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第二章
第二十六話:いかさま賭博
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梅一が熊の旦那に話していた通り、町奉行所が入れない寺社地の正宝寺内に、博徒が賭場を開いていた。
しかもそこには座頭がいて、負けて一文無しになった客を相手に、高利の金を貸しているのだ。
熊の旦那は博打場の雰囲気を嗅ぎ分けていた。
明らかに特定の人間を狙っている視線が感じられた。
その男は御家人のようだったが、剣の修業はろくにしていないと分かった。
少しでも剣の修業をしていれば、自分を狙う視線に気がつくはずだ。
そして、使われている賽子に細工がしてあることにもだ。
熊の旦那はとても慎重になっていた。
仇討ちを成し遂げるまでは絶対に死ねないと思っていた。
だからこそ、賭場に出入りする前に学べることは全て学んでいた。
一時同僚であった長谷川平蔵に頭を下げで、賭場の作法を教えてもらった。
若い頃には本所の鐵とまで言われた長谷川平蔵は、賭場の色々な作法や事情を教えてくれたが、その中にはいかさまを見抜く方法もあったのだ。
この賭場で行われているいかさまは、鳴針入の賽子を使ったものだった。
賽子に小さな針を付けていて、壺を引いた時に鳴る音で賽の目を知るのだ。
そして壺を引くときに思いのままの賽の目にする。
ここには御家人の客が多いから、粉引きや都奈技の賽子を使ったり、床下に人を潜ませて賽子を転がしたりしたら、見抜かれる可能性があるから鳴針入の賽子を使っているのだろう。
「旦那、狙われている御家人の娘さんは本所でも美人で有名なんですよ。
このまま上手くいけば、その娘さんを吉原に売ることができます。
何なら直接御大尽に売る事も出来ます」
「ふむ、御家人の娘ならば、家ごと乗っ取るという方法も使えるか」
「はい、そうなんです。
美人の娘さんと結婚して養嗣子となり、徒士の御家人株を手に入れる。
客からは最低でも千両を引き出すことができます。
それをいかさま博打に引き込んで百両ほどで手に入れる。
丸々千両の金が手に入ります」
梅一が抑えきれない怒りの感情を見せながら話す。
「親が娘だけ売って御家人株を売らなかったらどうする」
こんな話を聞かされても、熊の旦那の冷徹さは変わらなかった。
「いかさま博打にのめり込んだ客は、そう簡単に博打を止められません。
適度に勝たせながら、徐々に千両まで負けるようにするでしょう。
もしかしたら、検校の誰かが裏にいるかもしれません。
だとしたら千両どころか万両だって惜しみませんよ」
「才のない者が御家人でなくなるのは仕方のない事だ。
武士としてちゃんと己を鍛えていれば、いかさまなど簡単に見破れる。
それで、今直ぐやるのか、それとも貯めた金を盗んでからやるのか。
某はどちらでも構わんぞ」
しかもそこには座頭がいて、負けて一文無しになった客を相手に、高利の金を貸しているのだ。
熊の旦那は博打場の雰囲気を嗅ぎ分けていた。
明らかに特定の人間を狙っている視線が感じられた。
その男は御家人のようだったが、剣の修業はろくにしていないと分かった。
少しでも剣の修業をしていれば、自分を狙う視線に気がつくはずだ。
そして、使われている賽子に細工がしてあることにもだ。
熊の旦那はとても慎重になっていた。
仇討ちを成し遂げるまでは絶対に死ねないと思っていた。
だからこそ、賭場に出入りする前に学べることは全て学んでいた。
一時同僚であった長谷川平蔵に頭を下げで、賭場の作法を教えてもらった。
若い頃には本所の鐵とまで言われた長谷川平蔵は、賭場の色々な作法や事情を教えてくれたが、その中にはいかさまを見抜く方法もあったのだ。
この賭場で行われているいかさまは、鳴針入の賽子を使ったものだった。
賽子に小さな針を付けていて、壺を引いた時に鳴る音で賽の目を知るのだ。
そして壺を引くときに思いのままの賽の目にする。
ここには御家人の客が多いから、粉引きや都奈技の賽子を使ったり、床下に人を潜ませて賽子を転がしたりしたら、見抜かれる可能性があるから鳴針入の賽子を使っているのだろう。
「旦那、狙われている御家人の娘さんは本所でも美人で有名なんですよ。
このまま上手くいけば、その娘さんを吉原に売ることができます。
何なら直接御大尽に売る事も出来ます」
「ふむ、御家人の娘ならば、家ごと乗っ取るという方法も使えるか」
「はい、そうなんです。
美人の娘さんと結婚して養嗣子となり、徒士の御家人株を手に入れる。
客からは最低でも千両を引き出すことができます。
それをいかさま博打に引き込んで百両ほどで手に入れる。
丸々千両の金が手に入ります」
梅一が抑えきれない怒りの感情を見せながら話す。
「親が娘だけ売って御家人株を売らなかったらどうする」
こんな話を聞かされても、熊の旦那の冷徹さは変わらなかった。
「いかさま博打にのめり込んだ客は、そう簡単に博打を止められません。
適度に勝たせながら、徐々に千両まで負けるようにするでしょう。
もしかしたら、検校の誰かが裏にいるかもしれません。
だとしたら千両どころか万両だって惜しみませんよ」
「才のない者が御家人でなくなるのは仕方のない事だ。
武士としてちゃんと己を鍛えていれば、いかさまなど簡単に見破れる。
それで、今直ぐやるのか、それとも貯めた金を盗んでからやるのか。
某はどちらでも構わんぞ」
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