77 / 88
第四章
第七十七話:追い込み
しおりを挟む
明六つ早々に読売りが衝撃的な内容の瓦版を売っていた。
その内容は、御典医の池原雲伯の屋敷を襲ったのは薩摩藩だと言うのだ。
しかも襲った理由が、徳川家基暗殺の口封じだという。
息子を次期将軍にするために、一橋治済が松平定信と島津重豪を味方に引き込み、池原雲伯を脅迫して徳川家基を毒殺させたという、にわかには信じられない内容だ。
だが噂好きで、特に御上の悪口陰口が大好きなが江戸っ子だ。
真偽不明の内容であろうと瞬く間に江戸御府内に広まる。
それにまったくの嘘偽りという訳ではない。
現に将軍を継ぐはずだった徳川家基が死んでいる。
その点が不審だったからこそ、田沼意次が殺したという噂が広まったのだ。
そして先日池原雲伯の屋敷が襲われている。
「よう、聞いたかい、徳川家基殺しの話し」
「ああ、聞いた聞いた。
一橋治済が松平定信と島津重豪を使ってやらせたんだって。
しかし、あれは田沼意次がやらせたんじゃなかったのか」
「いや、自分たちがやっておいて、御老中に罪を擦り付けて、自分が公方様の後ろ盾になって好き勝手するための悪事だったらしいぞ」
「なんて不貞奴らだ。
そんな悪党をよく公方様も野放しにしているな」
「そりゃあ、相手は天下に武名隠れもない薩摩藩だぜ。
戦になるとなりゃ天下を巻き込んだ大戦になる。
公方様もそう簡単には決断できまいよ」
「なんでぃ、そりゃあ。
そりゃいくらなんでも意気地なさ過ぎるぜ。
自分の子供を殺されて、下手人を成敗できないようで、よく武家の棟梁を名乗れるな、根性がなさ過ぎるぜ」
「おい、おい、そんな事を口にすると、町奉行所にしょっ引かれるぜ」
「へん、子供の仇も討てない公方様の配下なんぞ怖くもなんともねえぜ。
しょっぴくてぇいうんなら、いつでもしょっ引いてみやがれってんだい」
江戸中で同じような内容が大っぴらに話されていた。
全ては梅一の養父と養祖父が考えた事だった。
仲間を殺した者たちを徹底的に追い込むための方法だった。
直接の犯人には報復したが、関係者全員を、特に黒幕の一橋治済にも報復したい。
だが島津重豪を殺したので、一橋家と白河松平家の警備は厳重になっている。
そこに忍び込んで二人を殺すのは事実上不可能だった。
だから幕府の手で殺させる作戦に出たのだ。
その作戦は見事に当たった。
成功するかはこれからの状況しだいだが、少なくとも一橋治済と松平定信と島津重豪が徳川家基を殺したという噂は、真実味を持って御府内の隅々に広まった。
配下が集めてきた話からは、大名旗本の家臣が瓦版を買っているそうだ。
当主に報告して家の方針を考えるためだと思われた。
幕閣の判断には、大名旗本の反応だけでなく町方の評判も影響を与える。
そう考えて読売りを使って大量の瓦版を作らせたのが成功していた。
その内容は、御典医の池原雲伯の屋敷を襲ったのは薩摩藩だと言うのだ。
しかも襲った理由が、徳川家基暗殺の口封じだという。
息子を次期将軍にするために、一橋治済が松平定信と島津重豪を味方に引き込み、池原雲伯を脅迫して徳川家基を毒殺させたという、にわかには信じられない内容だ。
だが噂好きで、特に御上の悪口陰口が大好きなが江戸っ子だ。
真偽不明の内容であろうと瞬く間に江戸御府内に広まる。
それにまったくの嘘偽りという訳ではない。
現に将軍を継ぐはずだった徳川家基が死んでいる。
その点が不審だったからこそ、田沼意次が殺したという噂が広まったのだ。
そして先日池原雲伯の屋敷が襲われている。
「よう、聞いたかい、徳川家基殺しの話し」
「ああ、聞いた聞いた。
一橋治済が松平定信と島津重豪を使ってやらせたんだって。
しかし、あれは田沼意次がやらせたんじゃなかったのか」
「いや、自分たちがやっておいて、御老中に罪を擦り付けて、自分が公方様の後ろ盾になって好き勝手するための悪事だったらしいぞ」
「なんて不貞奴らだ。
そんな悪党をよく公方様も野放しにしているな」
「そりゃあ、相手は天下に武名隠れもない薩摩藩だぜ。
戦になるとなりゃ天下を巻き込んだ大戦になる。
公方様もそう簡単には決断できまいよ」
「なんでぃ、そりゃあ。
そりゃいくらなんでも意気地なさ過ぎるぜ。
自分の子供を殺されて、下手人を成敗できないようで、よく武家の棟梁を名乗れるな、根性がなさ過ぎるぜ」
「おい、おい、そんな事を口にすると、町奉行所にしょっ引かれるぜ」
「へん、子供の仇も討てない公方様の配下なんぞ怖くもなんともねえぜ。
しょっぴくてぇいうんなら、いつでもしょっ引いてみやがれってんだい」
江戸中で同じような内容が大っぴらに話されていた。
全ては梅一の養父と養祖父が考えた事だった。
仲間を殺した者たちを徹底的に追い込むための方法だった。
直接の犯人には報復したが、関係者全員を、特に黒幕の一橋治済にも報復したい。
だが島津重豪を殺したので、一橋家と白河松平家の警備は厳重になっている。
そこに忍び込んで二人を殺すのは事実上不可能だった。
だから幕府の手で殺させる作戦に出たのだ。
その作戦は見事に当たった。
成功するかはこれからの状況しだいだが、少なくとも一橋治済と松平定信と島津重豪が徳川家基を殺したという噂は、真実味を持って御府内の隅々に広まった。
配下が集めてきた話からは、大名旗本の家臣が瓦版を買っているそうだ。
当主に報告して家の方針を考えるためだと思われた。
幕閣の判断には、大名旗本の反応だけでなく町方の評判も影響を与える。
そう考えて読売りを使って大量の瓦版を作らせたのが成功していた。
1
あなたにおすすめの小説
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる