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本編
観音寺騒動(永禄6年・1563年)・南近江侵攻
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永禄6年(1563年)六角家内で御家騒動が起こった、史実で言う「観音寺騒動」だ。
六角家には「六角氏の両藤」と称された2人の傑出した家臣がいた。
六角家中における功臣として人望も厚く、隠居した義賢からの信任も厚かった後藤賢豊と嫡男・壱岐守が六角家当主・六角義治に無礼討ちにされたのだ。
もう1人の「六角氏の両藤」進藤貞治は既に病で亡くなっており、この騒動を納める事の出来る者はいなかった。
『稲葉山城』
「義直様、観音寺城で内紛が起きました、急ぎ兵を整えられませ。」
「国衆・地侍を待たず、直臣や足軽たちだけで攻め込むほど好機なのですね?」
「一気に六角家を攻め滅ぼす好機です。国衆・地侍には使者を送っておけば、功名目当てに急ぎ馳せ参じます。まずは六角家家中の動揺が納まらないうちに、攻め取れるだけ攻め取って下さい。」
「はい、そういたします。」
義直の扶持で養われている、足軽衆を主力とした3万兵が、八風街道・千種街道・北国脇往還・中山道などに分かれて、少しでも早く観音寺城下に集結出来るようにした。
同時に動揺する六角家家臣団・南近江の国衆・地侍に調略を仕掛けた。
北近江の浅井長政も、南近江への調略・侵攻を企てたため六角家の分裂に拍車が掛かった。
『稲葉山城』
「御隠居様、わざわざこの城にまで足を運ばれるなど何事でございますか?」
「直虎が義直の行軍に付き従わないなど珍しいからな。」
「今の義直様には優秀な近習衆・小姓衆が付き従っております。母親がこれ以上付き纏うのはよくないですから。」
「そうか、それはそうと今回の件はお前の仕業か?」
「何の事でございますか?」
「とぼけるな、六角義治と後藤賢豊の間に毒を吹き込んだのだろう。」
「毒と言うほどの事ではありません。後藤賢豊の叔父・千種忠基だけ殺されて、六角義治の大叔父・梅戸高実だけ助かったのは、義治が後藤家の力を削ぐ為に、今川家と結託してやった事だと噂を流しただけです。」
「十分毒ではないか、だがそれだけではなかろう。」
「千種忠治殿を逃がす手引きをしたのは、六角義治だと言う噂も流れているようです。」
「本当に悪辣な事をするものだ。」
「君臣の間が強く結びついていれば、この程度の噂などでビクともいたしません。」
「俺っちや氏真のことを言っているのか?!」
「猜疑心もほどほどになされないと、忠臣を失い他国に付け込まれてしまいます。」
「心しておこう。」
『観音寺城』
六角義治の愚行で混乱の極みにあった観音寺城から、六角義賢・義治親子が逃げ出した。いや後藤高治に味方した国衆たちが追い出したと言う方が正しいだろう。
父・後藤賢豊と兄・壱岐守を殺された後藤高治は、佐生城に戻り義直軍を近江に引き入れた。八風街道を進軍した義直軍は、後藤高治に味方した黄和田城の小倉家(西家)、鯰江城の鯰江貞景、大森城の布施淡路守公雄、布施山城の布施三河守、八町城の赤田隆、肥田城と高野瀬城の高野瀬秀頼などの道案内で観音寺城まで一直線に入った。
観音寺城を守ろうとしても、東端の防御拠点であるともいえる佐生城主・後藤家を敵に回してしまっている。何より観音寺城自体を、後藤高治に味方した国衆たちが占拠していた。
だが国境を守る小倉西家が寝返らなければ、これほど簡単に義直が近江に入り込むことは出来なかった。いくら六角義治が愚行を行ったからと言って、他国の軍勢を引き込むにはよほどの理由が必要だ。
そもそも小倉家には佐久良城主を務める宗家があった、だがその宗家は先代・小倉実光が実子無く死亡したため、蒲生定秀の3男が小倉実隆として養嗣子として跡を継いでいる。小倉西家としたら、血縁の自分達が宗家を継ぐべきだと言う思いがある。この強引な養子縁組を認めた六角に対する反発は強くあった。
更に小倉西家・高野城主・小倉実房は、永禄2年(1559年)に京都から帰途につく織田信長が、八風街道越えで伊賀に抜ける手引きをしたことがあった。だがそれを理由に六角義賢の怒りを買い、翌年にかけて和南山の合戦が起こり殺されてしまっていた。
「小倉西家の一門たち」
山上城主・小倉右京亮実治
高野城主・小倉実房
和南城主・小倉源兵衛
山田城
八尾城・小倉左近将監実澄
相谷城・
黄和田城・川副孫三郎吉永
「後藤殿、この度の協力感謝いたす。」
「いえ、この度の厚遇に感謝いたします。」
「いやいや、六角家の悪行は今川家にまで伝わっておった、今まで国衆・地侍が持っていた権利は保証する。ただ各家に残っている文書・書付と六角家に保管されている文書・書付を検めて、間違いの無いようにしたい。」
「それで結構でございます、今の御言葉を聞けば、去就に迷っている国衆・地侍も義直様の下に馳せ参じる事と思われます。」
「後藤殿にはこれからも、近江衆の取りまとめをしてもらわなければならん。」
「誠心誠意働かせて頂きます。」
「大爺、後藤殿には我が諱を与えたいがどう思うか?」
「それは結構な考えだと思われます。」
