立見家武芸帖

克全

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徳川権大納言家基

第72話徳川家基6

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「殿様、鮟鱇が煮えました、どうぞお食べください」

 おいよさんが煮えた鮟鱇を台所から運んでくれる。
 今日も田沼家出入りの魚屋が、我の大好きな脂の強い鮪の切り身を持ってくてくれたので、代わりに値の張る鮟鱇を買ってやったそうだ。
 鮟鱇の七つ道具をきれいに捌き、葱と一緒に醤油と味醂で煮てくれた、我の大好きな鮟鱇鍋である。

 その他にも、我と力太郎が御城での試合に勝つと信じて、我の獲った鯉も捌いて葱と味噌で和えた、鯉鱠にしてくれている。

 何より我が楽しみにしているのが、脂の乗った鮪の切り身を、七輪で熱した鉄鍋に入れて、塩と七味唐辛子を振って食べるのだ。
 鮮度のよい時は火を半ばまで通して喰らうと美味い。
 少し鮪が古くなっている時は、しっかりと火を通してから、大根おろしと柚子を絞れば格別美味くなる。
 これを皆で食べられればいいのだが、脂が嫌いだというのだから仕方がない。

 よく無事に御城を下がってこれたものだ。
 あのまま取り押さえられ、闇から闇に葬られても仕方がない所だった。
 我らの事を案じた白河公が来てくださらなかったら、番方に取り押さえられていたかもしれない。

「殿様、ご飯をおかわりさせていただきますね」

 おいよさんが給仕してくれる。
 このまま我の側にいてくれるようだ。
 本当は我も台所で一緒に鍋をつつきたいのだが、主人という立場になってしまった以上、以前のように伊之助と並んでご飯を食べる事はできない。
 同格の盟友がいてくれればいいのだが、それは贅沢過ぎるな。

 いや、相良田沼家でも白河松平家でも古河土井家でもいいのだ。
 同じ藩士ならば、共に鍋を囲んで飯を喰うことができる。
 そうすれば同じ鮪の鉄鍋焼きであろうと、鮟鱇鍋であろうと、もっと美味しく食べることができる。
 問題があるとすれば、鮪を喰ってくれる者がいるかどうかだ。

「おいよさん、鯉の粗はどうしたのかね」

「はい、殿様の好きな旨煮にしております。
 明日の朝には味が浸み込んで美味しくなっていると思います。
 鮟鱇鍋が残れば出させていただきますが、恐らく全部食べてしまうと思います」

 まあ、そうだろうな。
 皆稽古で腹を空かせている。
 育ち盛り食べ盛りの子供達が残らず食べてしまうだろう。
 まあ、明日になればまた魚屋が何か持って来てくれるだろう。

「ごめん、藤七郎様は御在宅でございますか」

「はい、御待ちください」

 どうやら来客のようである。
 使いの中間を送ってきたようだ。

「用人の三浦六左衛門様からの伝言でございます。
 殿様が、今日の件で話したいと申されておられるとのことでございます。
 御案内させていただきますので、一緒に来ていただけませんか」

 やれ、やれ、どういう処罰が下る事やら。
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