24 / 49
第一章
蛇の弥五郎17
しおりを挟む
七右衛門は文と祖父の善兵衛にも相談した。
事ここに至っては、文の事を善兵衛に黙っていられなかった。
善兵衛を通じて、父の徳太郎や叔父達、兄達にも伝えてもらいたかった。
真実を知れば、善兵衛に何かあっても父達が驕り高ぶることがないと考えたのだ。
七右衛門は家族想いだったのだ。
善兵衛も神使の件は察していた。
だからあまり驚かずに話を聞いてくれた。
と言うか、樋口市之丞姿の文を見た時点で、全てを理解していた。
それは七右衛門が不安に思っている幕閣の方針もだった。
だから善兵衛は今後の方針も含めて全てを記した文を、一族一門全ての送った。
善兵衛の策は、火付け盗賊改め方にも孫を送り込むと言うものだった。
前回の冤罪事件でも、与力が召し放ちになっている。
その代わりの与力家を、無役の御家人を送り込むのではなく、七右衛門の従弟を一代抱席与力として、就任直後に七右衛門の手先によって手柄を立てさせ、火付け盗賊に汚名返上させて、幕府の威信を取り戻すと言うものだった。
「肥前守。
なかなかよい策に思うが、手柄は一度限りなのか?」
老中は町奉行肥前守に聞いているように見せかけて、本当は命令をしていた。
老中の願いは、火付け盗賊改め方に定期的に手柄を立てさせることだった。
肥前守にも町奉行としての欲があった。
自分の配下が立てるはずの手柄を、全て他人に渡すのは納得できなかった。
「全ての手柄を火付け盗賊改め方の渡せと申されますか?
そんな事になれば、町奉行所は火付け盗賊改め方の後塵を拝する事になります。
それは幾らなんでも納得しかねます。
御配慮して頂きたく存じます」
「ふむ。
その方の気持ちも分かるが、手柄欲しさに同じような事をやられては困るのだ。
蛇の弥五郎を抑えるには、火付け盗賊改め方が六組必要だと申したのは其方だ。
六組に手柄を立てさせるとなると、町奉行所が上げる手柄は減るのが当然だ」
肥前守も老中の考えは理解できた。
江戸の町の事だけでなく、幕府の事を考えるのも町奉行の重要な役目だ。
だが、火付け盗賊改め方に七右衛門の縁者が与力家として立つのなら、火付け盗賊改め方が六組も必要ではなくなる。
「以前とは状況が変わりました。
七右衛門の手先は六百を超えております。
七右衛門の縁者が火付け盗賊改め方の与力になるならば、その内の三百人を移籍させる事が可能でございます。
その手先を火付け盗賊改め方の同心に預ければ、火付け盗賊改め方を六組にする必要はなくなります。
そうなれば、火付け盗賊改め方長官の負担も減りましょう」
事ここに至っては、文の事を善兵衛に黙っていられなかった。
善兵衛を通じて、父の徳太郎や叔父達、兄達にも伝えてもらいたかった。
真実を知れば、善兵衛に何かあっても父達が驕り高ぶることがないと考えたのだ。
七右衛門は家族想いだったのだ。
善兵衛も神使の件は察していた。
だからあまり驚かずに話を聞いてくれた。
と言うか、樋口市之丞姿の文を見た時点で、全てを理解していた。
それは七右衛門が不安に思っている幕閣の方針もだった。
だから善兵衛は今後の方針も含めて全てを記した文を、一族一門全ての送った。
善兵衛の策は、火付け盗賊改め方にも孫を送り込むと言うものだった。
前回の冤罪事件でも、与力が召し放ちになっている。
その代わりの与力家を、無役の御家人を送り込むのではなく、七右衛門の従弟を一代抱席与力として、就任直後に七右衛門の手先によって手柄を立てさせ、火付け盗賊に汚名返上させて、幕府の威信を取り戻すと言うものだった。
「肥前守。
なかなかよい策に思うが、手柄は一度限りなのか?」
老中は町奉行肥前守に聞いているように見せかけて、本当は命令をしていた。
老中の願いは、火付け盗賊改め方に定期的に手柄を立てさせることだった。
肥前守にも町奉行としての欲があった。
自分の配下が立てるはずの手柄を、全て他人に渡すのは納得できなかった。
「全ての手柄を火付け盗賊改め方の渡せと申されますか?
そんな事になれば、町奉行所は火付け盗賊改め方の後塵を拝する事になります。
それは幾らなんでも納得しかねます。
御配慮して頂きたく存じます」
「ふむ。
その方の気持ちも分かるが、手柄欲しさに同じような事をやられては困るのだ。
蛇の弥五郎を抑えるには、火付け盗賊改め方が六組必要だと申したのは其方だ。
六組に手柄を立てさせるとなると、町奉行所が上げる手柄は減るのが当然だ」
肥前守も老中の考えは理解できた。
江戸の町の事だけでなく、幕府の事を考えるのも町奉行の重要な役目だ。
だが、火付け盗賊改め方に七右衛門の縁者が与力家として立つのなら、火付け盗賊改め方が六組も必要ではなくなる。
「以前とは状況が変わりました。
七右衛門の手先は六百を超えております。
七右衛門の縁者が火付け盗賊改め方の与力になるならば、その内の三百人を移籍させる事が可能でございます。
その手先を火付け盗賊改め方の同心に預ければ、火付け盗賊改め方を六組にする必要はなくなります。
そうなれば、火付け盗賊改め方長官の負担も減りましょう」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる