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第一章
第5話:決闘
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メストン王国暦385年3月26日:アリギエーリ侯爵領・領境の砦
いよいよ私とアリギエーリ侯爵の決闘が始まります。
私の後ろには家臣の騎士団員達。
アリギエーリ侯爵の後ろにも、騎士団員と寄子達。
ですが、アリギエーリ侯爵の側近がいません。
ダンテ王子を誘惑した令嬢のいる、寄子貴族達の顔が見えません。
アリギエーリ侯爵が自分の名誉を守るために粛清したのでしょう。
ようやく自分が間違っていた事に気がついたようです。
自分のプライドを守るために、皆殺しにしたのでしょう。
まさかこの期に及んで匿ったり逃がしたりはしていないはずです。
ある意味アリギエーリ侯爵は小者なのでしょうね。
どうせならこれを好機ととらえて独立戦争を仕掛ければいいのに。
私に言われた事がよほどこたえたのでしょう。
アリギエーリ侯爵が一気に老け込みました。
昨日会った時より確実に20歳は歳を取ったようにみえます。
フルアーマープレートを着こんでいても分かるくらい身体が小さくなっています。
昨日のままでも楽勝でしたが、これでは勝負になりませんね。
でも、手は抜きませんよ。
「……全ては俺の不明が元凶だった。
言い訳だと思われるのも分かっている」
「分かっているのなら、何も言うべきではありませんね。
貴男が何か言えば言うほど、ご先祖様の名誉まで地に落ちますよ」
「くっ、そんな事はエレナ嬢に言われなくても分かっている!
それでも、言わない訳にはいかないのだ」
「どうせ、証人となる者達を皆殺しにしてしまったのでしょう?
卑怯下劣すぎて、まともに相手をする気にもなりません。
それでも、鼻が曲がるほど性根の腐った相手でも、決闘しなければいけなんて、私は何て不幸なのでしょう」
こんな嫌味な言い方は好きではないのですが、これくらい言っておかないと、アリギエーリ侯爵と次代の当主を抑え込めません。
軍事と外交のアリギエーリ侯爵家とは思えないくらい、脳筋になってしまいましたから、身体と心にマリーニ侯爵家の恐ろしさを叩き込まなければいけません。
頭に理解させる事も、記憶として残させる事も無理でしょう。
「くっ、エレナ嬢の言う通りだ。
ダンテ王子を誘惑した家の連中は皆殺しにした。
俺をレイヴンズワース王国に寝返らせようとしていた側近も殺した」
「トカゲの尻尾切りですか?
ますます卑怯で下劣な本性が表に出てきましたね」
「……もう言い訳はしない。
言葉ではなく剣で証明する。
手加減せずに叩きのめしたうえで、賠償について話し合わせてもらう」
「随分と大きく出られましたわね。
私が売国度に負ける訳がないでしょう」
「うぉおおおおお!」
アリギエーリ侯爵が剣を大上段に振り上げて突っ込んできます。
私を女だと思って舐め切っています。
これ以上私の舌鋒に耐えられないと思ったのでしょう。
それにしても、互いに貴族として軍馬に跨りランスを持っているのです。
そのまま馬上槍試合に持ち込めばいいモノを、ランスを捨てて剣に持ちかえたのは、私を無傷で捕らえて自分の自尊心を守る気なのでしょうか?
「笑止!」
兜もかぶり直さずに戦いを始めた馬鹿を教育してあげましょう。
対峙している私の実力すら見抜けないなんて、未熟にも程があります。
自分の心身を鍛えて強くなったのではなく、持って生まれた剛力だけを強くして、力まかせで勝ってきただけの最強称号なのでしょう。
実戦で、命を賭けた戦いをした事がないのかもしれません。
汚いと言われようと、どのような卑怯な手段を使おうと、生き残って家族の元に帰るという、強烈な想いを持った敵と戦った事がないのでしょう。
出世のために侯爵に勝たせて褒め称えるような、阿諛追従の輩に囲まれていては、本当に戦士には成れないのです。
グワッシャーン!
「いつまで寝ているのですか?
それでも軍事と外交のアリギエーリ侯爵家当主ですか!
さっさと起きてかかって来なさい!」
何が起こったのか分かっていないようです。
やはり、死線を潜り抜けるような戦いは、1度もした事がないのでしょう。
「手加減して脚だけを狙ってあげました。
私がその気なら、喉を突いて殺す事もできたのですよ。
そんな腕では、私のお兄様達どころか、分家の女子供にも勝てませんよ!」
「ウォオオオオオ!」
よほど恥ずかしかったのでしょう。
右大腿骨を粉砕されたにもかかわらず、大声をあげて立ち上がろうとしました。
ですが、右大腿部を粉砕骨折していては立つ事などできません。
無様に何度もひっくり返り、地面を這いずり回るだけです。
「見るに耐えませんね!
