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第二章

第42話:謀略

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 サーニン皇太子は修道院への攻撃を強行した。
 完全騎乗の騎士団だけで編制した強襲部隊を率いての攻撃だった。
 時間をおけば邪神教徒を取り逃がす恐れがあったからだ。
 だから傷病兵は占領したばかりのフランドル王国王都に残した。
 盗賊団などの犯罪者に占拠され悪用させるわけにはいかないからだ。
 徒士団や補給部隊は後から追いかけさせることにした。

「ケイン殿、皇太子殿下の失明を治すための禁呪を調べてください」

 マチルダ嬢が堂々とした態度で密偵のケインに訊ねた。
 皇太子から付けられた侍女や戦闘侍女のいる前で隠すことなく訊ねた。
 迷いがなかったからこそ堂々と質問できたのだ。
 侍女や戦闘侍女から皇太子に報告されても平気だった。
 皇太子から禁止されても止める気がなかったから堂々と質問できたのだ。

「皇太子殿下が禁止された事をお教えする事はできません」

 ケインは即答した。
 皇太子殿下に心酔しているケインにはマチルダ嬢の気持ちがよく分かっていた。
 だが同時に皇太子殿下のマチルダ嬢の対する想いも理解していた。
 若者の純粋な恋心を応援したい気持ちでいた。
 だから迷うことなく即答で断れた。

「ケイン殿、貴男に断られても私は諦めませんよ。
 どのような手段を使ってでも禁呪を調べて皇太子殿下を失明を治します。
 単なる時間の問題なのです。
 ですがその単なる時間の問題で殿下が廃嫡されてしまう可能性があるのです。
 だから貴男に早急に調べてもらいたいのです」

「マチルダ嬢のお気持ちは手に取るように分かります。
 私もこの身を犠牲にしてでも皇太子殿下の失明を治療したい思いです。
 ですがそのような事をすれば皇太子殿下の誇りを傷つけてしまいます。
 後々に民が犠牲になる事を恐れて、誰かが犠牲になって治した眼をえぐり出してしまわれるかもしれません。
 それが分かっているからこそ、誰も身を挺して治療しないのです」

 ケインの血を吐くような気持ちの籠った言葉だった。
 その言葉を聞いた侍女や戦闘侍女がすすり泣くほどだった。
 侍女や戦闘侍女の中にも、自分が生贄になっても皇太子殿下を治したい者がいた。
 食うや食わずの餓死寸前の生活から救い出された者もいる。
 貴族家や士族家の継承争いで殺されそうだったのを救われた者もいる。
 中には苦界から救ってもらった者もいるのだ。

「それは、私でもですか。
 私が命をかけて治した眼を、皇太子殿下がえぐり取られると思いますか。
 いえ、命までかける訳ではないのですよね。
 私が視力を失うだけなのですよね。
 視力を失った私を放り出して皇太子殿下は自分の目をえぐり出させるでしょうか。
 私のお世話をするために我慢してくださるのではありませんか」

 マチルダ嬢が生まれて初めて考えた謀略だった。
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