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第1章
第9話:傭兵の日当
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ガニラス王国歴二七三年五月六日
ルイジャイアン・パッタージ騎士領
田中実視点
昨日はルイジャイアンの勧めに従って加護の確認をした。
驚いた事に、名前を思い出した全ての神の加護があった。
この世界では人族が見捨てられてしまったという、光と癒しの加護まであった。
更に幸いだったのが、ルイジャイアンが人格者だった事だ。
神の加護は他人が知って良い物ではないと、俺から聞き出そうとしなかった。
別の世界の人間である、俺を味方にしたいという思惑もあるのだろうが、それにしても人として尊敬できる態度だった。
名前の後半から、暴君かもしれないと思っていたが、違っていた。
ただ、彼も領民の生命財産を預かる領主だ。
しかも他領と通じる唯一の街道を敵対する領主に塞がれている。
更に俺との交易は一方的な赤字になる、何かで利益を得ようとするのは当然だ。
「ミノル殿、交易で利益を上げさせてもらえるのは有り難い。
ただ残念な事に、今の状態では不可能だ。
疫病が収束し、領民が元気にならないと、とても交易には行けない。
隣領のアドリアが何時襲ってくるか分からない。
そこで村が元通りになるまで、ミノル殿の祝福上げをさせてもらいたい」
「祝福上げというのは、騎士団等が助力して誰かの祝福回数を増やす事でしたね?」
「そうだ、我が領の戦える者を幾人かつけるから、魔境から追い集めた魔獣をミノル殿が止めを刺せばいい。
昨日狼の群れを一撃で狩った魔術を考えれば、並の騎士が追い立てられる魔獣なら簡単に狩れる。
まして昨晩に、とんでもない魔術を使って一気に四十もの祝福を得たのだ。
元気なワイルドデアの群れが相手でも皆殺しにできる」
「人を雇うのにどれくらいのお金が必要なのです?」
「一軍を指揮する経験を積んだ上級騎士で一日小金貨二枚。
並の下級騎士で一日小金貨一枚。
見習の従騎士で一日大銀貨五枚。
経験を積んだ弓騎兵で一日大銀貨一枚と小銀貨五枚。
経験を積んだ馬丁や御者、歩兵で一日小銀貨五枚だ」
「大体の相場は分かりましたが、見習の従騎士よりも経験を積んだ弓騎兵の方が、日当が安いのが分かりません」
「それは装備や馬の差だ。
従騎士は、騎士ほどではないが鉄製の丈夫な装備をしている。
だが弓騎兵は、皮鎧しか装備していない。
馬も、従騎士の馬は騎士同士の格闘戦を考えた訓練をしているが、弓騎兵の馬は遠くから一方的に矢を射る訓練しかしていない」
「なるほど、従騎士なら魔獣が襲ってきても戦えるが、弓騎兵だと一旦退却して距離を取ってから矢を射るのですね?」
「そうだ、だから護衛として側に置くのなら騎士か従騎士になる。
遠くから魔獣を追い立てるだけなら弓騎兵で十分だ」
「分かりました、どのような人を何人用意してくれるのです?」
「上級騎士はラザロス、ヴィオレッタ、フィーバス、バジルブレイブの四人。
従騎士が男三人に女一人。
弓騎兵が男三人に女二人。
馬丁が男三人に女二人だ」
「だとすると、合計で毎日小金貨十一枚と大銀貨五枚必要ですか?」
「よく直ぐに計算できるな」
「それくらいはできますよ。
少々高い気がしますが、不老不死の為だと思えばしかたがありません。
領主殿は、どれくらい祝福を受ければ不老不死を手に入れられると思います?」
「不老不死のドロップは、祝福を百度以上経験した者しか潜れない、最深部にまで潜って何百回とモンスターを斃しても、ここ数十年出たと聞いていない。
恐らくだが、出ているとしても、誰にも言っていないのだろう。
ただ、毎日騎士団や兵団をダンジョンに潜らせている王族が、寿命で死んでいるから、誰も手に入れていない可能性もある。
よほど多くのモンスターを狩らないと、手に入れられないと思う。
正直に言えば、ほぼ不可能だと思う」
「正直にほぼ不可能と言ってもらえて良かった。
そう言ってもらえた方が、気持ちよくお金を払える。
どうせ祝福上げをするなら、ダンジョンに行った方が良いのだろうが、領主殿の話と商人の言動を考えると、隣領の領主が素直に通してくれるとは思えない」
「そうだな、あいつなら、まず間違いなくミノル殿を殺して身包み剥ぐだろう」
「今の私では隣領の領主には勝てませんか?
「仮にも領主だ、親の援助で祝福上げした下種だとしても、五十回は上げている。
いや、奴でも百回は上げているだろう。
そうでなければ、家臣に首を取られるか、俺に首を取られている」
「分かりました、今は我慢するしかないですね。
隣領を強硬突破するだけの兵力を借りられるようになるか、隣領を攻め取れるようになるか、俺が単独で魔境を強行突破できるだけの実力をつけるまでは、ここで祝福上げをします」
「ああ、申し訳ないが、今の私にはミノル殿をダンジョンに送れるだけの力がない。
領民全員が戦えるまで回復しなければ、とても無理だ」
「分かりましたが、少しだけ条件があります。
小金貨十一枚以上払って祝福上げの狩りをするんです。
狩った獲物は自分の物にしたいのです。
それに、領主殿も以前言っていましたよね?
魔境は誰のものでもないので、狩った魔獣や木々は狩った者の物だと」
「確かに言ったが、多少間違っている所がある。
あの時は大雑把に言ったので、細かい条件が抜けている。
魔境の中に村や街を持つ領主は、村や街から歩いて四時間以内の場所は領地と認められているから、それよりも遠くで祝福上げをしてくれ。
そうしてくれれば、斃した魔獣を自分の物にしてくれても良い。
そうしてくれないと、領民に示しがつかない」
「私が自分の世界からやってきた場所の周りはどういう扱いになりますか?
隣領が攻め込んできた場合のために、四時間も離れる訳にはいかないでしょう?
できるだけ近くで祝福上げした方が良いのではありませんか?」
「……ミノル殿は別世界からの特別な客人だったな。
分かった、確かに隣領が攻めてくる可能性があるのに、貴重な戦力であるミノル殿や子供達を遠くに行かせる訳にはいかない。
一時的だが、ミノル殿だけは、あの周りで自由に狩りをしてもらう」
「これで祝福上げの前に決めておくべき事は無くなりましたか?」
「そうだな、もう特に決めなければいけない事は思いつかん。
何かあれば友人として話し合えば済む事だ」
「では、祝福上げに行かせてもらいます。
全力でやらせていただきますので、問題があったら何でも言ってください。
私が狩りに行っている間に、売れる物を考えていてください。
どれだけの値がつくか分かりませんが、私の世界の商人に話してみます」
「何分よろしく御願いする」
ルイジャイアン・パッタージ騎士領
田中実視点
昨日はルイジャイアンの勧めに従って加護の確認をした。
驚いた事に、名前を思い出した全ての神の加護があった。
この世界では人族が見捨てられてしまったという、光と癒しの加護まであった。
更に幸いだったのが、ルイジャイアンが人格者だった事だ。
神の加護は他人が知って良い物ではないと、俺から聞き出そうとしなかった。
別の世界の人間である、俺を味方にしたいという思惑もあるのだろうが、それにしても人として尊敬できる態度だった。
名前の後半から、暴君かもしれないと思っていたが、違っていた。
ただ、彼も領民の生命財産を預かる領主だ。
しかも他領と通じる唯一の街道を敵対する領主に塞がれている。
更に俺との交易は一方的な赤字になる、何かで利益を得ようとするのは当然だ。
「ミノル殿、交易で利益を上げさせてもらえるのは有り難い。
ただ残念な事に、今の状態では不可能だ。
疫病が収束し、領民が元気にならないと、とても交易には行けない。
隣領のアドリアが何時襲ってくるか分からない。
そこで村が元通りになるまで、ミノル殿の祝福上げをさせてもらいたい」
「祝福上げというのは、騎士団等が助力して誰かの祝福回数を増やす事でしたね?」
「そうだ、我が領の戦える者を幾人かつけるから、魔境から追い集めた魔獣をミノル殿が止めを刺せばいい。
昨日狼の群れを一撃で狩った魔術を考えれば、並の騎士が追い立てられる魔獣なら簡単に狩れる。
まして昨晩に、とんでもない魔術を使って一気に四十もの祝福を得たのだ。
元気なワイルドデアの群れが相手でも皆殺しにできる」
「人を雇うのにどれくらいのお金が必要なのです?」
「一軍を指揮する経験を積んだ上級騎士で一日小金貨二枚。
並の下級騎士で一日小金貨一枚。
見習の従騎士で一日大銀貨五枚。
経験を積んだ弓騎兵で一日大銀貨一枚と小銀貨五枚。
経験を積んだ馬丁や御者、歩兵で一日小銀貨五枚だ」
「大体の相場は分かりましたが、見習の従騎士よりも経験を積んだ弓騎兵の方が、日当が安いのが分かりません」
