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9話

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「ごめん!」

 あ?!
 エヴァ?!
 私が、私が殺さなければいけなかったのに、汚れ役を引き受けてくれました。
 家臣の分際で、主人を弑逆した不忠者と陰口を言われることになります。
 今までは、さっきまでは、ファンケン公爵家一の忠臣。
 ファンケン公爵家最強の騎士と称えられていたのです。
 その名声を捨てて、両親を殺さなければいけない苦境から私を救ってくれました。
 ですが、この忠誠心に甘えるわけにはいきません。
 忠誠心溢れる奉公には、それに報いるだけの褒美を与えなければなりません。
 しかし、エヴァに即物的な金銀財宝を与えても逆効果です。
 誇り高い忠誠心に泥を塗ってしまうことになります。

「よく助けてくれました、エヴァ。
 私を親殺しにしないために、自ら汚名を着てくれたのですね。
 エヴァ忠誠心、死ぬまで忘れません。
 ですがファンケン公爵家当主として、エヴァ忠誠心に甘えるわけにはいきません。
 この殺害は私の命令でエヴァが行ったモノです。
 エヴァが勝手に主人を弑逆したモノではありません。
 分かりましたね?!」

「「「「「はい!」」」」」

 集まってきた我が家の家臣たちが、一斉に礼をとってくれます。
 貴族らしい、ファンケン公爵家当主らしい言動がとれたようです。
 貴族は常に家臣たちに試されています。
 特に当主は、自分たちの地位と生活を護ってくれる能力があるかないか、家臣たちに試されているのです。

 とても厳しい立場ですが、それが貴族の責任です。
 貴族として大きな特権を与えられた者の義務です。
 当主が馬鹿で貴族家を潰されるようなことがあれば、家臣は家族と一緒に路頭に迷うことになるのです。
 貴族家が潰れなくても、勝手向きが悪くなれば、家臣の生活も苦しくなるのです。
 貴族家の当主が家臣から厳しい目で見られるのは当然の事なのです。

「留守居役は王家に両親が病死したと報告しなさい。
 家督は私が継ぐと伝えてください。
 今なら何の掣肘も加えられないでしょう。
 王都家老は両親の葬儀の準備をしなさい。
 王都次席家老は家中の引き締めを行いなさい。
 ただ、私に叛意を持つ者であろうと、殺す事は許しません。
 勝手に殺した場合は、あなた自身の悪行を隠蔽するために口封じしたと判断して、あなたと一族一門を皆殺しにしますよ。
 分かりましたね。
 エヴァには私の護衛を命じます。
 直ぐに動きなさい」

「「「「「はい!」」」」」

 疲れました。
 芯から疲れ果ててしまいました。
 今日一日であまりに多くの事が起こり過ぎです!
 明日からまた激動の日々でしょう。
 いえ、今も激しく状況は動いています。
 ですが、もう、限界です。

「少し眠ります、エヴァ。
 護衛を任せましたよ」

「はい、ファンケン公爵閣下」
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