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第二章
第31話:権謀術数
サーニン皇太子は決断を迫られていた。
確たる証拠はないが、状況証拠は最悪の事態を示していた。
皇帝陛下にも皇后殿下にも知らせたが、まだ返事は来ていない。
だが聞かなくても答えは分かっていた。
「敵が尻尾を出すまで待て」と言われるに違いなかった。
確かに確実な証拠もなしに一度処罰したフランドル王家を攻める事はできない。
だが密偵が集めてくれた情報からは一刻の猶予もない事が分かる。
フランドル王国に残された唯一の都市である王都から多くの女性が失踪している。
その数は既に千近くになっており、噂も広まり民が逃げ出してしまっている。
それなのにフランドル王家は何の手も打っていない。
どう考えても王家も承知の上で女性を攫っているのだ。
「禁呪を使う可能性があるのだな」
「はい、邪神を奉じる一団が係わっている可能性があります」
サーニン皇太子の言葉に密偵が答えた。
大陸を股に掛ける義賊団の頭が全力で調べた情報だ。
間違いがあるはずがない。
禁呪を使った攻撃がマチルダ嬢に放たれる。
以前放たれた呪殺術とは比較にならない殺傷力だろう。
強化したとはいえ皇太子宮の防御で跳ね返せる保証はない。
「私が軍を率いて討伐できればいいのだが、そんな事をしたら弟を担ぐ連中が私から皇位継承権を奪おうとするだろう。
もし皇位継承権を失ったら、ケインとの約束を果たせなくなる。
皇国の政治を正して飢える民をなくすという約束が」
皇太子は悔しそうに吐き捨てた。
皇太子は人に負担をかけず自分で責任をで何でもやりたい性格なのだ。
以前ならば少々の危険は覚悟の上で強引に行動していた。
それができるだけの軍事力を手に入れていた。
周辺国との関係も友好関係を築いていた。
だがマチルダ嬢に恋してから慎重になってしまっていた。
そんな皇太子の若さを、老練なケインは微笑ましく感じていた。
「大丈夫でございますよ、皇太子殿下。
何も私の手の者を使う必要もありません。
軍資金さえ出していただければ、汚れ仕事を引き受ける連中など掃いて捨てるほどいますから、悪人同士争わせて潰し合わせると思えばいいんですよ」
皇太子の苦悩を少しでも和らげようと、密偵はこともなげに軽く言い捨てた。
そして密偵の言う通りだった。
攫われた女達を救うためと言って、義賊団を投入すれば皇太子の貴重な戦力を擦り減らしてしまうが、暗殺ギルドに依頼すれば金だけで済む。
軍事と外交で力を得た皇太子には莫大な軍資金があるのだ。
「それに、王城で働く使用人を巻き込むことを恐れなければ、凶盗団にフランドル王城の見取り図を流し、莫大な金銀財宝があるという噂を流せばいいのです。
私の盗賊団がフランドル王城を狙っているという噂も流せば、私の顔を潰したい凶盗団が先を争ってフランドル王城に殺到する事でしょう」
「いいのか、本当にそれでいいのか。
それではケインの面目が潰れるのではないのか」
「構いません。
いえ、むしろ凶悪な連中を同士討ちで潰せて清々します」
「分かった、だったら凶盗団を躍らせてくれ」
確たる証拠はないが、状況証拠は最悪の事態を示していた。
皇帝陛下にも皇后殿下にも知らせたが、まだ返事は来ていない。
だが聞かなくても答えは分かっていた。
「敵が尻尾を出すまで待て」と言われるに違いなかった。
確かに確実な証拠もなしに一度処罰したフランドル王家を攻める事はできない。
だが密偵が集めてくれた情報からは一刻の猶予もない事が分かる。
フランドル王国に残された唯一の都市である王都から多くの女性が失踪している。
その数は既に千近くになっており、噂も広まり民が逃げ出してしまっている。
それなのにフランドル王家は何の手も打っていない。
どう考えても王家も承知の上で女性を攫っているのだ。
「禁呪を使う可能性があるのだな」
「はい、邪神を奉じる一団が係わっている可能性があります」
サーニン皇太子の言葉に密偵が答えた。
大陸を股に掛ける義賊団の頭が全力で調べた情報だ。
間違いがあるはずがない。
禁呪を使った攻撃がマチルダ嬢に放たれる。
以前放たれた呪殺術とは比較にならない殺傷力だろう。
強化したとはいえ皇太子宮の防御で跳ね返せる保証はない。
「私が軍を率いて討伐できればいいのだが、そんな事をしたら弟を担ぐ連中が私から皇位継承権を奪おうとするだろう。
もし皇位継承権を失ったら、ケインとの約束を果たせなくなる。
皇国の政治を正して飢える民をなくすという約束が」
皇太子は悔しそうに吐き捨てた。
皇太子は人に負担をかけず自分で責任をで何でもやりたい性格なのだ。
以前ならば少々の危険は覚悟の上で強引に行動していた。
それができるだけの軍事力を手に入れていた。
周辺国との関係も友好関係を築いていた。
だがマチルダ嬢に恋してから慎重になってしまっていた。
そんな皇太子の若さを、老練なケインは微笑ましく感じていた。
「大丈夫でございますよ、皇太子殿下。
何も私の手の者を使う必要もありません。
軍資金さえ出していただければ、汚れ仕事を引き受ける連中など掃いて捨てるほどいますから、悪人同士争わせて潰し合わせると思えばいいんですよ」
皇太子の苦悩を少しでも和らげようと、密偵はこともなげに軽く言い捨てた。
そして密偵の言う通りだった。
攫われた女達を救うためと言って、義賊団を投入すれば皇太子の貴重な戦力を擦り減らしてしまうが、暗殺ギルドに依頼すれば金だけで済む。
軍事と外交で力を得た皇太子には莫大な軍資金があるのだ。
「それに、王城で働く使用人を巻き込むことを恐れなければ、凶盗団にフランドル王城の見取り図を流し、莫大な金銀財宝があるという噂を流せばいいのです。
私の盗賊団がフランドル王城を狙っているという噂も流せば、私の顔を潰したい凶盗団が先を争ってフランドル王城に殺到する事でしょう」
「いいのか、本当にそれでいいのか。
それではケインの面目が潰れるのではないのか」
「構いません。
いえ、むしろ凶悪な連中を同士討ちで潰せて清々します」
「分かった、だったら凶盗団を躍らせてくれ」
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