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第二章

第40話:命懸け

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「呪術師団長殿、皇太子殿下の眼を治す方法はありませんか。
 どのような犠牲を強いる呪術でも構いません。
 術士の命を代償とする呪術でも構いません。
 方法があるのなら教えていただけませんか」

 マチルダ嬢は本気だった。
 本気で命を代償にしてもいいと考えていた。
 自分の命を代償にして皇太子殿下の失明を治せるのなら本望だった。

「どうやら本気のようですね。
 方法がないわけではありません。
 それに命まで代償にするわけではありません。
 ただ失明を治すためには自分の視力を代償にする必要があります。
 マチルダ嬢にはその覚悟があるようですね」

 ルーサン皇国の呪術師団長はマチルダ嬢の事を聞いていた。
 皇太子が無理を押し通して婚約した外国の令嬢だ。
 皇国に仕える者なら興味を持って情報収集するのは当然だった。
 情報を収集して事情を知っているからといって、マチルダ嬢が自分の命や視力を代償にして皇太子殿下の治療をするのが当然とは、全く考えていなかった。

 長年ルーサン皇国に仕えてきた呪術師団長だからこそ、皇族に取り入る者の多くが品性下劣な邪欲に満ちた屑だと言う現実を見てきた。
 噂ではマチルダ嬢は淑やかで私欲のない令嬢だとは聞いてはいたし、遠征中の動向も邪悪なモノを感じていなかったが、それが仮面ではないとは言い切れない。
 だが今こうして決意に満ちた目を見れば分かる、マチルダ嬢の高潔な魂が。

 しかし全く何も問題がないわけではなかった。
 当然だが情報を集めていた呪術師団長は知っていた。
 サーニン皇太子がマチルダ嬢を溺愛している事を。
 マチルダ嬢が失明するような呪術を教えたら、サーニン皇太子に逆恨みされてしまい、どのような罰を受けるか分からない事を。

「ただその呪術をお教えする訳にはいきません。
 何故ならその呪術は禁呪なのです。
 術士の命や身体の一部を代償とするような呪術は、皇国の法で禁止されています。
 権力者が自分や家族の為に術士や民を生贄にするような術は、魔術であろうと呪術であろうと禁止されているのです。
 皇太子殿下もそのような事は望んでおられないでしょう。
 だからマチルダ嬢のお教えする訳にはいかないのです」

 マチルダ嬢はこれ以上呪術師団長に頼んでも無理だと理解した。
 だからと言って皇太子殿下の失明を治す事を諦めた訳ではなかった。
 呪術師団長が教えてくれないのなら、他に教えてくれる人を探せばいい。
 探しても誰もいなかったら、自分で書物を調べて探し出せばいい。
 マチルダ嬢はそう考えたのだ。
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