夢にまで見た異世界転移だけど、勇者に成る気はありません。引き籠って生きたいのです。

克全

文字の大きさ
24 / 68
第一章

第19話:新人

しおりを挟む
転移9日目:山本光司(ミーツ)視点

「待て、早まるんじゃない、この高さから落ちると死んでしまうぞ!」

「だれ?!」

 俺はあらゆる魔術を重ね掛けして瞬く間に城壁にたどり着いた。
 バカ天使の案内で、無謀な逃亡を図っている寡婦達の所に来た。
 急いだお陰で寡婦と子供達はまだ城壁の上にいる。

「強盗冒険者とその黒幕だった貴族を殺した魔術師だ。
 新しい領主は、俺の命令で被害者の家族を探していただけだ。
 お前達を捕まえて罰する為でも口封じする為でもない。
 危険な逃亡をしなくても大丈夫だ」

 ネイを抱っこ紐を使って胸にしている男に、いきなり厳しく声かけられたのだ。
 領主の目を盗んで城壁を降りようとしている女が驚き慌てるのは当然だ。

「貴男の言う事を鵜呑みにして信じろと言うの?!」

「お前が子供を護ろうと慎重になるのは分かる。
 だがもう既に俺に見つかってしまっている。
 俺を信じずに壁を降りても逃げきれない事は分かるだろう?
 どうせ逃げきれないのだから、危険な事はしない方が良い」

 上から目線で偉そうに言っているが、ネイを前抱きしているから締まらない。
 だがその分親近感と微妙な信用は得られるかもしれない。
 どうか諦めてくれ、可哀想な女子供が死ぬ姿など見たくない。

「人間には命以上に大切なモノがあるわ!
 それを守るためなら命を危険にさらす事もいとわないわ!」

 そう厳しい決意を口にしながらも、寡婦の目は俺が抱いているネイに向かい、何とも言えない表情になっている。

「その誇りは賞賛に値するが、逆転と仇討ちの機会を失う事でもあるぞ。
 大切に家族の仇を討つために、泥水をすする覚悟もいるのではないか?」

 よし、感情が動いているようだ、この調子なら説得できそうだ。
 発作的に飛び降りないように慎重な言動を心がけよう。

「……」

「これを渡しておく」

 俺は亜空間から柄を女子供に向けて剣鉈を取り出した。
 人を斬るため武器ではなく、包丁と化しているモノだが、寡婦はそんな事を知らないから、俺が大切な武器を渡したと思うだろう。

「俺が嘘をついたと判断したら、攻撃に使っても自殺に使ってもいい。
 子供達の為にも、ひとまず俺について来てから判断したらどうだ?
 お前と同じ境遇の寡婦と孤児が既に集まっているぞ」

「……変な事をしようとしたら、この子達を殺して私も死ぬわよ!」

 俺に勝てない事も逃げきれない事も判断できているようだ。
 逆上していないのなら、館に来てくれさえすれば信じてくれるだろう。

「分かったが、安心して欲しい。
 不幸な目に会った寡婦と孤児を助けたいだけで他意はない。
 少しだけあるとすれば、恩を感じて忠誠を尽くしてくれる使用人が欲しいだけだ」

「使用人? 何を言っているの?」

「言葉だけでは心から信じてもらえないだろう?
 来てくれて、他の寡婦と孤児がどんな状況か見てくれれば分かる」

 危険な城壁下りをしようとしていた寡婦と子供は何とか助ける事ができた。
 バカ天使が良い仕事をしてくれたので、褒めておいた。
 褒めて褒めて褒め倒して、また寡婦と孤児を探しに行かせた。

 バカ天使は喜び勇んで寡婦と孤児が残っていないか探しに行った。
 昔からバカと鋏は使いようと言うが、本当だった。
 問題は領主のマイルズが間に合わなかったように、バカ天使が見落とした場合だ。

「殺虫魔術、インセクティサイド、殺虫魔術、インセクティサイド……
 殺虫魔術、インセクティサイド!」

 助けた寡婦と子供に、新たに考え出した殺虫魔術を使った。
 蚤、虱、壁蝨を殺すイメージを明確にして何度も魔術を放った。
 昔、地方競馬を観戦しに行って移された悪夢の再現だけは嫌だった。

「腹が減っていないか? 毒も眠り薬も入っていない。
 信用できないのなら、自分だけは食べず、子供達だけに食べさせてやれ」

 俺は今日焼いて食べきれなかった焼き鳥を亜空間から出してやった。
 寡婦も3人の子供もやせ衰えている。
 出会った時のネイほどではないが、気力だけで歩いている感じなのだ。

