20 / 48
第二章
第20話:憤怒
サーニン皇太子は迷わなかった。
即断即決して密偵に命令を下した。
「呪殺に使うモノを集めろ。
オリアンナとモーラはもちろん、ディグビー王家とフランドル王家のモノも全部集めて呪殺の準備を整えろ」
皇太子の命令は速やかに実行された。
ルーサン皇国の家臣となり、皇都の外れに屋敷を構えたファルド公爵家のモノは直ぐに集まったが、ディグビー王家とフランドル王家のモノは中々集まらなかった。
皇国の密偵が一生懸命に集めようとしたが、相手も一国の王族だ。
呪殺に使える身の回りのモノはそう簡単に集められるモノではなかった。
血や肉片などとても集められるモノではない。
髪の毛や爪だって厳重に管理処分されているのだ。
「皇太子殿下、今しばらくお待ちください。
今オリアンナ嬢とモーラ夫人を呪殺すると、ディグビー王家とフランドル王家の警戒が厳重になってしまいます。
ようやくマティルド王妃とアビゲイル王妃の侍女を籠絡する事ができました。
髪の毛を手に入れられるめどがついたのです。
今しばらく自重願います」
密偵には皇太子の苛立ちが分かっていた。
呪殺に使うモノを集めようとしたことで、修道院送りになったオリアンナが逆恨みして、マチルダ嬢を呪殺する準備をしているのが分かったのだ。
だが同時にそのお陰で、前回のマチルダ嬢に対する呪殺未遂に関係していないのも分かったので、報復すべき相手ではない事が分かってしまった。
「皇太子殿下、オリアンナ嬢の呪殺には十分な対策を取っております。
オリアンナ嬢に呪殺を行わせて返した方が絶望感を与えられます。
何よりマチルダ嬢に嫌われる心配がなくなります。
殿下が何よりも気にかけておられるのはその事ではありませんか。
先制で呪殺を行えばマチルダ嬢に嫌われてしまうかもしれません」
密偵は決死の思いで言い難い事を口にした。
今では皇太子宮に仕える者全員がマチルダ嬢の清廉潔白な性格を知っていた。
同時に皇太子殿下がマチルダ嬢を溺愛している事も知っていた。
だからこそマチルダ嬢の名前を出す事は諸刃の剣だった。
皇太子殿下を抑える事もあれば激怒させる事もある。
密偵は心から皇太子殿下を尊敬し忠誠を誓っていた。
皇太子殿下に幸せになって欲しいとも思っていた。
殿下がマチルダ嬢の害になる者を事前に取り除きたいと思っている事も知っていたが、同時にマチルダ嬢に嫌われたくないと思っている事も知っていた。
その前提で今回の提案をしたのだ。
感情を抑えようとガリガリと音がするほど奥歯を噛みしめる皇太子の前で、密偵は永遠とも思える不安な時間を過ごしていた。
即断即決して密偵に命令を下した。
「呪殺に使うモノを集めろ。
オリアンナとモーラはもちろん、ディグビー王家とフランドル王家のモノも全部集めて呪殺の準備を整えろ」
皇太子の命令は速やかに実行された。
ルーサン皇国の家臣となり、皇都の外れに屋敷を構えたファルド公爵家のモノは直ぐに集まったが、ディグビー王家とフランドル王家のモノは中々集まらなかった。
皇国の密偵が一生懸命に集めようとしたが、相手も一国の王族だ。
呪殺に使える身の回りのモノはそう簡単に集められるモノではなかった。
血や肉片などとても集められるモノではない。
髪の毛や爪だって厳重に管理処分されているのだ。
「皇太子殿下、今しばらくお待ちください。
今オリアンナ嬢とモーラ夫人を呪殺すると、ディグビー王家とフランドル王家の警戒が厳重になってしまいます。
ようやくマティルド王妃とアビゲイル王妃の侍女を籠絡する事ができました。
髪の毛を手に入れられるめどがついたのです。
今しばらく自重願います」
密偵には皇太子の苛立ちが分かっていた。
呪殺に使うモノを集めようとしたことで、修道院送りになったオリアンナが逆恨みして、マチルダ嬢を呪殺する準備をしているのが分かったのだ。
だが同時にそのお陰で、前回のマチルダ嬢に対する呪殺未遂に関係していないのも分かったので、報復すべき相手ではない事が分かってしまった。
「皇太子殿下、オリアンナ嬢の呪殺には十分な対策を取っております。
オリアンナ嬢に呪殺を行わせて返した方が絶望感を与えられます。
何よりマチルダ嬢に嫌われる心配がなくなります。
殿下が何よりも気にかけておられるのはその事ではありませんか。
先制で呪殺を行えばマチルダ嬢に嫌われてしまうかもしれません」
密偵は決死の思いで言い難い事を口にした。
今では皇太子宮に仕える者全員がマチルダ嬢の清廉潔白な性格を知っていた。
同時に皇太子殿下がマチルダ嬢を溺愛している事も知っていた。
だからこそマチルダ嬢の名前を出す事は諸刃の剣だった。
皇太子殿下を抑える事もあれば激怒させる事もある。
密偵は心から皇太子殿下を尊敬し忠誠を誓っていた。
皇太子殿下に幸せになって欲しいとも思っていた。
殿下がマチルダ嬢の害になる者を事前に取り除きたいと思っている事も知っていたが、同時にマチルダ嬢に嫌われたくないと思っている事も知っていた。
その前提で今回の提案をしたのだ。
感情を抑えようとガリガリと音がするほど奥歯を噛みしめる皇太子の前で、密偵は永遠とも思える不安な時間を過ごしていた。
あなたにおすすめの小説
妹に幼馴染の彼をとられて父に家を追放された「この家の真の当主は私です!」
佐藤 美奈
恋愛
母の温もりを失った冬の日、アリシア・フォン・ルクセンブルクは、まだ幼い心に深い悲しみを刻み付けていた。公爵家の嫡女として何不自由なく育ってきた彼女の日常は、母の死を境に音を立てて崩れ始めた。
父は、まるで悲しみを振り払うかのように、すぐに新しい妻を迎え入れた。その女性とその娘ローラが、ルクセンブルク公爵邸に足を踏み入れた日から、アリシアの運命は暗転する。
再婚相手とその娘ローラが公爵邸に住むようになり、父は実の娘であるアリシアに対して冷淡になった。継母とその娘ローラは、アリシアに対して日常的にそっけない態度をとっていた。さらに、ローラの策略によって、アリシアは婚約者である幼馴染のオリバーに婚約破棄されてしまう。
そして最終的に、父からも怒られ家を追い出されてしまうという非常に辛い状況に置かれてしまった。
聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日
佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」
「相手はフローラお姉様ですよね?」
「その通りだ」
「わかりました。今までありがとう」
公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。
アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。
三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。
信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった――
閲覧注意
偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~
日之影ソラ
恋愛
【小説家になろうにて先行公開中!】
https://ncode.syosetu.com/n9071il/
異世界で村娘に転生したイリアスには、聖女の力が宿っていた。本来スローレン公爵家に生まれるはずの聖女が一般人から生まれた事実を隠すべく、八歳の頃にスローレン公爵家に養子として迎え入れられるイリアス。
貴族としての振る舞い方や作法、聖女の在り方をみっちり教育され、家の人間や王族から厳しい目で見られ大変な日々を送る。そんなある日、事件は起こった。
イリアスと見た目はそっくり、聖女の力?も使えるもう一人のイリアスが現れ、自分こそが本物のイリアスだと主張し、婚約者の王子ですら彼女の味方をする。
このままじゃ聖女の地位が奪われてしまう。何とかして取り戻そう……ん?
別にいっか!
聖女じゃないなら自由に生きさせてもらいますね!
重圧、パワハラから解放された聖女の第二の人生がスタートする!!
【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います
黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。
レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。
邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。
しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。
章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。
どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。
表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。
「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった
歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。
病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も——
全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。
十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。
「もう用済みだ、出ていけ」
フィーネは静かに屋敷を去った。
それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。
「前のお嬢様を返してください」
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!
真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。
よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!
長くなって来たので長編に変更しました。