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第二章

第45話:快復呪術

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 修道院には深く広い地下室が作られていた。
 ダンジョンというほどではないが、王家の地下墓所や秘密基地等よりははるかに広く、地下三階まであった。
 そんな地下を精鋭騎士団やラルフ達守護騎士が進んでいた。

 彼らは内心忸怩たる思いだった。
 上級魔族に憑依されたオリアンナ嬢に楽々と戦列を突破されたことに、騎士として戦士としての誇りを傷つけられていた。
 後を追って斃したい気持ちが強かったが、できなかった。
 皇太子殿下から厳命されていたのだ。
 敵に突破された場合は名誉にかけて敵の首魁の首を取れと。

 彼らも王都の攻防で邪神教徒の遣り口は理解していた。
 魔族は邪神教徒の走狗でしかなく、操っている者は別にいるのだと。
 魔族を討ち取っても首魁に逃げられては全く意味がないのだと。
 だから彼らは歯を食いしばって地下を進んでいた。
 首魁に逃げられないように急いでいた。
 皇太子殿下の言った魔族が現れたら安全な場所に逃げるという言葉を信じて。
 側近や侍女達の命懸けで護るという覚悟を信じて。

 邪神教徒はとても強敵だった。
 魔族ほどではなかったが、人間離れした身体能力を持っていた。
 髪を振り乱して人の身体に喰いつく姿は歴戦の彼らすら怖気づきそうになる。
 それでも心身を叱咤激励して奥に進み続けた。
 魔術師や呪術師の支援を受けて、ギリギリの状況で戦い続けた。
 最初に邪神教徒の魔法陣を破壊しておかなかったら、歴戦の皇国軍であろうと簡単に撃退されていただろう。

 その頃地上ではオルガが死力尽くしてオリアンナと戦っていた。
 魔術師と呪術師の支援で極限まで身体能力を引き上げて戦っていた。
 力ではなく速さ、素早さが最大の武器であるオルガだからこそ戦えていた。
 相手を斃すのではなく、翻弄して時間稼ぎをする目的だったから戦えていた。
 だがオリアンナがオルガを無視したことで流れが変わってしまった。
 オリアンナの皇太子やマチルダに対する恨みと憎しみが、上級魔族の意識に作用してしまい、オルガを殺すよりも皇太子やマチルダを殺す事を優先してしまった。

 オリアンナは皇太子とマチルダの乗る馬車に襲い掛かった。
 御車台や後台の乗る護衛を無視して輓馬の脚を切り裂いた。
 八頭立ての輓馬のうち一頭が倒れて馬車が横転しそうになる。
 御者が必死で残った輓馬を操り横転を防ごうとする。
 オリアンナが再び輓馬を切り裂こうと馬車に近寄ってきた。

 そこに馬車に同乗していた戦闘侍女二人が馬車を飛び出して斬りかかった。
 同時に御者台と後台の護衛も馬車から飛んで斬りかかった。
 反対側の扉から皇太子とマチルダ嬢が飛び出した。
 マチルダ嬢の目は閉じられていたが、皇太子の目は真っ赤に充血しながらも怒りと決意に満ちていた。
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