女将軍 井伊直虎

克全

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本編

和泉侵攻

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 河内を制圧した直竜勢は、摂津に陣を構える三好三人衆を警戒しつつ、勢いを緩めることなく和泉に侵攻した。ただし三好三人衆を刺激しないように、摂津と和泉にまたがる位置にある、堺には近づかないようにした。

 もちろん三好三人衆が摂津から動けないように、今川義元が大山崎に駐屯し続けていたし、京の将軍直属軍から2万が援軍に動いたという噂を流してもいた。これによって三好三人衆は動くに動けず、味方してくれていた畿内の国衆・地侍を見殺しにする結果となり、信用を失墜させてしまうことになった。

 直竜の侵攻に対して、三好三人衆が援軍を出せなかったことで、和泉の国衆・地侍は草木が風になびくように直竜に降伏してきた。紀伊に近い地域は根来寺の影響が大きく、後々の統治に不都合が予想されたが、これは避けようがなかった。

 直竜勢に同行している三好義継にとって大きかったのは、岸和田城主・松浦守の養嗣子となった、半弟の松浦肥前守信輝の城地が安堵されたことだった。

 信輝は養嗣子に出されたことや、十河家を兄・十河存之ではなく、三好実休の息子で従兄弟の十河存保が継いだことに複雑な思いがあった。だがそれでも、兄・三好義継から情愛にこもった文を送られれば心も揺らぐ。何より三好三人衆と行動を共にしたら、松浦家自体が滅亡してしまうのだ、養家の一族一門譜代衆のことを考えれば降伏するしかなかった。


1568年『近江・観音寺城』今川義直・直虎

「母上様、幕府の御領所である河内十七箇所の代官職を、本当に三好義継に与えてよろしかったのですか」

「それでいいのです」

「ですが、基本的に幕府御領所は、私の直臣に任せることになっていましたよね」

「ですが公方様、三河や尾張・美濃では多くの国衆に代官職を任せたでしょ」

「あれはまだ覇権を獲得する前でしたし、今後は厳しく基準を設けることになったはずです」

「その通りです、ですがあの地は色々と因縁があるのです」

「あの地が原因で三好家が細川晴元と敵対したことや、三好長慶殿やその父親・三好元長が代官職を得ていたことですか」

「そうです、年貢さえしっかり納めてくれれば、三好家に入るのは1割程度です」

「面目を立てることで、与える領地を減らすということですか」

「そうです、弟の松浦信輝殿の所領を安堵した恩も与えています、義継殿に直接与える領地を減らすことが出来ます」

「もしかして、義継殿と信輝殿を相い争うわせるお心算ですか」

「義継殿が公方様に忠誠を尽くす限り、そのようなことはいたしませんよ」
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