27 / 48
第二章
第27話:凶報
しおりを挟む
「マチルダ嬢、気を確かに持って聞いて欲しい。
とても悪い知らせが届いてしまった。
もし体調が悪いのなら後日伝えたい。
どうだ、聞く事ができるかい」
覚悟を決めて暗殺を命じたサーニン皇太子だったが、マチルダ嬢を前にしてモーラが死んだことを伝えるかどうか迷ってしまった。
殺すのはかまわない、いや、これ以上マチルダ嬢に危害を加えさせない為には、できるだけ早く殺さなければいけなかった。
だがそれをマチルダ嬢に伝えて心を傷つけるのを恐れてしまった。
「大丈夫です、皇太子殿下。
もう大体の事は想像できています。
父上と母上の安否ですね。
この前お話を聞いた時からある程度の覚悟はしていました」
マチルダ嬢は以外と落ち着いていた。
内心はともかく表面上は落ち着いていた。
だが皇太子にはマチルダ嬢の本心が伝わっていた。
魑魅魍魎が蠢く皇国の社交界で生きてきた皇太子には、人の心を読む力が備わっており、マチルダ嬢の哀しみが手に取るように分かってしまった。
こうなる事は予測できた事だった。
予測した上で覚悟をして皇太子は暗殺を命じた。
なのにもかかわらず予測していた時以上に激しい心の痛みを皇太子は感じていた。
皇太子はまだこんな痛みを感じられる自分に驚いていた。
もう自分は心が摩耗していると思っていたから。
だが自分にもマチルダ嬢に関する事だけは純情な気持ちが残っていると分かり、不思議な喜びが湧きあがっていた。
「そうか、分かった、だったら言わせてもらおう。
とても残念なことなのだが、モーラ夫人が殺された。
やったのは山賊のようだ。
不幸中の幸いと言っては不謹慎なのだが、ファルド公爵は無事だった。
モーラ夫人は運悪く流れ矢に当たってしまったそうだ」
「そうなのですか、父上は御無事でしたか。
母上は可愛そうですが、父上が御無事ならファルド公爵は大丈夫です。
ただこれが私の所為で起こった事なら、母上には申し訳ないことをしました。
皇太子殿下、その辺はどうなのですか。
本当に山賊の仕業なのでしょうか。
私が皇太子殿下の告白を受け入れた影響なのでしょうか」
マチルダ嬢はバカでも薄情者でも卑怯者でもなかった。
謀略の可能性が分からないようなバカではないし、分かっていて心を痛めない薄情者でもなければ、分からないフリをして罪悪感から逃れる卑怯者でもなかった。
皇太子は自分の汚さを自覚しつつ嘘をついた。
「そうだね、その可能性が全くないわけではない。
マチルダ嬢に私との婚約を辞退させるために、警告としてモーラ夫人を殺した可能性もあれば、マチルダ嬢の力を削ぐためにファルド公爵を狙った可能性もある。
その辺をちゃんと調べて対策を立てるよ」
とても悪い知らせが届いてしまった。
もし体調が悪いのなら後日伝えたい。
どうだ、聞く事ができるかい」
覚悟を決めて暗殺を命じたサーニン皇太子だったが、マチルダ嬢を前にしてモーラが死んだことを伝えるかどうか迷ってしまった。
殺すのはかまわない、いや、これ以上マチルダ嬢に危害を加えさせない為には、できるだけ早く殺さなければいけなかった。
だがそれをマチルダ嬢に伝えて心を傷つけるのを恐れてしまった。
「大丈夫です、皇太子殿下。
もう大体の事は想像できています。
父上と母上の安否ですね。
この前お話を聞いた時からある程度の覚悟はしていました」
マチルダ嬢は以外と落ち着いていた。
内心はともかく表面上は落ち着いていた。
だが皇太子にはマチルダ嬢の本心が伝わっていた。
魑魅魍魎が蠢く皇国の社交界で生きてきた皇太子には、人の心を読む力が備わっており、マチルダ嬢の哀しみが手に取るように分かってしまった。
こうなる事は予測できた事だった。
予測した上で覚悟をして皇太子は暗殺を命じた。
なのにもかかわらず予測していた時以上に激しい心の痛みを皇太子は感じていた。
皇太子はまだこんな痛みを感じられる自分に驚いていた。
もう自分は心が摩耗していると思っていたから。
だが自分にもマチルダ嬢に関する事だけは純情な気持ちが残っていると分かり、不思議な喜びが湧きあがっていた。
「そうか、分かった、だったら言わせてもらおう。
とても残念なことなのだが、モーラ夫人が殺された。
やったのは山賊のようだ。
不幸中の幸いと言っては不謹慎なのだが、ファルド公爵は無事だった。
モーラ夫人は運悪く流れ矢に当たってしまったそうだ」
「そうなのですか、父上は御無事でしたか。
母上は可愛そうですが、父上が御無事ならファルド公爵は大丈夫です。
ただこれが私の所為で起こった事なら、母上には申し訳ないことをしました。
皇太子殿下、その辺はどうなのですか。
