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第1章
第8話:祝福と加護
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ガニラス王国歴二七三年五月五日
ルイジャイアン・パッタージ騎士領
田中実視点
幸いな事に、俺が黄泉津大神に祈った魔術は発現した。
単に発現したのではなく、とんでもない効果を表した。
たった一度で、ワイルドボアとワイルドベアを黄泉送りにできた。
大事になったのはその後だ。
よほど黄泉津大神の意に添えたのか、祝福がなかなか終わらない。
星明りしかない魔境の奥にある砦の防壁上で、身体がピカピカ光る。
それも、一度の祝福で終わるのでなく、何度も繰り返し祝福されるのだ。
ヴィオレッタが数えてくれていたのだが、少なくとも四十回は光っていたそうだ。
実は俺も数えていたのだが、四十回丁度だったので、間違いない。
何より、祝福が終わった後で動かした身体が、とんでもなかった!
一番身体が動いていた高校生時代よりも遥かに身軽で力強い。
いや、その程度の身体強化ではない。
アニメや漫画のヒーローに変身したかと思うほど素早く強力だった!
「客人、いったい何をしたんだ?!」
「さっきの会話で分かっているだろう?
誰にも話すなと言ったのは領主殿だぞ。
こんなに大勢の家臣がいる前で話していいのか?」
ルイジャイアンは俺のやった事にとんでもなく動揺していた。
先ほどの話から想像して、ありえない事をしたのだろうと思った。
だがそれにしても、驚き方が大げさだと思った。
「うっ、そうだった、すまない、館に戻って話を聞かせてもらう」
「分かった」
「ラザロス、ヴィオレッタ、お前達は交代でワイルドボアとワイルドベアを見張れ。
アンデットだから食べられないが、脂は蝋燭や石鹸にできる。
皮も使えるかもしれない。
骨はまず間違いなく利用できるから、結構な利益になる」
「分かりました」
「御任せ下さい」
「客人、ついて来てくれ」
俺は黙ってルイジャイアンの後について行った。
そして領主館の最奥、三階に上がって話し合った。
「異世界の神に願って魔術を使ったのだな?」
「そうだ、俺の世界の神に願って魔術を使ってみたら、使えた」
「それは、光の神か、それとも、癒しの神か?」
「そのどちらでもない、死者を支配する神だ」
「なっ、死者を支配するような神がいるのか?!」
「いる、この世界にはいないのか?」
「いる、いるが……そうか、死の神にアンデットを引き取ってもらうのか?」
「そうだ、死の国に行けずに迷っている者がいるから、引き取ってくれと頼んだ。
この世界では、そういう発想はなかったのだな?」
「ああ、死の神に願うのは、生きている者を殺してもらう時だけだった。
アンデットを更に殺してくれという発想はなかった」
「いや、更に殺してくれという考えではなく、民に加えてくれという考えだ。
ただ、アンデットとして彷徨っているのだから、この世界で知られている死の神から拒絶された可能性はある。
あるが、試してみるべきだと思うぞ」
「私も試してみたいが、問題がある」
「何が問題なんだ?」
「死の神の加護を得た人間は、殆どが暗殺者として生きる事になる」
「なっ、死の神に選ばれたら、表の世界で生きて行けないのか?」
「客人の表という表現は分からないが、王家や大貴族が暗殺者として召し抱える。
騎士団や家臣団を使って祝福数を増やして、強い暗殺者に育てる。
強い暗殺者を育てられたら、目障りな敵を殺す事ができるし、自分を殺そうとする暗殺者を防ぐ事もできる」
「死の神の加護を強く受けた者は、暗殺も防げるのか?」
「剣などで襲われる事は防げないが、死の神が魂を持って行こうとするのを、止めてくれと願う事で防げるのだ」
「とんでもない世界だな」
「客人の世界とは色々と違うようだな」
「そうだな、大きく違っているな。
今の話だと、領主殿の下には、死の神の加護を持つ者はいないのだな?」
「少なくとも私の知っている者はいない。
他領のように、強制的に死の神の加護があるか調べた事はない。
だから、暗殺者になりたくない者は、死の神の加護があっても願い事などしない」
「王家や大貴族は、領内の民に死の神の加護があるのか調べているのか?」
「ああ、元々死の神の加護を得る人間はとても少ない。
王は暗殺を恐れるのが普通だし、目障りな大貴族や他国の王を殺したいと思うのも普通の事だ。
死の神の加護を得た者が側にいないと、毎日暗殺を恐れて暮らす事になる」
「死の神に願って誰かを殺すなんて発想はなかったが、今の話を聞いて、絶対誰にも知られてはいけない事が良く分かった」
「……この世界の民は、ちゃんと言葉が話せるようになったら、どの神から加護を得られるかを確かめるのが普通だ。
子供の頃に僅かな神からしか加護を得られなかった者も、毎日神に祈り、神の願いを叶え続ける事で、新しい神から加護を得られる事もある。
中には、これまで知られていなかった神の名を知り、その神から加護を得られた事で、大きな力が使えるようになった者もいる」
「それは、俺に試せと言っているのか?」
「そうだ、客人の願いが不老不死なら、並の加護では手に入れられない。
確かに別世界の神の加護は強力だ。
客人が若いなら、風の神と死の神の力だけでも可能だったかもしれない。
だが残念な事に、客人は年老いている。
この世界の人間なら、何時死の神が迎えに来てもおかしくない見た目だ。
今からダンジョンの奥深くに潜って不老不死を手に入れると言うなら、加護を授けてくれる神は全て知っておかなければならない」
「分かった、俺の知る全ての神に願って、加護があるか確かめよう」
ルイジャイアン・パッタージ騎士領
田中実視点
幸いな事に、俺が黄泉津大神に祈った魔術は発現した。
単に発現したのではなく、とんでもない効果を表した。
たった一度で、ワイルドボアとワイルドベアを黄泉送りにできた。
大事になったのはその後だ。
よほど黄泉津大神の意に添えたのか、祝福がなかなか終わらない。
星明りしかない魔境の奥にある砦の防壁上で、身体がピカピカ光る。
それも、一度の祝福で終わるのでなく、何度も繰り返し祝福されるのだ。
ヴィオレッタが数えてくれていたのだが、少なくとも四十回は光っていたそうだ。
実は俺も数えていたのだが、四十回丁度だったので、間違いない。
何より、祝福が終わった後で動かした身体が、とんでもなかった!
