夢にまで見た異世界転移だけど、勇者に成る気はありません。引き籠って生きたいのです。

克全

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第二章

第41話:閑話・困窮と情報操作

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転移70日目:マイルズ辺境伯視点

「辺境伯閣下、香辛料と香料を売っていただけないでしょうか?」

 今日も朝早くから国内有数の大商会に懇願される。
 いや、言葉では頼んでいるが、実際は脅かしているに等しい。

「申し訳ない、しばらく仕入れができなくなった」
 
 大魔術師殿の香辛料と香料、砂糖と塩のお陰で、一時的にぼろ儲けできたが、本当に一時的な利益で、年間を通した収益と考えれば多くない。

「どういう事ですか?」

 多くの商人が香辛料と香料を買いに来てくれるので、滞在時に落とされる金だけでも莫大で、領都の民に多くの利をもたらしていた。

「宰相が大魔術師殿に刺客を放ったのだ。
 この国のやり方に激怒した大魔術師殿が、取引を拒否されたのだ」

 だが、そんな商人達も、香辛料と香料、塩と砂糖がないと来てもくれなくなる。
 魔境から得られる産物など、ロアノークでなくても手に入るのだ。
 それぞれの商圏から1番近い魔境都市の方が移動日数も少なく経費も掛からない。

「何ですって、もう2度と香辛料だけでなく砂糖も塩も手に入らないのですか?!」

 大嘘だ、宰相が刺客を放ったから大魔術師殿が怒ったのではない。
 私の身勝手が大魔術師殿を激怒させたのだ。
 だが、この事実だけは口が裂けても言えない、言ったら辺境伯家は終わりだ。

「いや、もう2度と手に入らないとまでは言わない」

 大魔術師殿との交易を失った辺境伯家には、商人が来なくなる。
 父の代から交易をしていた商人の多くは大魔術師殿に処刑された。
 それなりに強かった騎士団や兵団も私達との戦いで壊滅した。

「しかしこの国に嫌気がさしたのでしょう?
 他国に移住されたら、もう2度と手に入らないではありませんか!
 これまでは隣国に輸出できていたのが、隣国から輸入しなければいけなくなるのですよ、分かっておられるのですか?!」

 内戦で財源も武力も失った辺境伯家には、大魔術師殿との交易で得る産物しか、他領と取引できるモノがない、大魔術師殿しか他領の圧力や侵攻を跳ね返す力がない。

「分かっている、隣国の富を手に入れられていたのが、我が国の富を隣国に渡さないと、欲し物が手に入らなくなるのだ、分かっている」

 分かっていた心算でいたが、全然わかっていなかった。
 ちっぽけなプライドを優先して、大魔術師殿に身勝手な要求を繰り返した。
 本来なら、土下座を繰り返してでも友好を繋ぎ止めないといけなかったのに!

「口で言うだけで、本当に分かっておられるとは思えませんね。
 辺境伯閣下にとっては、この国と隣国の事ではないのですよ。
 辺境伯家を潤していた、莫大な富が手に入らなくなるのですよ。
 宰相閣下を殺してでも、大魔術師殿の好意を得るべきなのですよ!」

 他人事だと思って簡単に言ってくれる。
 この国最大の権力者を相手に戦争など起こせるわけがないだろう!

 いや、これも俺の身勝手な言い訳に過ぎない。
 大魔術師殿を怒らせさえしなければ、宰相など恐れる必要も無かった。
 国中の騎士と兵士が攻め込んできても、軽く全滅させられていた。

「今の辺境伯家に宰相と戦う力はない。
 仮に軍資金と兵力があったとしても、軍を興す事はできない。
 王都にいる宰相に兵を向けると、王家王国への謀叛になってしまう
 ただ、宰相が攻めてきたら、自衛のために大魔術師殿が滅ぼしてくれる」
 
 嘘だ、この状態で大魔術師殿が辺境伯家を守ってくれるはずがない。
 もしかしたら、既に大魔術師殿の屋敷はもぬけの殻かもしれない。
 だが、それを商人達に知られる訳には行かない。

「それは……間違いないのですか?」

 商人に疑われるのも仕方がない。
 この商人だけでなく、大魔術師殿と直接商いしていた商人全員に疑われている。
 商人は人を見る目があるので、大魔術師殿の考え方を見抜いている可能性がある。