「では、我が義直の直の字を与え、亡くなられた後藤賢豊殿の賢の字を使い、後藤直賢と言うのはどうだろう?」
「よき名を頂き恐悦至極でございます、義直様の為に粉骨砕身働かせて頂きます。」
「期待しておるぞ。」
六角家には「六角氏の両藤」と称された2人の傑出した家臣がいた。
六角家中における功臣として人望も厚く、隠居した義賢からの信任も厚かった後藤賢豊と嫡男・壱岐守が六角家当主・六角義治に無礼討ちにされたのだ。
もう1人の「六角氏の両藤」進藤貞治は既に病で亡くなっており、この騒動を納める事の出来る者はいなかった。
『稲葉山城』
「義直様、観音寺城で内紛が起きました、急ぎ兵を整えられませ。」
「国衆・地侍を待たず、直臣や足軽たちだけで攻め込むほど好機なのですね?」
「一気に六角家を攻め滅ぼす好機です。国衆・地侍には使者を送っておけば、功名目当てに急ぎ馳せ参じます。まずは六角家家中の動揺が納まらないうちに、攻め取れるだけ攻め取って下さい。」
「はい、そういたします。」
義直の扶持で養われている、足軽衆を主力とした3万兵が、八風街道・千種街道・北国脇往還・中山道などに分かれて、少しでも早く観音寺城下に集結出来るようにした。
同時に動揺する六角家家臣団・南近江の国衆・地侍に調略を仕掛けた。
北近江の浅井長政も、南近江への調略・侵攻を企てたため六角家の分裂に拍車が掛かった。
『稲葉山城』
「御隠居様、わざわざこの城にまで足を運ばれるなど何事でございますか?」
「直虎が義直の行軍に付き従わないなど珍しいからな。」
「今の義直様には優秀な近習衆・小姓衆が付き従っております。母親がこれ以上付き纏うのはよくないですから。」
「そうか、それはそうと今回の件はお前の仕業か?」
「何の事でございますか?」
「とぼけるな、六角義治と後藤賢豊の間に毒を吹き込んだのだろう。」
「毒と言うほどの事ではありません。後藤賢豊の叔父・千種忠基だけ殺されて、六角義治の大叔父・梅戸高実だけ助かったのは、義治が後藤家の力を削ぐ為に、今川家と結託してやった事だと噂を流しただけです。」
「十分毒ではないか、だがそれだけではなかろう。」
「千種忠治殿を逃がす手引きをしたのは、六角義治だと言う噂も流れているようです。」
「本当に悪辣な事をするものだ。」
「君臣の間が強く結びついていれば、この程度の噂などでビクともいたしません。」
「俺っちや氏真のことを言っているのか?!」
「猜疑心もほどほどになされないと、忠臣を失い他国に付け込まれてしまいます。」
「心しておこう。」
『観音寺城』
六角義治の愚行で混乱の極みにあった観音寺城から、六角義賢・義治親子が逃げ出した。いや後藤高治に味方した国衆たちが追い出したと言う方が正しいだろう。
父・後藤賢豊と兄・壱岐守を殺された後藤高治は、佐生城に戻り義直軍を近江に引き入れた。八風街道を進軍した義直軍は、後藤高治に味方した黄和田城の小倉家(西家)、鯰江城の鯰江貞景、大森城の布施淡路守公雄、布施山城の布施三河守、八町城の赤田隆、肥田城と高野瀬城の高野瀬秀頼などの道案内で観音寺城まで一直線に入った。
観音寺城を守ろうとしても、東端の防御拠点であるともいえる佐生城主・後藤家を敵に回してしまっている。何より観音寺城自体を、後藤高治に味方した国衆たちが占拠していた。
だが国境を守る小倉西家が寝返らなければ、これほど簡単に義直が近江に入り込むことは出来なかった。いくら六角義治が愚行を行ったからと言って、他国の軍勢を引き込むにはよほどの理由が必要だ。
そもそも小倉家には佐久良城主を務める宗家があった、だがその宗家は先代・小倉実光が実子無く死亡したため、蒲生定秀の3男が小倉実隆として養嗣子として跡を継いでいる。小倉西家としたら、血縁の自分達が宗家を継ぐべきだと言う思いがある。この強引な養子縁組を認めた六角に対する反発は強くあった。
更に小倉西家・高野城主・小倉実房は、永禄2年(1559年)に京都から帰途につく織田信長が、八風街道越えで伊賀に抜ける手引きをしたことがあった。だがそれを理由に六角義賢の怒りを買い、翌年にかけて和南山の合戦が起こり殺されてしまっていた。
「小倉西家の一門たち」
山上城主・小倉右京亮実治
高野城主・小倉実房
和南城主・小倉源兵衛
山田城
八尾城・小倉左近将監実澄
相谷城・
黄和田城・川副孫三郎吉永
「後藤殿、この度の協力感謝いたす。」
「いえ、この度の厚遇に感謝いたします。」
「いやいや、六角家の悪行は今川家にまで伝わっておった、今まで国衆・地侍が持っていた権利は保証する。ただ各家に残っている文書・書付と六角家に保管されている文書・書付を検めて、間違いの無いようにしたい。」
「それで結構でございます、今の御言葉を聞けば、去就に迷っている国衆・地侍も義直様の下に馳せ参じる事と思われます。」
「後藤殿にはこれからも、近江衆の取りまとめをしてもらわなければならん。」
「誠心誠意働かせて頂きます。」
「大爺、後藤殿には我が諱を与えたいがどう思うか?」
「それは結構な考えだと思われます。」
「では、我が義直の直の字を与え、亡くなられた後藤賢豊殿の賢の字を使い、後藤直賢と言うのはどうだろう?」
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