一番身体が動いていた高校生時代よりも遥かに身軽で力強い。
いや、その程度の身体強化ではない。
アニメや漫画のヒーローに変身したかと思うほど素早く強力だった!
「客人、いったい何をしたんだ?!」
「さっきの会話で分かっているだろう?
誰にも話すなと言ったのは領主殿だぞ。
こんなに大勢の家臣がいる前で話していいのか?」
ルイジャイアンは俺のやった事にとんでもなく動揺していた。
先ほどの話から想像して、ありえない事をしたのだろうと思った。
だがそれにしても、驚き方が大げさだと思った。
「うっ、そうだった、すまない、館に戻って話を聞かせてもらう」
「分かった」
「ラザロス、ヴィオレッタ、お前達は交代でワイルドボアとワイルドベアを見張れ。
アンデットだから食べられないが、脂は蝋燭や石鹸にできる。
皮も使えるかもしれない。
骨はまず間違いなく利用できるから、結構な利益になる」
「分かりました」
「御任せ下さい」
「客人、ついて来てくれ」
俺は黙ってルイジャイアンの後について行った。
そして領主館の最奥、三階に上がって話し合った。
「異世界の神に願って魔術を使ったのだな?」
「そうだ、俺の世界の神に願って魔術を使ってみたら、使えた」
「それは、光の神か、それとも、癒しの神か?」
「そのどちらでもない、死者を支配する神だ」
「なっ、死者を支配するような神がいるのか?!」
「いる、この世界にはいないのか?」
「いる、いるが……そうか、死の神にアンデットを引き取ってもらうのか?」
「そうだ、死の国に行けずに迷っている者がいるから、引き取ってくれと頼んだ。
この世界では、そういう発想はなかったのだな?」
「ああ、死の神に願うのは、生きている者を殺してもらう時だけだった。
アンデットを更に殺してくれという発想はなかった」
「いや、更に殺してくれという考えではなく、民に加えてくれという考えだ。
ただ、アンデットとして彷徨っているのだから、この世界で知られている死の神から拒絶された可能性はある。
あるが、試してみるべきだと思うぞ」
「私も試してみたいが、問題がある」
「何が問題なんだ?」
「死の神の加護を得た人間は、殆どが暗殺者として生きる事になる」
「なっ、死の神に選ばれたら、表の世界で生きて行けないのか?」
「客人の表という表現は分からないが、王家や大貴族が暗殺者として召し抱える。
騎士団や家臣団を使って祝福数を増やして、強い暗殺者に育てる。
強い暗殺者を育てられたら、目障りな敵を殺す事ができるし、自分を殺そうとする暗殺者を防ぐ事もできる」
「死の神の加護を強く受けた者は、暗殺も防げるのか?」
「剣などで襲われる事は防げないが、死の神が魂を持って行こうとするのを、止めてくれと願う事で防げるのだ」
「とんでもない世界だな」
「客人の世界とは色々と違うようだな」
「そうだな、大きく違っているな。
今の話だと、領主殿の下には、死の神の加護を持つ者はいないのだな?」
「少なくとも私の知っている者はいない。
他領のように、強制的に死の神の加護があるか調べた事はない。
だから、暗殺者になりたくない者は、死の神の加護があっても願い事などしない」
「王家や大貴族は、領内の民に死の神の加護があるのか調べているのか?」
「ああ、元々死の神の加護を得る人間はとても少ない。
王は暗殺を恐れるのが普通だし、目障りな大貴族や他国の王を殺したいと思うのも普通の事だ。
死の神の加護を得た者が側にいないと、毎日暗殺を恐れて暮らす事になる」
「死の神に願って誰かを殺すなんて発想はなかったが、今の話を聞いて、絶対誰にも知られてはいけない事が良く分かった」
「……この世界の民は、ちゃんと言葉が話せるようになったら、どの神から加護を得られるかを確かめるのが普通だ。
子供の頃に僅かな神からしか加護を得られなかった者も、毎日神に祈り、神の願いを叶え続ける事で、新しい神から加護を得られる事もある。
中には、これまで知られていなかった神の名を知り、その神から加護を得られた事で、大きな力が使えるようになった者もいる」
「それは、俺に試せと言っているのか?」
「そうだ、客人の願いが不老不死なら、並の加護では手に入れられない。
確かに別世界の神の加護は強力だ。
客人が若いなら、風の神と死の神の力だけでも可能だったかもしれない。
だが残念な事に、客人は年老いている。
この世界の人間なら、何時死の神が迎えに来てもおかしくない見た目だ。
今からダンジョンの奥深くに潜って不老不死を手に入れると言うなら、加護を授けてくれる神は全て知っておかなければならない」
「分かった、俺の知る全ての神に願って、加護があるか確かめよう」
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