「分かったわ、子供達だけに食べさせるわ。
 さあ、しっかり食べさない、よく噛んで、慌てて食べないの……ありがとう」

 城壁に向かった行きと違って、帰りは結構な時間がかかってしまった。
 単に距離が離れているだけでなく、歩みが遅すぎたのだ。
 久しぶりにお腹一杯食べたので、3人の子供の内2人が眠ってしまったから。
 
 寡婦が俺に子供を預けてくれるはずもなく、2人を同時に抱く事も無理だ。
 何とか俺が勧める抱っこ紐を使ってくれたが、2人も抱いたら歩みが遅くなるのも当然で、1時間以上かかってしまった。

 寡婦と起きている年長の子供は大きくて立派な館に驚いていた。
 俺は自信満々な姿を見せるように気を使って入った。
 まあ、ネイを抱っこ紐を使って前抱きしている状態では、威厳など欠片もない。

「いるか? 入るぞ?
 この人達を風呂に入れて服と部屋を与えてやってくれ。

 館に戻った俺は、寡婦達が鳥の解体を行っている部屋に新人を連れて行った。

「まあ、早速新しい人を助けてくださったのですね? 流石御主人様です。
 さあ、さあ、さあ、もう何も心配したくて大丈夫ですよ。
 安心してお風呂に入り休んでください、おや、鳥肉を持っておられるのですね?
 ああ、そうですね、いきなりは信じられないですよね。
 部屋に入って鍵を閉めてから食べればいいですよ」

 リーダー格の寡婦が素早く新人を出迎え安心させてくれている。
 彼女に任せれば大丈夫だろう。
 俺は自分の性に合わない事を必死でやったので、もう一杯一杯だ。

「後は任せるが、ああ、これを使ってくれ。
 石鹸もタオルもケチケチしないで一杯使いなさい。
 食べ物を扱う人間は常にきれいにしておかなければならない」

 俺は奉天市場で新たに買った石鹸とタオルを渡した。
 買い忘れて数が減ったとしても、寡婦達が遠慮して言わない可能性もある。
 場所を決めて、常に一杯用意しておかなければいけない。

 寡婦と孤児には常に清潔にしてもらわなければいけない。
 共同浴場に行くのなら、ビニールで個包装した石鹸は持たせられない。
 ビニール以前に、この世界で使われている石鹸とは比較にならない高級品だ。

 だが、我が家は共同浴場を使わずに自宅の浴室を使っている。
 社交や情報を得るために共同浴場を使う気もない。
 1日でも早く引き籠りたいのに、何が哀しくて共同浴場など使うものか!

 だからビニールで個包装した100gの石鹸120個を6072円で買った。
 フェイスタオルも追加で100枚7799円で買った。
 寡婦と孤児の数が多いし、秘密を守ってくれると信じる事にしたのだ。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ちびすけ
ファンタジー
 勇者として召喚されたわけでもなく、神様のお告げがあったわけでもなく、トラックに轢かれたわけでもないのに、山崎健斗は突然十代半ばの少し幼い見た目の少年に転生していた。  この世界は魔法があるみたいだが、魔法を使うことが出来ないみたいだった。  しかし、手に持っていたタブレットの中に入っている『アプリ』のレベルを上げることによって、魔法を使う以上のことが出来るのに気付く。  ポイントを使ってアプリのレベルを上げ続ければ――ある意味チート。  しかし、そんなに簡単にレベルは上げられるはずもなく。  レベルを上げる毎に高くなるポイント(金額)にガクブルしつつ、地道に力を付けてお金を溜める努力をする。  そして――  掃除洗濯家事自炊が壊滅的な『暁』と言うパーティへ入り、美人エルフや綺麗なお姉さんの行動にドキドキしつつ、冒険者としてランクを上げたり魔法薬師と言う資格を取ったり、ハーネと言う可愛らしい魔獣を使役しながら、山崎健斗は快適生活を目指していく。 2024年1月4日まで毎日投稿。 (12月14日~31日まで深夜0時10分と朝8時10分、1日2回投稿となります。1月は1回投稿) 2019年第12回ファンタジー小説大賞「特別賞」受賞しました。 2020年1月に書籍化! 12月3巻発売 2021年6月4巻発売 7月コミカライズ1巻発売

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

処理中です...