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第二章

第24話:癒しと報復

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「今日はどんな気分だい、マチルダ嬢。
 どこか苦しい所はないかい。
 あれば我慢することも隠すこともなく話すんだよ」

「はい、分かっています。
 これ以上心配をおかけしないようにします。
 だから嘘偽りは申しません。
 大丈夫ですよ、何も問題ありません。
 日々楽になっています」

 サーニン皇太子はとても幸せだった。
 他に換えがたい大切な時間だった。
 皇国の陰湿で醜い権力闘争に苦闘する皇太子のオアシスだった。
 マチルダ嬢とお茶を供にして軽く話すだけで心身が癒される。
 もうマチルダ嬢なしには生きられない気分だった。

「そうだ、マチルダ嬢、今日は少し悪い噂を聞いたのだ。
 呪術の影響の残るマチルダ嬢に話すべきかどうか、少々迷った。
 だが何も知らないうちに最悪の状況になってはいけないので話すことにした」

 皇太子はかねてから考えていた事を実行することにした。
 もう十分な準備が整っていた。
 色々調べたが、処分する方がマチルダ嬢のためだと確信した。

「いったい何が起こったと言うのですか、皇太子殿下」

「それがな、マチルダ嬢の母親であるモーラ夫人の事だ。
 どうやらマチルダ嬢を狙った者がモーラ夫人も狙っているようなのだ。
 ファルド公爵家の皇都邸を伺う者がいる。
 マチルダ嬢と同じように呪殺を仕掛けようとした形跡もある。
 私もできるだけ警備を厳重にするように命じているのだが、私の事を嫌っている者達のせいで満足な警備ができそうにない。
 申し訳ないのだが、このままではモーラ夫人の命を保証しかねる。
 そこで領地に戻る事をすすめた。
 領地に戻ればファルド公爵家自身の力で身を護れるだろう。
 両親が皇都を離れるのは寂しだろうが、ここは我慢してくれ」

 皇太子の嘘だった。
 モーラ夫人の命を狙っているのは敵ではない。
 皇太子がモーラ夫人を殺そうとしていた。
 皇太子は許す事ができなかったのだ。
 実の娘であるマチルダ嬢の呪殺に使う品を呪術士に渡したモーラ夫人を。

 だが別に疑問には思わなかった。
 自分の子供であろうと何の興味も持たない親など王侯貴族には数多くいる。
 自分の利益の為に子供を道具のように扱う親も数多くいる。
 自分の子供を敵として眉ひとつ動かさずに殺す親も少なくない。
 自分の子供を好き嫌いで差別することは普通の事なのだ。

 皇太子が気にしたのはマチルダ嬢の事だけだった。
 モーラ夫人はマチルダ嬢を平気で殺そうとしているが、マチルダ嬢が同じように平気でモーラ夫人を殺せるわけがない。
 モーラ夫人が自分を呪殺しようとしたと知ったとても殺せないだろう。
 それはオリアンナの助命を願った事でも明らかだった。

 だからマチルダ嬢には内緒でモーラ夫人を殺そうとしていた。
 モーラ夫人殺害情報を行き成り知るとマチルダ嬢に心的負担になると考えて、前もって命を狙われていると言う情報を教えていた。
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