23 / 49
第一章
蛇の弥五郎16
しおりを挟む
七右衛門の願いを聞いた河内屋善兵衛は、とても喜んで協力を快諾した。
善兵衛は、男の樋口市之丞に化けた文を手代として伴い、泉屋を訪れた。
札差でも規模の小さな泉屋では、善兵衛を門前払いになどできない。
そんな事をしたら、河内屋の本家分家が全力で泉屋を叩き潰すだろう。
その時には、御先手組だけで河内屋の総力から泉屋を守ることなど不可能だ。
泉屋の当主治五郎は、会うには会うが、何もしゃべらないつもりだった。
自分にはそれくらいの胆力があると自負していた。
だがその自負は脆くも打ち砕かれてしまった。
たかが人間の胆力で、神使の力に及ぶべくもない。
簡単に全ての企みを自白してしまった。
わずか半刻後に、善兵衛は治五郎伴って南町奉行所の七右衛門を訪ねた。
善兵衛と事前に打ち合わせしていた七右衛門は、直ぐに御奉行に全てを話した。
御奉行の根岸肥前守は、わずかに躊躇ったものの、直ぐに老中に面談を求めた。
わずかな躊躇いは、同じ旗本の渡辺孝を慮ってのことであり、隠蔽することも考えたからだった。
だがその考えは直ぐに捨てた。
河内屋善兵衛と七右衛門が全てを知っている。
火付け盗賊改め方が手柄欲しさに無実の者を陥れ、それを知った町奉行が隠蔽を図ったとなれば、幕府の威信が地に落ちるばかりか、江戸城下で打ち壊しの嵐が吹き荒れるのが直ぐに分かったからだ。
根岸肥前守はその事も含めて幕閣の面々に事件を伝えた。
聞いた幕閣の面々は激怒した。
激怒すると同時に、対処策を肥前守に尋ねた。
肥前守の返事は単純明快だった。
火付け盗賊改め方を町人の敵にして、七右衛門を持ちあげると言うものだった。
だがその答えは幕閣の面々には納得できるモノではなかった。
町奉行と七右衛門個人の名声は高まるものの、幕府全体の威信は地に落ちる。
そこで幕閣の面々は、七右衛門に火付け盗賊改め方の御用聞きと同心の捕縛を許可すると同時に、幕府の威信を落とさない献策をするように命じたのだ。
七右衛門は煩悶した。
正直言って、これと言う策が思いつかなかった。
だが何としても良案を捻り出す必要があった。
出せなかった場合、幕府の威信を護るために、自分や一族まで皆殺しにされる可能性があると、真剣に考えていたのだ。
幕府から見れば、無実の罪で陥れようとも、河内屋一門を闕所にすれば、一族一門併せて六百万両が手に入るのだ。
七右衛門も真剣にならざるおえなかった。
父の河内屋徳太郎や、分家の商家を引き継いだ誰かが稲荷神に認められていたら、商家の河内屋が潰される事はなかっただろう。
だが、神使が認めたのは七右衛門だった。
与力家坪内七右衛門家は安泰でも、河内屋には不安があったのだ。
善兵衛は、男の樋口市之丞に化けた文を手代として伴い、泉屋を訪れた。
札差でも規模の小さな泉屋では、善兵衛を門前払いになどできない。
そんな事をしたら、河内屋の本家分家が全力で泉屋を叩き潰すだろう。
その時には、御先手組だけで河内屋の総力から泉屋を守ることなど不可能だ。
泉屋の当主治五郎は、会うには会うが、何もしゃべらないつもりだった。
自分にはそれくらいの胆力があると自負していた。
だがその自負は脆くも打ち砕かれてしまった。
たかが人間の胆力で、神使の力に及ぶべくもない。
簡単に全ての企みを自白してしまった。
わずか半刻後に、善兵衛は治五郎伴って南町奉行所の七右衛門を訪ねた。
善兵衛と事前に打ち合わせしていた七右衛門は、直ぐに御奉行に全てを話した。
御奉行の根岸肥前守は、わずかに躊躇ったものの、直ぐに老中に面談を求めた。
わずかな躊躇いは、同じ旗本の渡辺孝を慮ってのことであり、隠蔽することも考えたからだった。
だがその考えは直ぐに捨てた。
河内屋善兵衛と七右衛門が全てを知っている。
火付け盗賊改め方が手柄欲しさに無実の者を陥れ、それを知った町奉行が隠蔽を図ったとなれば、幕府の威信が地に落ちるばかりか、江戸城下で打ち壊しの嵐が吹き荒れるのが直ぐに分かったからだ。
根岸肥前守はその事も含めて幕閣の面々に事件を伝えた。
聞いた幕閣の面々は激怒した。
激怒すると同時に、対処策を肥前守に尋ねた。
肥前守の返事は単純明快だった。
火付け盗賊改め方を町人の敵にして、七右衛門を持ちあげると言うものだった。
だがその答えは幕閣の面々には納得できるモノではなかった。
町奉行と七右衛門個人の名声は高まるものの、幕府全体の威信は地に落ちる。
そこで幕閣の面々は、七右衛門に火付け盗賊改め方の御用聞きと同心の捕縛を許可すると同時に、幕府の威信を落とさない献策をするように命じたのだ。
七右衛門は煩悶した。
正直言って、これと言う策が思いつかなかった。
だが何としても良案を捻り出す必要があった。
出せなかった場合、幕府の威信を護るために、自分や一族まで皆殺しにされる可能性があると、真剣に考えていたのだ。
幕府から見れば、無実の罪で陥れようとも、河内屋一門を闕所にすれば、一族一門併せて六百万両が手に入るのだ。
七右衛門も真剣にならざるおえなかった。
父の河内屋徳太郎や、分家の商家を引き継いだ誰かが稲荷神に認められていたら、商家の河内屋が潰される事はなかっただろう。
だが、神使が認めたのは七右衛門だった。
与力家坪内七右衛門家は安泰でも、河内屋には不安があったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる