最優秀な双子の妹に婚約者を奪われました。

克全

文字の大きさ
22 / 48
第二章

第22話:失踪

しおりを挟む
 フランドル王国の王都に多くの偵察が入り込んでいた。
 サーニン皇太子直属の密偵だけでなく、各国の偵察が入っていた。
 ルーサン皇国には多くの派閥があり、内部で権力闘争をしているのは間違いない。
 だが内部の権力闘争は別にして、皇国の面目は保たなければいけない。
 皇太子が顔を斬られて何も報復しないのでは皇国の面目は丸潰れだ。

 ロバート王太子と側近達は処刑された事になっている。
 上は公爵家から下は王家直属の騎士家まで、全ての貴族家と多くの士族家が皇国に忠誠を誓いフランドル王国から離脱していた。
 ディグビー王家などの縁戚からの嘆願もあった。
 だから滅亡同然のフランドル王家はわずかな領地と共に存続を許された。

 許されはしたが、ロバート王太子の遺体は影武者で密かに生かされているという噂があり、もしそれが本当ならが皇国が愚弄されたことになる。
 徹底的に事の真相を調べなければいけない状態だった。
 そんな状態なのに、事件の当事者の一人であるマチルダ嬢が呪殺されかけたのだ。
 皇国が国の面目にかけて真実を調べるのは当然だったし、とばっちりを恐れるフランドル王家の縁戚が密偵を送るのも当然だった。
 
「大使閣下、やはりおかしいです。
 犯罪者ギルドがやったにしては痕跡がなさ過ぎます。
 いえ、犯罪者ギルドも皇国を恐れて積極的に協力しました。
 それでも犯人が分からないなんて明らかに異常事態です。
 我らと犯罪所ギルドが総力をあげて調べても分からないなど普通ではありません」

 皇国が派遣した偵察隊の頭が、フランドル王国に派遣されている大使に現状を報告しているが、頭はとても焦っていた。
 沈着冷静に探索しなければいけない偵察隊の頭が、いや、時には冷酷な命令すら下してきた頭が、何時になく焦って平静さを欠いていた。

「おちつけ、探索のプロであるお前が冷静さを欠いてどうする。
 そんな事では原因究明などできんぞ」

 事の重大さに気がついていない大使が頭をなだめようとした。
 こんな所に権力闘争の弊害があった。
 重要な国に派遣されている大使が、能力ではなく派閥の力学で選ばれてしまっていて、現場の苦労も切迫感も危機感も理解していなかった。
 現状にあわない上っ面だけの常識論を口にしていた。

「大使閣下は現状を全く理解されていません。
 事の真相を確かめようとした裏社会のプロが理由もなく失踪しているのです。
 私の配下ももう幾人もいなくなっているのです。
 私もいつ消されるか分からないのですよ。
 大使閣下も少しは真剣に動いてください。
 このままでは侯爵閣下の立場まで悪くなってしまいますぞ」

 頭は大使の危機感のなさに怒りを抑えきれなくなってしまった。
 派閥による弊害が我慢できなくなってしまった。
 大使の怠惰を指摘して、派閥の領袖に迷惑をかけるぞと脅すような事まで口にしてしまった事で、現場での派閥間闘争を引き起こしてしまった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

嘘吐きは悪役聖女のはじまり ~婚約破棄された私はざまぁで人生逆転します~

上下左右
恋愛
「クラリスよ。貴様のような嘘吐き聖女と結婚することはできない。婚約は破棄させてもらうぞ!」 男爵令嬢マリアの嘘により、第二王子ハラルドとの婚約を破棄された私! 正直者の聖女として生きてきたのに、こんな目に遭うなんて……嘘の恐ろしさを私は知るのでした。 絶望して涙を流す私の前に姿を現したのは第一王子ケインでした。彼は嘘吐き王子として悪名高い男でしたが、なぜだか私のことを溺愛していました。 そんな彼が私の婚約破棄を許せるはずもなく、ハラルドへの復讐を提案します。 「僕はいつだって君の味方だ。さぁ、嘘の力で復讐しよう!」 正直者は救われない。現実を知った聖女の進むべき道とは…… 本作は前編・後編の二部構成の小説になります。サクッと読み終わりたい方は是非読んでみてください!!

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

神龍の巫女 ~聖女としてがんばってた私が突然、追放されました~ 嫌がらせでリストラ → でも隣国でステキな王子様と出会ったんだ

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
恋愛
聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアは、しかしある日突然、公爵令嬢バーバラの嫌がらせでリストラされてしまう。 さらに国まで追放されたクレアは、失意の中、隣国ブリスタニア王国へと旅立った。 旅の途中で魔獣キングウルフに襲われたクレアは、助けに入った第3王子ライオネル・ブリスタニアと運命的な出会いを果たす。 「ふぇぇ!? わたしこれからどうなっちゃうの!?」

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。 しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。 その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。 一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。

ムカつく悪役令嬢の姉を無視していたら、いつの間にか私が聖女になっていました。

冬吹せいら
恋愛
侯爵令嬢のリリナ・アルシアルには、二歳上の姉、ルルエがいた。 ルルエはことあるごとに妹のリリナにちょっかいをかけている。しかし、ルルエが十歳、リリナが八歳になったある日、ルルエの罠により、酷い怪我を負わされたリリナは、ルルエのことを完全に無視することにした。 そして迎えた、リリナの十四歳の誕生日。 長女でありながら、最低級の適性を授かった、姉のルルエとは違い、聖女を授かったリリナは……。

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

処理中です...