最優秀な双子の妹に婚約者を奪われました。

克全

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第二章

第26話:手違い

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「申し訳ありません、皇太子殿下。
 全て私の油断が産んだミスです」

 密偵は地に頭をこすりつけんばかりに謝っていた。

「気にするな、ちゃんと暗殺は成功したんだ。
 隠蔽が少なかったのは、時が待てなかった私の所為でもある。
 モーラが領地に戻りまで待てばこんな事にはならなかったのだ。
 だからもう気にするな。
 それに痕跡を辿られたわけでもないのだから」

 皇太子にそう慰められても密偵の心は一向に晴れなかった。
 そもそも皇太子殿下の考えに欠けた所があるのならば、それを指摘して皇太子殿下が失敗しないようにするのが家臣の務めだ。
 皇太子殿下は諫言を聞き入れられないような愚かな方ではないのだ。
 いや、愚かな主君であろうと忠臣なら自分自身で依頼を遅らせるべきだ。
 その両方ができていなかった事に、密偵は心から恥じていた。

「いえ、何時誰がどのような方法で調べるか分かりません。
 今後は私が御前に参るのは控えた方がいいと思われます。
 他の密偵を私の所に送られるべきです。
 本当ならば私が死んで一切の禍根を断つべきなのですが、尊大な事を申すようで恥ずかしいのですが、今の殿下にはまだ私の力が必要だと思われますので、今しばらく仕えさせてください」

 この言葉は密偵の自負だった。
 いや、冷静に判断した上での言葉だった。
 まだ皇太子でしかない殿下には独自の戦力が限られていた。
 外交と軍事で得られた信頼によって表の家臣はある程度はいる。
 だが裏の家臣、汚れ仕事をしてくれる家臣は限られていた。
 皇太子殿下の名誉に傷をつけないためには、自分が必要だと密偵は思っていた。

「その通りだ。
 お前がいてくえなければ私は目も耳も失ったも同然だ。
 だからこれまで通り仕えてくれ。
 直接報告を受けなければ微妙な心の機微が分からなくなる。
 どれほど信頼できる家臣であろうと、間を挟めば齟齬が起きて失敗する。
 それは今回の件でも明らかではないか。
 その事の方が今回の痕跡を辿られるよりもよほど心配だ。
 だからこれまで通り直接会いに来てくれ」

「有難き幸せにございます。
 もう二度と同じ過ちを起こさないようにいたします」

 密偵は心から感動していた。
 世の中の裏を生きてきた自分をここまで信用してもらっているのだ。
 その信用に応えなくて何が義賊だ。
 そう思い改めて命懸けで仕えると心の中で誓っていた。

「うむ、これまで通り頼むぞ。
 私はこれからマチルダ嬢にモーラが殺されたと報告してくる。
 モーラは表向き山賊の襲撃を受けて死んだことになっているのだな。
 ファルド公爵には擦り傷ひとつないのだな」

「はい、それは間違いございません」
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