御大尽与力と稲荷神使

克全

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第一章

蛇の弥五郎17

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 七右衛門は文と祖父の善兵衛にも相談した。
 事ここに至っては、文の事を善兵衛に黙っていられなかった。
 善兵衛を通じて、父の徳太郎や叔父達、兄達にも伝えてもらいたかった。
 真実を知れば、善兵衛に何かあっても父達が驕り高ぶることがないと考えたのだ。
 七右衛門は家族想いだったのだ。

 善兵衛も神使の件は察していた。
 だからあまり驚かずに話を聞いてくれた。
 と言うか、樋口市之丞姿の文を見た時点で、全てを理解していた。
 それは七右衛門が不安に思っている幕閣の方針もだった。
 だから善兵衛は今後の方針も含めて全てを記した文を、一族一門全ての送った。

 善兵衛の策は、火付け盗賊改め方にも孫を送り込むと言うものだった。
 前回の冤罪事件でも、与力が召し放ちになっている。
 その代わりの与力家を、無役の御家人を送り込むのではなく、七右衛門の従弟を一代抱席与力として、就任直後に七右衛門の手先によって手柄を立てさせ、火付け盗賊に汚名返上させて、幕府の威信を取り戻すと言うものだった。

「肥前守。
 なかなかよい策に思うが、手柄は一度限りなのか?」

 老中は町奉行肥前守に聞いているように見せかけて、本当は命令をしていた。
 老中の願いは、火付け盗賊改め方に定期的に手柄を立てさせることだった。
 肥前守にも町奉行としての欲があった。
 自分の配下が立てるはずの手柄を、全て他人に渡すのは納得できなかった。

「全ての手柄を火付け盗賊改め方の渡せと申されますか?
 そんな事になれば、町奉行所は火付け盗賊改め方の後塵を拝する事になります。
 それは幾らなんでも納得しかねます。
 御配慮して頂きたく存じます」

「ふむ。
 その方の気持ちも分かるが、手柄欲しさに同じような事をやられては困るのだ。
 蛇の弥五郎を抑えるには、火付け盗賊改め方が六組必要だと申したのは其方だ。
 六組に手柄を立てさせるとなると、町奉行所が上げる手柄は減るのが当然だ」

 肥前守も老中の考えは理解できた。
 江戸の町の事だけでなく、幕府の事を考えるのも町奉行の重要な役目だ。
 だが、火付け盗賊改め方に七右衛門の縁者が与力家として立つのなら、火付け盗賊改め方が六組も必要ではなくなる。

「以前とは状況が変わりました。
 七右衛門の手先は六百を超えております。
 七右衛門の縁者が火付け盗賊改め方の与力になるならば、その内の三百人を移籍させる事が可能でございます。
 その手先を火付け盗賊改め方の同心に預ければ、火付け盗賊改め方を六組にする必要はなくなります。
 そうなれば、火付け盗賊改め方長官の負担も減りましょう」
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