異世界子ども食堂:通り魔に襲われた幼稚園児を助けようとして殺されたと思ったら異世界に居た。

克全

文字の大きさ
28 / 57
第1章

第25話:頭数狩り

しおりを挟む
「ちょっと遅くなりましたが、魔境で狩りをします。
 無理はしませんが、油断はしないでください」

 僕はそう言って200人の荷役を連れて東南魔境に行った。
 王都行政官が協力してくれたので、思っていたよりは早く行けた。
 親切な王都行政官は、家臣を派遣して商業ギルドに連絡してくれた。

 商業ギルドと連絡がついたので、エマとリナが王都行政官の屋敷に来られた。
 荷役たちに頼んで2日分のライ麦堅パンを買って来てもらえた。
 王都行政府に預けておく、僕が奪った物の目録を、交換して預ける事もできた。

 羊皮紙に書いた目録は、僕が昨晩書いた物と王都行政官の家臣が写した物だ。
 荷役が欲に負けないように、運ぶ品物を全部書き出していたのだ。
 それを現物と確認して写すだけだから短時間で済んだ。

 それでも夜明け前に魔境に入るはずだったのが昼前になってしまった。
 だから獲物を探す時間も往復する時間も限られている。
 日暮れ前までに王都に戻って商業ギルドに行くのなら、時間が足りない。

 普通なら狩りを諦めなければいけないのだが、運が良いのか悪いのか、東大城門に近い貧民街に寝泊まりできる事になっている。

 閉門までに王都に戻れなくても、狩った獲物を貧民街に置ける。
 氷魔術を使えば品質を落とすことなく保管できる。
 スキルに神運があるのだから当然なのかもしれないが、助かる。

「私たちが獲物を追い込んで来るわ」
「薬草よりも魔獣の方が高く買ってもらえるわ」

 エマとリナが魔境に入って直ぐにそう言って奥に走って行った。
 ずっと200人の荷役を雇う為には、獲物が必要だと思ったのかもしれない。
 無理をしなくても良いのだが、エマとリナのやる気をそぐのも悪いと思った。

 エマとリナが獲物を追い込んできてくれるまで、指弾で鳥を狩った。
 指笛を使って中小の鳥を誘いだして狩った。
 初めて試したが、びっくりするくらいたくさんの鳥が集まって来た。

「行ったわ!」
「任せたわ!」

 1時間ほど早足で魔境の奥に向かっていたら、エマとリナの声が聞こえた。
 荷役たちに無理をさせたくはなかったが、エマとリナの事も心配だった。
 
 ボオオオオオ、ボオオオオオ、ボオオオオオ、ボオオオオオ、ボオオオオオ

 この世界のダチョウがとんでもない勢いで走ってきた!
 エマとリナは、僕なんかよりもずっと経験豊富な猟師だった。
 僕が強いのは異神の加護があるからで、経験があるからではない。

 エマとリナは、前回遭遇して狩ったダチョウの居場所を知っていたのだ。
 はっきりとした居場所は分からなくても、ある程度予測できたのだ。
 だからこそ魔境に入って直ぐに探しに行ったのだ。

 前回19頭狩ったから80頭くらいに減っているはずのダチョウの群れ。
 200kgを越える大きな個体から順に狩る。
 僕とエマとリナが担ぐ5頭以外に50頭も狩れる!

「樹皮をはいでおいてくれ」

「「「「「はい!」」」」」

 僕のやり方を知っている荷役たちが急いで樹皮をはいでくれる。
 狩ったダチョウをしばるロープ代わりの樹皮をはいでくれる。
 担い棒は事前に作っておいたものがあるので、新しく斬り出す必要はない。