本当に山賊の仕業なのでしょうか。
私が皇太子殿下の告白を受け入れた影響なのでしょうか」
マチルダ嬢はバカでも薄情者でも卑怯者でもなかった。
謀略の可能性が分からないようなバカではないし、分かっていて心を痛めない薄情者でもなければ、分からないフリをして罪悪感から逃れる卑怯者でもなかった。
皇太子は自分の汚さを自覚しつつ嘘をついた。
「そうだね、その可能性が全くないわけではない。
マチルダ嬢に私との婚約を辞退させるために、警告としてモーラ夫人を殺した可能性もあれば、マチルダ嬢の力を削ぐためにファルド公爵を狙った可能性もある。
その辺をちゃんと調べて対策を立てるよ」
11
あなたにおすすめの小説
嘘吐きは悪役聖女のはじまり ~婚約破棄された私はざまぁで人生逆転します~
上下左右
恋愛
「クラリスよ。貴様のような嘘吐き聖女と結婚することはできない。婚約は破棄させてもらうぞ!」
男爵令嬢マリアの嘘により、第二王子ハラルドとの婚約を破棄された私!
正直者の聖女として生きてきたのに、こんな目に遭うなんて……嘘の恐ろしさを私は知るのでした。
絶望して涙を流す私の前に姿を現したのは第一王子ケインでした。彼は嘘吐き王子として悪名高い男でしたが、なぜだか私のことを溺愛していました。
そんな彼が私の婚約破棄を許せるはずもなく、ハラルドへの復讐を提案します。
「僕はいつだって君の味方だ。さぁ、嘘の力で復讐しよう!」
正直者は救われない。現実を知った聖女の進むべき道とは……
本作は前編・後編の二部構成の小説になります。サクッと読み終わりたい方は是非読んでみてください!!
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
ムカつく悪役令嬢の姉を無視していたら、いつの間にか私が聖女になっていました。
冬吹せいら
恋愛
侯爵令嬢のリリナ・アルシアルには、二歳上の姉、ルルエがいた。
ルルエはことあるごとに妹のリリナにちょっかいをかけている。しかし、ルルエが十歳、リリナが八歳になったある日、ルルエの罠により、酷い怪我を負わされたリリナは、ルルエのことを完全に無視することにした。
そして迎えた、リリナの十四歳の誕生日。
長女でありながら、最低級の適性を授かった、姉のルルエとは違い、聖女を授かったリリナは……。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。
藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。
伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。
セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。
そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに……
婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。
そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
【完結】婚約破棄され追放された聖女 ~帰ってきてくれ? 帰るわけないでしょう~
つぼみ
恋愛
ノルデン王国で毎日まじめに聖女の仕事をおこなっていたソフィア。
ソフィアは婚約者でこの国の王子であるテーラルにいじめられていた。
テーラルは最愛の人カミラと婚約したいと考えソフィアに婚約破棄をつげる。
ソフィアは仕事に専念できると喜んだが、テーラルに聖女などいらないといわれ、追放されてしまう。
その後、ソフィアは隣国シニストラ王国に行く。
そのころ、聖女の消えたノルデン王国は大変なことになっており……。
*婚約破棄される聖女もの初挑戦です。
*もうほとんど書き終わっているので毎日投稿します。
「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?
今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。
しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。
その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。
一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる