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第3章

第51話:シャルマン公爵リドワーン卿

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 王宮での出来事をスライム達を通して確認した俺は、覚悟を決めて登城した。
 いよいよ来るべき時が来たと、身の引き締まる思いだった。

 これからは今までと同じように行動する事はできない。
 今まで以上の視線が常につきまとい、言葉一つ、わずかな素振り1つで、弱小貴族や士族が右往左往することになるのだ。

 急ぎ国王陛下と謁見したいと侍従に伝えると、全く待たされることなく案内されたが、こんな事は普通では考えられない事だ。

 よほど国王陛下の寵愛を得た者でなければ、数日待つのが当たり前で、国王陛下や侍従の不興を買っていたら、謁見を許されない事すらあるのだ。
 まあ、今の俺の立場で謁見を許されないはずはないのだけどね。

「おお、よく来てくれた、リドワーン卿、大体の事は分かっているな」

 謁見の間に案内されると、直ぐに国王陛下が声をかけてきた。
 とても不敬な言葉遣いだが、心の中での事は許して欲しい。

 俺の本性は臆病なくらい慎重で、しかも人付合いが苦手なのだ。
 前世では直ぐに円形脱毛症とチックが発症するほど小心者だったのだ。
 そんな本性は、転生したとしても変わらないのだよ。

「はい、スライム達を通して知りましたが、正式なお言葉をいただくまでは、勝手な事はすべきでないと考えております」

 愛するカチュア王太女殿下と結婚したい一心で、なけなしの根性をふり絞って立派な貴族を演技しているのだ。

 俺がラノベで書かれやアニメで映像化されている勇者の様な性格だったら、追放された時に挙兵していた事だろうさ。

 いや、ラノベやアニメなら、話を盛り上げるためにもっと不利な状況で追放されていたかもしれないな。

「うむ、よくぞ申した、それでこそカチュアの王配に相応しい。
 これからも国内では常にカチュアを立ててやってくれ。
 ただリドワーン卿がその気なら、他国を攻め取って王を名乗り、国王としてカチュアと結婚してくれても構わないのだぞ。
 そうすれば2人の間に生まれた子供は、連合王国の大王になれるからな」

 おい、おい、おい、国王陛下は俺をノイローゼで殺す気か。
 一国の民の命と生活を背負うなんて重圧、俺の性格でできる訳がない。

 そんな事になったら、毎夜悪夢にうなされて心身が消耗してしまう。
 不完全な良心を持っているせいで、自分の浅学非才無能が心痛になるのだよ。

「滅相もない事でございます。
 私のような浅学非才で無能な者が、民の命と生活を支える事など無理な事でございます。
 そのような大役は、生まれ持っての王たるクラリス王太女殿下にお任せします」

「とは申しても、多くの家臣や寄子貴族がリドワーン卿を頼みにしている。
 シャルマン公爵もようやくその事に気がついたようで、隠居願いを出してきた。
 謙遜も過ぎれば嫌味になる。
 リドワーン卿にはシャルマン公爵家を継いでもらう」

 やれ、やれ、体裁を整えるのも大変だ。
 父も俺の本当の実力を知って絶対に勝てないと観念していたのだろうが、意地と見栄で素直に隠居できないでいた。

 結局派閥の貴族が軍勢を繰り出し、家臣が蜂起して捕らえられるという大恥をかいてしまったのだから、父も引き際を間違えてしまったな。

「承りました、浅学非才の身ではございますが、大役引き受けさせていただきます」
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