最優秀な双子の妹に婚約者を奪われました。

克全

文字の大きさ
19 / 48
第二章

第19話:激怒

しおりを挟む
 皇太子宮が静寂に包まれていた。
 誰もが息をひそめていた。
 だがそれも当然だろう。
 皇太子の想い人が呪殺されかけたのだ。
 皇太子の心が怒りの坩堝となっている事を知っているから。

「今回の呪術にはモーラ夫人とオリアンナ嬢が係わっているようです」

 皇太子が信頼する密偵が報告した。
 皇太子はあまりの事に怒りで眼の前が真っ赤になった。
 怒りが強すぎて血が頭に上り過ぎて目が充血した影響かもしれない。
 それにしても酷過ぎることだった。
 オリアンナはマチルダ嬢が庇わなければ厳罰に処せられるはずだった妹だ。
 モーラはマチルダ嬢の実の母親だ。
 その二人がマチルダ嬢の呪殺に協力していたというのだ。

「証明する方法はあるのか。
 それとも状況証拠だけなのか」

 皇太子はできるだけ冷静な声をだそうと精神力の限りを尽くしていた。
 だがその努力が成功しているとはとても言えなかった。
 密偵の耳をうつ皇太子の声には疑いようのない殺意が籠っていた。

「残念ながら状況証拠だけでございます」

 密偵は皇太子から放たれるあまりの殺意に内心震えあがっていた。
 だが必死でその恐怖感を抑え込んで報告を続けた。

「どんな状況証拠なのだ。
 些細な事でも構わない、全部報告しろ」

「はい、まずは呪術返しを受けて死んだ呪術師はディグビー王家の呪術師でした。
 この点は呪術返しを行った宮の呪術師が間違いないと言っております。
 ディグビー王家に入り込んでいる密偵から同じ報告が届いています。
 ディグビー王家はフランドル王家と二重の縁を結んでおります。
 マチルダ様を恨んでいるロバート王太子の母親であるマティルド王妃は、ディグビー王家の王女で現ディグビー国王の妹です。
 ディグビー王国のアビゲイル王妃はフランドル王家の出身です。
 フランドル王国のジェラルド王の姉に当たられます。
 しかもモーラ夫人はディグビー王国の公爵家出身です」

 密偵は恐怖を抑えて淡々と報告していた。

「状況証拠からは十分疑うことができるが、断罪できるほどの確定的な証拠ではないな、何か方法はないか」

 実行犯は呪術返しで殺したが、命令した主犯と協力した卑劣漢を断罪できない事で、皇太子の怒りが更に膨らんでいる事に密偵は恐怖していた。
 できれば嘘をついてでも怒りを抑えたかったが、そんな事をすれば後でもっと酷いことになるのは分かっていた。
 分かっていても嘘をつきたくなるくらい皇太子から放たれる殺意は強すぎた。
 一瞬の間を永遠の時のように感じながら迷った末に決断して話しだした。

「残念ながら私には思いつきません。
 表からの断罪は難しいので、やるとすれば同じように呪殺になります。
 それでよろしければ呪殺に使うモノを集めさせます」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

嘘吐きは悪役聖女のはじまり ~婚約破棄された私はざまぁで人生逆転します~

上下左右
恋愛
「クラリスよ。貴様のような嘘吐き聖女と結婚することはできない。婚約は破棄させてもらうぞ!」 男爵令嬢マリアの嘘により、第二王子ハラルドとの婚約を破棄された私! 正直者の聖女として生きてきたのに、こんな目に遭うなんて……嘘の恐ろしさを私は知るのでした。 絶望して涙を流す私の前に姿を現したのは第一王子ケインでした。彼は嘘吐き王子として悪名高い男でしたが、なぜだか私のことを溺愛していました。 そんな彼が私の婚約破棄を許せるはずもなく、ハラルドへの復讐を提案します。 「僕はいつだって君の味方だ。さぁ、嘘の力で復讐しよう!」 正直者は救われない。現実を知った聖女の進むべき道とは…… 本作は前編・後編の二部構成の小説になります。サクッと読み終わりたい方は是非読んでみてください!!

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

ムカつく悪役令嬢の姉を無視していたら、いつの間にか私が聖女になっていました。

冬吹せいら
恋愛
侯爵令嬢のリリナ・アルシアルには、二歳上の姉、ルルエがいた。 ルルエはことあるごとに妹のリリナにちょっかいをかけている。しかし、ルルエが十歳、リリナが八歳になったある日、ルルエの罠により、酷い怪我を負わされたリリナは、ルルエのことを完全に無視することにした。 そして迎えた、リリナの十四歳の誕生日。 長女でありながら、最低級の適性を授かった、姉のルルエとは違い、聖女を授かったリリナは……。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。

藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。 伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。 セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。 そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに…… 婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。 そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】婚約破棄され追放された聖女 ~帰ってきてくれ? 帰るわけないでしょう~

つぼみ
恋愛
ノルデン王国で毎日まじめに聖女の仕事をおこなっていたソフィア。 ソフィアは婚約者でこの国の王子であるテーラルにいじめられていた。 テーラルは最愛の人カミラと婚約したいと考えソフィアに婚約破棄をつげる。 ソフィアは仕事に専念できると喜んだが、テーラルに聖女などいらないといわれ、追放されてしまう。 その後、ソフィアは隣国シニストラ王国に行く。 そのころ、聖女の消えたノルデン王国は大変なことになっており……。 *婚約破棄される聖女もの初挑戦です。 *もうほとんど書き終わっているので毎日投稿します。

「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。 しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。 その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。 一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。

処理中です...