「私がそう思っているだけで、大魔術師殿がどう思っているかは分からない」

 ここは正直に話す方が良いだろう。
 絶対に隠さないといけない真実以外は正直に話して信頼を得る。
 
「それはその通りですね、全ては大魔術師殿がどう考えておられるか次第。
 それは分かりましたが、大魔術師殿の怒りを解く努力はされていますか?」

「私なりに努力はしている。
 成果は出ていないが、毎日朝晩に会って欲しいと屋敷に行っている」

「屋敷に行っていると申されましたが、正門も裏門も無くなって中に入れなくなっているではありませんか、完全に拒否されているのではありませんか?!」

 今までやんわりと追及していたのに、一気に急所に斬り込んで来た。
 正門と裏門を城壁に変えられた事を知っていた。

 それはそうだな、命の次に大切な金をかけて商売をしているのだ、手に入れられる情報は全て集めていて当然だな。
 
「完全に拒否されているとしたら、城壁など造らずに他国に移住している。
 城壁を造って守りを堅くするという事は、まだここに住む気があると言う事だ。
 まだこの地に住む気でいる間に、勘気を解かないといけないのだ。
 お前たち商人にも手を貸して欲しいと思っている」

「あれほどの香辛料と香料、砂糖と塩が手に入るのでしたら協力は惜しみません。
 独占させてくださるのなら、かなりの協力をさせていただきましょう。
 どうです、我々の商会と独占契約をされませんか?」

「申し訳ないが、その提案は受け入れられない。
 大魔術師殿の性格を考えたら、そのような契約をしたら嫌われる。
 どうしても独占契約をしたいのなら、止めないから屋敷に日参すればいい。
 出入口はなくなっているが、正門と裏門のあった場所は道に面している。
 そこから中に向かって叫べは、大魔術師殿に伝わる。
 貴君が大魔術師殿と独占契約してくれるのなら、私も助かる」

「そうですか、辺境伯閣下がそう言われるのでしたら、正門のあった所に行って、商会の条件を言わせていただきましょう」

 大商会の会長が相手ではなく、使用人の番頭や手代でしかないのに、交渉の度に自分の力不足を痛感する。

 父のように、武力でどうにでもなる弱者だけから収奪する、効率の悪い領地経営をするなら無能でもいいが、領地を効率よく治めるには強者に勝たねばならない。

 隣接している貴族士族だけでなく、商いに来る商人にも勝って、領内の産物を高値で売る力がなければ、辺境伯家を豊かにできない。
 領内に住む民に豊かな生活を与えられない。

「辺境伯閣下、次の面会希望者を案内してよろしいですか?」

「ああ、案内して来てくれ」

 毎日何人もの商人に会わないといけないが、これも情報収集だ。
 今の辺境伯家には、領外に人を送る力がない。
 商人がもたらしてくれる情報を精査して、今後の方針を考えるしかないのだ。

 先ほどの商会のように、王国中にある程度の商店網を築いている相手だけでなく、ロバに荷を乗せて村から村へ売り歩くような行商人にも会っている。

 ロバを曳く行商人など、辺境伯家の当主が直接会うような相手ではないが、大魔術師殿との関係を改善できなかったら、行商人すら貴重な存在になる。

 辺境伯領内にある小さな村々に必要な商品を運んでくれる、行商人しか領都に来なくなる可能性もあるのだ。

 領都の職人が造る剣や防具、弓や農具などを買ってくれるのも、規模の小さな行商人だけになってしまうかもしれないのだ。

「辺境伯閣下、行商人を連れて参りました」

「入ってくれ」

「失礼したします、この者が面会を願い出た行商人でございます」

「行商人のクラウスと申します、私のような卑しい行商人に面会を許可していただきました事、感謝の言葉もございません」

「構わない、願い事があるそうだが、何だ?」

「はい、王都の宰相が処罰されたという噂が行商人仲間に広まっております。
 本当かどうか教えて頂けないでしょうか?」

「なんだと、そのような噂が流れているのか?!」

「え、あ、はい、御存じなかったのですか?」

「おのれ大商人どもが、私に情報を流さないようにしていたな!」
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