もう諦めて降参されてはいかがですか?
どうしても戦いたいと言われるのなら、騎士の情けです。
介添の騎士に助けてもらう事を許してあげます」
「あああああ!」
頭の悪さは認められても、騎士として弱い事は認められないのでしょう。
支えようとした介添騎士を振り払い、這うようにして馬に跨りました。
馬は誰かに調教してもらったのでしょうか?
無様で身勝手な主が背に跨るまで、じっと我慢しています。
賢い子ですね、私がもらってあげましょう。
「死ね!」
先ほどまでは私を捕らえる事でちっぽけな自尊心を守る気だったのでしょうが、今は私を殺す事で自分の弱さから目を背けようとしています。
本当に情けない男です。
こんな男に大切な国境の護りを任せなければいけないとは、哀しすぎます。
グワッシャーン!
今度は左肩関節を粉砕してあげました。
普通の魔術治療では絶対に元通りにはなりません。
整復する事ができなくては、ケガは治っても関節としては意味を成しません。
骨は繋がっても、バラバラになった骨全ての間に骨質が再生して癒着してしまい、肩関節がピクリとも動かなくなるのです。
どうしても元通りにしたいのなら、左胸部から左腕を斬り落とし、普通では絶対に手に入らない最高級回復薬を飲むしかありません。
そのような回復薬が作れるのは、南北両大陸を併せても私だけです。
「これでお終いですか?
何と情けない。
わざと負けてくれる家臣や寄子だけを相手をしていたのでしょうね。
それで王国最強を名乗るなんて、恥かしくないのですか?」
「ワァアアアアア!」
アリギエーリ侯爵が半狂乱になっています。
唯一のプライドも粉々に砕かれたんですから、仕方がない事でしょう。
ですが、ここで止める訳にはいきません。
もう2度とこのような当主が国境を守る事になってはいけないのです。
もう3年、いえ、2年遅かったら、アリギエーリ侯爵は完全に側近の言い成りになっていたでしょう。
「まだやるというのなら相手になってあげます。
自分が如何に愚かで傲慢だったか思い知りなさい!」
いよいよ私とアリギエーリ侯爵の決闘が始まります。
私の後ろには家臣の騎士団員達。
アリギエーリ侯爵の後ろにも、騎士団員と寄子達。
ですが、アリギエーリ侯爵の側近がいません。
ダンテ王子を誘惑した令嬢のいる、寄子貴族達の顔が見えません。
アリギエーリ侯爵が自分の名誉を守るために粛清したのでしょう。
ようやく自分が間違っていた事に気がついたようです。
自分のプライドを守るために、皆殺しにしたのでしょう。
まさかこの期に及んで匿ったり逃がしたりはしていないはずです。
ある意味アリギエーリ侯爵は小者なのでしょうね。
どうせならこれを好機ととらえて独立戦争を仕掛ければいいのに。
私に言われた事がよほどこたえたのでしょう。
アリギエーリ侯爵が一気に老け込みました。
昨日会った時より確実に20歳は歳を取ったようにみえます。
フルアーマープレートを着こんでいても分かるくらい身体が小さくなっています。
昨日のままでも楽勝でしたが、これでは勝負になりませんね。
でも、手は抜きませんよ。
「……全ては俺の不明が元凶だった。
言い訳だと思われるのも分かっている」
「分かっているのなら、何も言うべきではありませんね。
貴男が何か言えば言うほど、ご先祖様の名誉まで地に落ちますよ」
「くっ、そんな事はエレナ嬢に言われなくても分かっている!
それでも、言わない訳にはいかないのだ」
「どうせ、証人となる者達を皆殺しにしてしまったのでしょう?
卑怯下劣すぎて、まともに相手をする気にもなりません。
それでも、鼻が曲がるほど性根の腐った相手でも、決闘しなければいけなんて、私は何て不幸なのでしょう」
こんな嫌味な言い方は好きではないのですが、これくらい言っておかないと、アリギエーリ侯爵と次代の当主を抑え込めません。
軍事と外交のアリギエーリ侯爵家とは思えないくらい、脳筋になってしまいましたから、身体と心にマリーニ侯爵家の恐ろしさを叩き込まなければいけません。
頭に理解させる事も、記憶として残させる事も無理でしょう。
「くっ、エレナ嬢の言う通りだ。
ダンテ王子を誘惑した家の連中は皆殺しにした。
俺をレイヴンズワース王国に寝返らせようとしていた側近も殺した」
「トカゲの尻尾切りですか?
ますます卑怯で下劣な本性が表に出てきましたね」
「……もう言い訳はしない。
言葉ではなく剣で証明する。
手加減せずに叩きのめしたうえで、賠償について話し合わせてもらう」
「随分と大きく出られましたわね。
私が売国度に負ける訳がないでしょう」
「うぉおおおおお!」
アリギエーリ侯爵が剣を大上段に振り上げて突っ込んできます。
私を女だと思って舐め切っています。
これ以上私の舌鋒に耐えられないと思ったのでしょう。
それにしても、互いに貴族として軍馬に跨りランスを持っているのです。
そのまま馬上槍試合に持ち込めばいいモノを、ランスを捨てて剣に持ちかえたのは、私を無傷で捕らえて自分の自尊心を守る気なのでしょうか?
「笑止!」
兜もかぶり直さずに戦いを始めた馬鹿を教育してあげましょう。
対峙している私の実力すら見抜けないなんて、未熟にも程があります。
自分の心身を鍛えて強くなったのではなく、持って生まれた剛力だけを強くして、力まかせで勝ってきただけの最強称号なのでしょう。
実戦で、命を賭けた戦いをした事がないのかもしれません。
汚いと言われようと、どのような卑怯な手段を使おうと、生き残って家族の元に帰るという、強烈な想いを持った敵と戦った事がないのでしょう。
出世のために侯爵に勝たせて褒め称えるような、阿諛追従の輩に囲まれていては、本当に戦士には成れないのです。
グワッシャーン!
「いつまで寝ているのですか?
それでも軍事と外交のアリギエーリ侯爵家当主ですか!
さっさと起きてかかって来なさい!」
何が起こったのか分かっていないようです。
やはり、死線を潜り抜けるような戦いは、1度もした事がないのでしょう。
「手加減して脚だけを狙ってあげました。
私がその気なら、喉を突いて殺す事もできたのですよ。
そんな腕では、私のお兄様達どころか、分家の女子供にも勝てませんよ!」
「ウォオオオオオ!」
よほど恥ずかしかったのでしょう。
右大腿骨を粉砕されたにもかかわらず、大声をあげて立ち上がろうとしました。
ですが、右大腿部を粉砕骨折していては立つ事などできません。
無様に何度もひっくり返り、地面を這いずり回るだけです。
「見るに耐えませんね!
もう諦めて降参されてはいかがですか?
どうしても戦いたいと言われるのなら、騎士の情けです。
介添の騎士に助けてもらう事を許してあげます」
「あああああ!」
頭の悪さは認められても、騎士として弱い事は認められないのでしょう。
支えようとした介添騎士を振り払い、這うようにして馬に跨りました。
馬は誰かに調教してもらったのでしょうか?
無様で身勝手な主が背に跨るまで、じっと我慢しています。
賢い子ですね、私がもらってあげましょう。
「死ね!」
先ほどまでは私を捕らえる事でちっぽけな自尊心を守る気だったのでしょうが、今は私を殺す事で自分の弱さから目を背けようとしています。
本当に情けない男です。
こんな男に大切な国境の護りを任せなければいけないとは、哀しすぎます。
グワッシャーン!
今度は左肩関節を粉砕してあげました。
普通の魔術治療では絶対に元通りにはなりません。
整復する事ができなくては、ケガは治っても関節としては意味を成しません。
骨は繋がっても、バラバラになった骨全ての間に骨質が再生して癒着してしまい、肩関節がピクリとも動かなくなるのです。
どうしても元通りにしたいのなら、左胸部から左腕を斬り落とし、普通では絶対に手に入らない最高級回復薬を飲むしかありません。
そのような回復薬が作れるのは、南北両大陸を併せても私だけです。
「これでお終いですか?
何と情けない。
わざと負けてくれる家臣や寄子だけを相手をしていたのでしょうね。
それで王国最強を名乗るなんて、恥かしくないのですか?」
「ワァアアアアア!」
アリギエーリ侯爵が半狂乱になっています。
唯一のプライドも粉々に砕かれたんですから、仕方がない事でしょう。
ですが、ここで止める訳にはいきません。
もう2度とこのような当主が国境を守る事になってはいけないのです。
もう3年、いえ、2年遅かったら、アリギエーリ侯爵は完全に側近の言い成りになっていたでしょう。
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