 前回と同じように、すごい勢いで走って来るダチョウの首を刎ねる。
 首を刎ねても走っているので、斬り口から血が噴き出て血抜きになる。

 完璧な血抜きができるので、それでなくても美味しいダチョウ肉が、他の誰が狩ったダチョウ肉よりも美味しくなる。

「大城門が閉まる前に王都に戻ります、急いでください」

「「「「「はい!」」」」」

 僕たちはできるだけ急いで王都に戻った。
 荷役たちが息が切れるくらい頑張って走ってくれた。
 重いダチョウを担ぎながら、大城門まで走ってくれた。

「気を付けろよ、高位貴族ほど汚いやり方をするぞ」

 顔見知りになった東大城門の当番兵が小声で警告してくれる。
 王都行政官の配下には良い人が多い、組織は上に立つ者しだいなのだな。

 異神眼を使って高貴族がやるかもしれない汚い手段を見てみた。
 異神眼を使うのを卑怯だと思ってしまうし、神々の介入で簡単に変わってしまう未来だけれど、僕たちの命には代えられない。

 将来やるかもしれない汚い手段は変わるかもしれないけれど、過去にやった汚い手段を確かめたら、何度も使った汚いやり口が分かる。
 その対処法を考えながら商業ギルドに向かった。

「大城門が閉められる前に急いで帰ってください。
 明日は夜明け1時間前に東大城門前に集まっていてください。
 200人とは言いません、貧民街を守る人以外何人来てくれてもいいです。
 女性や子供でも構いません、安全を最優先にして、来られるだけ来てください」

 僕はそう言って200人の荷役に帰ってもらった。
 2日分の日当が2万アル、商業ギルド手数料が4000アル。
 パン代は少し多めに現金で8000アル渡した。

「相変わらずショウさんの獲物は最高級品ばかりですね。
 これだけに肉質の良いダチョウを狩る人はショウさん以外見た事がありません」

「ありがとうございます、これからも高品質を保つように狩ります」

「55頭合計で6万9122アルになります。
 これでよろしければ買取させていただきます」

「はい、その金額でお願いします」

 今日は人数がとても多かったですが、魔境に入ってからダチョウを狩るまでの時間が少なかったので、集められた薬草は種類も量も少なかった。

 それに、王都の外、貧民街で寝起きするとなると、何があるか分からない。
 神様の加護がある僕は病気にならないと思うが、エマとリナが心配だ。
 なので、今日集めた薬草は全部貧民街の夜営地に運んでもらった。

 6万9122アルから日当と手数料とパン代をひいて3万7122アル。
 エマとリナと半分に分けると1万8561アルになります。
 前日までの手持ち金と合わせて338万4441アルです。

「すみません、もう暗くなってしまったので、ホテルまで行くのが怖いです。
 商業ギルドに泊まらせてもらっていいですか?」

 上品な受付嬢は家に帰ってしまったのだろう。
 夜は男性しか残らないのかもしれない、存在感のある年配の受付に聞いてみた。

「はい、どうぞお泊りください。
 商用で遅くなった会員さんや忙しくて帰れなかった職員が泊る仮眠室が有ります。
 案内させていただきますので、ついて来て下さい」

 僕とエマとリナは、存在感のある男性受付に居心地の良い仮眠室を教えてもらえたが、もちろん男性と女性で使う仮眠室は別々だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

この町ってなんなんだ!

朝山みどり
児童書・童話
山本航平は両親が仕事で海外へ行ってしまったので、義父の実家に預けられた。山間の古風な町、時代劇のセットのような家は航平はワクワクさせたが、航平はこの町の違和感の原因を探そうと調べ始める。

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

精霊の国に嫁いだら夫は泥でできた人形でした。

ひぽたま
児童書・童話
琥珀は虹の国の王女。 魔法使いの国の王太子、ディランに嫁ぐ船上、おいしそうな苺を一粒食べたとたんに両手をクマに変えられてしまった! 魔法使いの国の掟では、呪われた姫は王太子の妃になれないという。 呪いを解くために、十年間の牛の世話を命じられて――……! (「苺を食べただけなのに」改題しました)

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

ぼくの家族は…内緒だよ!!

まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。 それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。 そんなぼくの話、聞いてくれる? ☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。

処理中です...