いてくれ。」
『はい!』
醤油も味醂も砂糖も無い、鰻の蒲焼きは夢のまた夢だけど、白焼きじゃ物足らない。美味しいけど、信玄が満足しないかもしれない。そこでだ、西京漬けの様に味噌漬けにしてみた。塩分濃度の違う、米・麦・豆味噌を12種揃えて試してみる。試食して美味しければ信玄に献上だ。弟妹を量産してくれよ!
この馬鹿者どもが! 好い気に成って酒など持ち込みおって!! 俺は前世で下戸だったんだよ。酔った友達と寝てて、布団にゲロ吐かれて以来酔っぱらいは天敵なんだよ! 大切な米を酔うために無駄に使いやがって、濁酒なんぞに使うより難民に銀シャリ喰わせてやりたいんだよ。
第一この時代の技術では、度々腐れを出して、米を無駄にしたと漫画で描いてたぞ! 事実かな? 事実だよな? フン、絶対に清酒は造ってやらないからな! どうしても飲みたいなら、蕎麦焼酎を飲め、焼酎をよ! うん? 焼酎? 焼酎~~~~~~!!! この時代に焼酎の製造法は完成してるのか? 清酒はまだだし、味醂は夢のまた夢。薩摩芋もじゃが芋も南蛮から伝わったばかり、有るとしても麦か蕎麦だよな?
「飛影!」
「は!」
「南蛮から九州に、麦や蕎麦で酒を造る技術が伝わってきているかもしれない、探ってくれ!」
「承りました。」
「若様、ありがとう。泥鰌汁美味しい!」
「うん、美味しいね茜ちゃん。明日も何か美味しいもの考えるね。」
「ほんと? 嬉しい!」
さて、躑躅ヶ崎館にこの泥鰌汁を持って帰るか。母上も最初は毛嫌いしてたけど、泥鰌を取り除いて汁だけ出したら美味そうに食べたし。信玄は泥鰌も平気で食べてたな。
2日後『躑躅ヶ崎館 善信私室』
「若殿、『飯綱使い』の飯縄坊でございます」
飛影が如何にも山伏と言う格好をした男を紹介した。
「飯縄坊と申します、この度御下問を受け参上いたしました。」
「好く来てくれた、それで率直に聞くが犬や狼を手懐けることは出来るか?」
「出来ますが、それは食べる為に肥育することでございますか?」
「へ? 食べるの!」
「はい、河原者は勿論、甲斐の武士の皆様も犬追い物の後食されておられますが?」
お~~~~~の~~~~、忘れてた! この時代の武士は犬喰ってたんだ!! 極貧の甲斐で犬喰わない訳がね~~~。道理で城下で1匹の犬も見なかったわけだ、既に犬は喰い尽していたか。
「食用犬とは別だ、猟の助けや合戦に役立てる為に教育訓練させたいのだ。」
「可能ですが時がかかります、3年は頂きたい。」
「判った、3年待とう。」
「ただ問題が有ります。」
「なんだ、何でも言うがよい。」
「山犬や狼の所為で、関所破りの密交易に支障が出ております。」
うん? 何のことだ? あ! ウルフパックによる荷役への襲撃か! 関所破りを取り締まる武士が、入り込めないような奥地を行く荷役だ、荷役自体を獲物として襲ったり、荷の中の食料を奪うため群れで襲撃するのか!
「山犬や狼が、荷役を襲うのか?」
「左様でございます。今は手練れの者と若者を組ませ、集団で運ばせておりますが、それでも山犬と狼の群れに襲撃を受ける事が有ります。せめて武田の御領地内だけでも殲滅していただけないでしょうか?」
仕方ないな、狼を飼うロマンより密交易路の安全確保だ。
「判った、俺の動かせる全兵力を投じて狩りを行う。」
「その際御願いが有るのですが、妊娠している雌や子供は生け捕りにしてお渡しください。大人は手懐けるのは難しいので、子供から手懐け訓練いたします。」
「判った、今日にでも御屋形様に兵の動員許可をいただく。それと、肥育で疑問に思っていたのだが、食糧難の甲斐でどうやって餌を確保する心算なのだ?」
「人が食べられぬ物を与えます、魚の頭や骨を叩き団子にしたもの、獣の骨や臓物、沢蟹や貝を叩き潰したもの、そんなものを与えます。」
なるほどな、しかし魚の頭はじっくり煮て、骨質以外は難民の食料にしてるが、少しは食料事情が好転しているから、食べて不味い部位は餌にするか。
「俺自身でも狼を飼いならしてみたい、指導してくれる者を身近に置きたいのだが。」
「では息子を御側仕えさせていただきます。」
「頼み置くぞ。」
『躑躅ヶ崎館 信玄私室』
「山犬と狼を狩るための兵の動員許可か。。。。。犬は長らく食べておらんな。」
「上手く狩れたらお持ちいたしましょうか?」
「お前の料理を食べて口が奢ったかもしれん、美味しく食べれるかはわからんが、又食べてみたい。」
「承りました。」
「だが何故じゃ? 今まで通り鹿・猪・熊などを狩ればいいものを。」
「御屋形様は、善信が関所を破って交易していることはご存知ですね?」
「ああ、儂の素破から報告は受けておる。」
「山犬や狼の襲撃で、交易が妨害される恐れが出てきたようです、恐らく善信が鹿や猪を刈り過ぎた所為で、餌が減少しておるのでしょう。交易の安全確保のため、里に下りてきて人を襲わせないようにするため、殲滅する必要が出てまいりました。」
本当は飯縄坊が教えてくれるまで、全然気づかなかったんだけどね。
「国衆を動員しないのは、国衆の関所を破っているのが露見しないようにか?」
「左様でございます。」
「それでは不十分だろう、日にちを決めて甲斐中の武士を動員して山狩りをいたせ、その日は荷役を休ませよ。さすれば、逃げた群れは他国に行く、他国で里に下り人を襲えば一石二鳥じゃ!」
ひでぇ~~~、鬼畜だよ信玄! 山犬と狼の群れを敵国の里に誘導させる気か?
「ふむ、それが好い善信、群れを殺すでない、他国に誘導いたせ。」
「承りました。」
「それで今日は何を喰わせてくれる! 昨日の鰻の味噌漬けは美味かった、今日は何を食わせてくれる」
これこれ、食い意地張りすぎ! 2度も今日は何を喰わせると言うんじゃない。
「猪と鹿の味噌漬けは好い頃合いですが?」
「味噌味(みそあじ)以外は有るか?」
難しいことを言う、俺は家庭料理に毛が生えた程度しか作れないんだよ!
「沢に派遣した者次第ですが、岩魚か鰍が手に入ったら、唐揚げにいたしましょうか?」
「小麦を粉にしたものを振って、油で揚げたものか!」
「手に入らなければ、鯉か鮎を揚げましょう」
「鮎といえば、最近うるかを食べておらんが、鮎を使うのであれば料理人に作らすか?」
「お辞め下さい! 生は危険です、人に湧く虫の中には塩では殺せない物もおります。御屋形様に万が一の事が有れば甲斐は滅びます。どうか火を通した物以外お食べになりませんように!」
「それでか! 最近漬物すら炙っておるのは!!」
「どうか御身大切に!」
「判った、生ものは食さん!」
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