「それは装備や馬の差だ。
従騎士は、騎士ほどではないが鉄製の丈夫な装備をしている。
だが弓騎兵は、皮鎧しか装備していない。
馬も、従騎士の馬は騎士同士の格闘戦を考えた訓練をしているが、弓騎兵の馬は遠くから一方的に矢を射る訓練しかしていない」
「なるほど、従騎士なら魔獣が襲ってきても戦えるが、弓騎兵だと一旦退却して距離を取ってから矢を射るのですね?」
「そうだ、だから護衛として側に置くのなら騎士か従騎士になる。
遠くから魔獣を追い立てるだけなら弓騎兵で十分だ」
「分かりました、どのような人を何人用意してくれるのです?」
「上級騎士はラザロス、ヴィオレッタ、フィーバス、バジルブレイブの四人。
従騎士が男三人に女一人。
弓騎兵が男三人に女二人。
馬丁が男三人に女二人だ」
「だとすると、合計で毎日小金貨十一枚と大銀貨五枚必要ですか?」
「よく直ぐに計算できるな」
「それくらいはできますよ。
少々高い気がしますが、不老不死の為だと思えばしかたがありません。
領主殿は、どれくらい祝福を受ければ不老不死を手に入れられると思います?」
「不老不死のドロップは、祝福を百度以上経験した者しか潜れない、最深部にまで潜って何百回とモンスターを斃しても、ここ数十年出たと聞いていない。
恐らくだが、出ているとしても、誰にも言っていないのだろう。
ただ、毎日騎士団や兵団をダンジョンに潜らせている王族が、寿命で死んでいるから、誰も手に入れていない可能性もある。
よほど多くのモンスターを狩らないと、手に入れられないと思う。
正直に言えば、ほぼ不可能だと思う」
「正直にほぼ不可能と言ってもらえて良かった。
そう言ってもらえた方が、気持ちよくお金を払える。
どうせ祝福上げをするなら、ダンジョンに行った方が良いのだろうが、領主殿の話と商人の言動を考えると、隣領の領主が素直に通してくれるとは思えない」
「そうだな、あいつなら、まず間違いなくミノル殿を殺して身包み剥ぐだろう」
「今の私では隣領の領主には勝てませんか?
「仮にも領主だ、親の援助で祝福上げした下種だとしても、五十回は上げている。
いや、奴でも百回は上げているだろう。
そうでなければ、家臣に首を取られるか、俺に首を取られている」
「分かりました、今は我慢するしかないですね。
隣領を強硬突破するだけの兵力を借りられるようになるか、隣領を攻め取れるようになるか、俺が単独で魔境を強行突破できるだけの実力をつけるまでは、ここで祝福上げをします」
「ああ、申し訳ないが、今の私にはミノル殿をダンジョンに送れるだけの力がない。
領民全員が戦えるまで回復しなければ、とても無理だ」
「分かりましたが、少しだけ条件があります。
小金貨十一枚以上払って祝福上げの狩りをするんです。
狩った獲物は自分の物にしたいのです。
それに、領主殿も以前言っていましたよね?
魔境は誰のものでもないので、狩った魔獣や木々は狩った者の物だと」
「確かに言ったが、多少間違っている所がある。
あの時は大雑把に言ったので、細かい条件が抜けている。
魔境の中に村や街を持つ領主は、村や街から歩いて四時間以内の場所は領地と認められているから、それよりも遠くで祝福上げをしてくれ。
そうしてくれれば、斃した魔獣を自分の物にしてくれても良い。
そうしてくれないと、領民に示しがつかない」
「私が自分の世界からやってきた場所の周りはどういう扱いになりますか?
隣領が攻め込んできた場合のために、四時間も離れる訳にはいかないでしょう?
できるだけ近くで祝福上げした方が良いのではありませんか?」
「……ミノル殿は別世界からの特別な客人だったな。
分かった、確かに隣領が攻めてくる可能性があるのに、貴重な戦力であるミノル殿や子供達を遠くに行かせる訳にはいかない。
一時的だが、ミノル殿だけは、あの周りで自由に狩りをしてもらう」
「これで祝福上げの前に決めておくべき事は無くなりましたか?」
「そうだな、もう特に決めなければいけない事は思いつかん。
何かあれば友人として話し合えば済む事だ」
「では、祝福上げに行かせてもらいます。
全力でやらせていただきますので、問題があったら何でも言ってください。
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